4話 静かな領域
木々の間から差し込む木漏れ日が魔法の森を照らし ていた。霊夢と魔理沙は大きな切り株に座り雑談を交わしていた。
「なあ霊夢、あのナッキーって奴そんなに強いのか?」
「少なからず妖怪と肩を並べられるぐらいの力があると思ってもいいわね」
「そんなにかよ…」
「てか、あいつ遅いわね」
雑談を交わしているとガサガサと草を掻き分けながらこちらに向かってくるナッキーが見えた。
「よっ!お二人さん、待たせたな」
「随分と遅かったけど何かあったのか?」
「昨日の事の調査をしていたら今日の約束をど忘れしちまったんだ…」
「仕方ない人ね…まあ、そんな事よりも勝負のルールはどうするの?」
ナッキーは暫く考えてからこの様な提案を出した。
「そうだな…相手を戦闘不能もしくは降参させたら勝ちってのはどうだ?」
「それでいいわよ。魔理沙、審判役お願いね」
「はいよ」
二人は軽く準備運動をして戦闘態勢に入った。それを確認した魔理沙は合図を出した。
「それじゃあ、試合開始だぜ!」
すると、合図と同時にナッキーが一瞬で霊夢との距離を詰めた。
「早っ!?」
「先手必勝だよ」
ナッキーは霊夢に回し蹴りを当てようとするが片腕だけで受け止められた。霊夢は余裕の表情を浮かべていたが蹴りを受け止めた腕を抑えていた。どうやらノーダメージというわけにはいかないらしい。すかさず霊夢はナッキーとの距離を離して弾幕を放った。
「さあ、避けれるかしら?」
ナッキーは軽やかな身のこなしで弾幕を回避していったが、最後の一発だけを避けきれず被弾してしまった。その隙を霊夢は見逃さなかった。
「まだ終わらないわよ!」
霊夢はさらに弾幕をナッキーに浴びせ続けた。大量の弾幕を放ったことにより周囲は砂煙に覆われた。
「これだけやれば流石に…って、あれ?」
砂煙が収まったとき、そこにナッキーの姿はなかった。すると霊夢は違和感を感じた。さっきまで木々が風に煽られザワザワと音を立てていたのにそれが突然聞こえなくなった。しかし、木々は揺れていて風に当たってる感覚もあった。そして霊夢はその違和感に気づいた。
「…っ!?」
今、自分は喋ったはずなのに自分の声が聞こえなかった。その場で足踏みをしてもその音は聞こえなかった。その直後、背後から殺気を感じ振り向くと攻撃態勢のナッキーがいた。
「吹き飛べ!」
「しまっ…きゃあ!」
霊夢は森の奥まで飛ばされた。ナッキーが追撃を当てようとするが霊夢は間一髪で避けた。
「あんた…いったい何をしたの!?」
「能力を使わせて貰っただけだ。強いて言うなら音を操る魔法ってところかな?」
「音を操るですって?」
「そうだ、さっき音を聞こえなくしたのは俺の技『静かな領域』、一定範囲の音を聞こえなくする事ができる。そしてお前に当てたのは音を衝撃波に変えたものだ」
「これは中々厄介ね…でも、この程度で音を上げていたら博霊の名が泣くわ!ここからは本気でいくわよ!」
「そうでなくちゃ面白くねぇな!」
「くらいなさい!霊付…」
「おーい!二人とも勝負は一旦中止だ!」
突然、血相を変えた魔理沙が二人の間に割って入った。
「ちょっと!これからが良いところなのに!」
「いいから上を見ろ!」
そう言われて上を見ると、そこにはあり得ない大きさの鷹が空を飛び回っていた。
「ちょっ!何よ、あれ!?」
「こりゃまた随分でかい鳥だこと…」
「てか、あいつこっちを見てないか?」
すると、突然鷹がこちらに急降下を始めた。鷹は霊夢たちを餌だと思っているようだった。
「まずいわよ!早く逃げ…」
「吹き飛べ、デカブツ…」
ナッキーが衝撃波を放ち鷹を弾いた。怯んだ鷹は空へと舞い上がり大勢を立て直した。
「避けれないなら防ぐ、それが戦闘の基本だろ?」
「あんたには驚かされてばかりね…で、この後はどうすればいいかしら?」
「俺があいつの隙を作る、そしたらお前たち二人で大技をあいつに叩き込んでやれ」
「わかったわ、任せなさい」
「了解だぜ!」
大空で旋回する鷹に向けてナッキーが無数の魔法弾を打ち込むが、すべて避けられてしまった。しかし、何故かナッキーは笑みを浮かべていた。
「逆流」
ナッキーが魔法を唱えると、なんと先程放った魔法弾が戻ってきたのであった。鷹は背後から来る攻撃に気づかず全弾が命中した。その衝撃で鷹は下へと落下していった。
「二人とも今だ!」
「いくわよ…霊付『夢想封印』!」
「一気に決めるぜ!恋付『マスタースパーク』!」
二人の渾身の一撃が命中し、鷹はそのまま地面に叩きつけられた。
「さてと、今のうちに捕獲しておこう」
ナッキーはベルトに付いていた鞄から透明なひし形の結晶を取り出し鷹に投げつけた。すると、結晶から眩い光が溢れ出した。光が消えるとそこには鷹の姿がなく、結晶だけが残っていた。
「ナッキー、一体何をしたんだ?」
「これを見てみな」
そう言ってナッキーは拾った結晶を二人に見せつけた。驚くことにその中には小型化された鷹が閉じ込められていた。
「すごいじゃないか!その結晶ってもしかしてマジックアイテムなのか?」
「その通り、でもって俺の手作りでもあるけどな」
「なるほど、これでトカゲも捕まえたんだな」
ナッキーと魔理沙が話し込んでいると、霊夢が何か悩んでるような表情を浮かべていた。
「どうした、霊夢?」
「いや、何か大事な事を忘れているような気がするんだけど…」
それにいち早く気づいたのはナッキーだった。
「そういや勝負まだ途中だったな」
「そうよ!それよ!…といっても今日はもう疲れたからまた日を改めてからにしましょ」
「そうだな、じゃあその時になったら連絡よろしくな」
「はいはい…」
今回の出来事は昼間のほんのひと時の間のことだが、霊夢にとっては長い一日であったのだろう…
脱力した霊夢の背中からはそんな様子が伝わってきた。
二日もかかるとは思わんかったで工藤……