震える手、ぼやける視界(1段階 技能教習2と3)
2017年8月30日。とうとう本物の車を運転する時がくる。
この日は2枠分の技能予約をしておいた。時間は7時限目と8時限目で、2時限連続で乗車する。教習は午後からだったので、午前中は運転教本を読み、実際に体を動かして発信停止の手順やハンドル操作をイメージした。
教習所に通いに来る人のほとんどは運転が楽しくて運転がしたくて来ているのだと思う。でも僕はこれっぽっちも運転してみたいなんて気持はなかった。
自宅でのイメージトレーニングを終えた後は、食欲も無かったが無理してカップ焼きそばを食べて、午後3時になったところでスクールバスの乗合所に向かう。予定到着時刻より遅れてきたバスの運転手さんはいつも見かける高齢の運転手さんではなかった。なんだか色々調子が狂うなと思いながら、スマホでまとめサイトをハシゴして気を紛らわしている内に教習所に到着。配車券を受け取ってロビーで待機。定時の5分前になったところでスタッフ用の階段から教官たちが続々と降りてくる。教官に次々と教習生が名前を呼ばれていく中、僕の名前も聞こえてきた。
いよいよか。
人がごった返すロビーで自分の名前を呼んでいる人ー30代くらいの男性の教官ーを見つけ『よろしくお願いします』と頭を下げる(この時周りの教習生のほとんどがろくに挨拶していなくて驚く)。ネットではここの自動車学校の教官の評判がすこぶる悪かったが、担当教官の第一印象は悪くはなかった。
まあでも、教習が始まったらどうなるかわかんねーよなぁ。
そんな冷めたことを考えつつ、初めてコース内に足を踏み入れる。と、ここで手足の震えが止まらないことに気付く。
自分の為だと気持を奮い立たせて予約を入れたものの、やはり恐怖心は拭いきれなかったようだ。
車は他の命を奪いうる鉄の塊。子どもの時に刻まれた悪印象を変えるのは容易なことではない。それでもここまで来てしまったのだから今更逃げる訳にはいかない。僕は震える右手で左腕を掴み、教官の後に続き、教習車の助手席に乗り込む。
まずは見本を見せてくれるようだ。発進の手順、ギアを変えての走行、停止、急発進、急停止。一通り説明を受けた後、運転交代。
まずは座席を合わせて、ルームミラーの位置を調整して、シートベルト付けて、ブレーキとクラッチ踏んでハンドブレーキがかかっているのとギアがニュートラルにあるのを確認。問題なければエンジンをかける、で良いんだよな?
教本の内容を思い出しながら、一つ一つの動作をこなしていく。
よし、バッチリだ。
ほっと安堵したのも束の間、エンジンがかかるとすぐに発進するよう教官に言われる。
えーと、発進はまずギアをローにして、ハンドブレーキ下ろして、ブレーキから足を離してアクセルペダルを踏んで、クラッチペダルを上げていって半クラッチの状態にするんだったな。
その辺は自宅でさんざんイメージトレーニングをした部分だ。半クラッチを作るのに若干慎重になりすぎたが、問題なく発進。
な、なんだよ。全然難しくないじゃないか。
道路脇からコース内に入り、途中ギアを変えたり、停止したりしながら外周をぐーるぐる周る。直線で加速しろみたいな時意外は割と落ち着いて運転できる。それでも常に恐怖心はあった。
自分が事故を起こしてしまったらどうしよう。人をはねてしまったらどうしよう。動物を傷つけてしまったらどうしよう。溢れる不安は留まることを知らない。教習中は教官が隣にいるから安心だと言うが、狭い空間でよく知りもしない他人と二人きりでいることは、それはそれで苦痛を助長させるだけでしかない。震える手は治らず、恐れの所為なのか、視界がぼやける。その状態でなんとか運転を続けていたが、最後までミスもなく順調に終わらせることはできなかった。外周を走っている際、前の車があまりにも遅く、このままでは追突すると思い、ブレーキを踏んだところでエンストしてしまったのだ。
うげぇ!めっちゃ怖い!
車体が激しくガタガタ揺れて停止し、恥ずかしいやら恐ろしいやらで頭が真っ白になる。隣にいる教官に『速度が遅い時にクラッチ踏まないとエンストするよー』と言われて、そういえばそう書いてあったなと我に返る。その後はエンストすることなく無事教習終了。小休憩を挟んだ後、再び教習開始。
先程乗ったばかりなので今回もうまくいくだろう。そんな風に思っていたが、まず発進がうまくいかずエンスト。前の時間できちんとできていたのだが、停止時にクラッチを踏み忘れてエンスト。エンストに次ぐエンスト。エンスト地獄。幸い優しい感じの教官だったので怒られはしなかったが、若干呆れられてしまった。
おかしいな。こんな筈じゃなかったのに。
どうやら1回目の教習で集中力を使い切ってしまったようだ。ミスを連発する。さすがに教習時間の終わり辺りでは落ち着いてきてはいたが、1回目と比べたら散々な出来だった。
早いとこ教習所を卒業したかったので、1日2回と上限まで予約を入れたものの、疲れて下手になってしまうのであれば2時限連続の教習は考えものかもしれない。そうは思っても、やはり焦る気持を抑えることはできず、次に予約をする時も2時限連続で入れてしまうのであった。