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「季節の流れ」  作者: 海野 幸
第二部 「秋」の世界
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第二章1 『おかしなこと』

 目を開けると、丸くて白いものが視界にうつっていた。

「んん?」

 ナツは寝ぼけ眼に体を起こし、目をこすりながら今自分がどこにいるのか確認する。

 しかし、どうやら考える必要もなかったらしい。今の今までナツが眠っていたのは自分の家のリビングに置かれたソファの上だった。さっき見えていたのは天井の照明。


 なんでオレこんなとこで寝てんだっけ? たしかコナツと出かけたはずじゃ――、


「寒っ!?」

 頭が覚醒し始めたところで異常な寒さを感じた。雨音なんて全く聞こえないのにだ。

「これじゃまるで巨大冷蔵庫の中じゃねえか!」

 大声で独り言を言いたくなってしまうくらいには寒かった。

 ナツはそう叫んだ後エアコンの温度を二十五度に設定し、窓の外に目をやる。空が赤く染まっており、どうやらもう夕方のようだ。

 閉め切っておかないとエアコンをかける意味がなくなってしまうので、窓が閉まっているか確認するため、ナツはソファから立ち上がる。

 床に足をつけた瞬間に足の裏に気持ちの悪い違和感を覚えた。慌てて足を見れば、ナツはなぜか外履きのシューズを履いていた。

「えっ」

 ナツは小さく声をあげ、その場で靴を脱いで玄関にそれを置いてきた。意味がわからな過ぎてナツの頭の中はパニック寸前だ。

 気をとりなおして窓をしめようと外を見たナツは唖然としてしまう。庭に生えている木の葉が、赤く変色していたのだ。いつもは緑色でさぞ元気そうに茂っている葉が、朱色のような色になっていた。

 なんだか訳がわからないながらも異常だということだけは理解したナツは、二階にある自分の部屋に向かい、クローゼットから寒さを凌げそうな服を取ってくることにした。最悪半袖を何枚も重ね着して寒さを凌ごう。

 クローゼットを開けたナツは、またまた仰天してしまった。

 ナツは半袖の服しか持っていないはずだというのに、そこにはいつもの気温のなか着たらさぞ暑いだろうと思われる毛糸で編んだ長袖の服があったのだ。幸い今はこういうものを探していた。

 その服を見つけた後、後ろを振り返り部屋の中を確認する。

「ここ……俺ん家ですよね?」

 今まで経験したことのないくらい寒い上に、庭の葉が変な色になり、そのうえ見たこともないような服が自分のクローゼットに入っている。

 もしかしたら自分の家にとてもよく似た他人の家では無いだろうかという気持ちがナツの頭の中を渦巻いていた。だが見る限り自分の部屋にしか見えない。

 ナツはとにかく寒いので、エアコンをつけた部屋に戻ることにした。

 クローゼットから適当に長袖の服を何枚か手に取り、脇に抱えて小走りでリビングに戻る。

「あー寒い」

 ナツは階段を降りてリビングに戻ったのだが、さっきよりは暖まっているもののまだ寒い。

 とりあえず今着ている半袖の「愛の証」の上から、持ってきた長袖を重ね着していき、体が震えない程度には暖まることができた。

 クローゼットをざっと見て、触るとシャカシャカ音を立てる上着を見つけたのでそれも上から着てみる。

「おお、これは暖かい」

 既に中に何枚も着ているせいでかなり窮屈だが、ナツにとって寒い思いをしなくて済むならそんな問題は無いのと同じだった。部屋が暖まってきたら脱げばいい。

 落ち着いてきたところで状況を確認する。


 まず、どうして自分がこんなところで寝ていたのか、これは記憶を辿っていけばいいだけの問題だろう。

 俺は確か、コナツと出かけていたはずだ。待て、今日は何日だ?


 リモコンでテレビをつけ、番組表を開いて日にちを確認する。


 『5月1日 5時30分』


 ナツの記憶ではコナツと出かけたのは1日、つまり今日だ。だったらナツがリビングで寝ていたのはますますおかしい状況といえる。おまけに靴を履いて寝るなんてどう考えても普通じゃない。

 コナツと昼飯食って、シキと会って、三人で服屋に行って、それから……?

「なんかモヤモヤすんなー」

 どうもその先が思い出せない。今日の朝と同じ感覚だ。まるでその先が無いかのような感覚。


 ってか、俺がここで寝てるならコナツやシキはどこだ。


 ナツは内心焦りを感じていた。自分が靴を履いて寝ていたことから、誰かに眠らされてそのまま運ばれてきたのではないかという考えが頭の端をよぎっていたからだ。


 もし俺が眠らされていたのなら、コナツやシキの安全なんて全く保障されない。だがまずは落ち着くんだ。状況を理解できないと何も行動は起こせない。

 畜生、なんで寝てたのかくらいはわかると思ったのによ。


 部屋が少し暖まってきたので、シャカシャカ素材の上着を脱いだ。

 とりあえずコナツに電話をかけて無事を確認するため携帯を開くと、

「……は?」


 おかしい。おかしいおかしいおかしいおかしい。


 アドレス帳のどこを見てもコナツの連絡先が無い。もともとナツのアドレス帳の履歴には親戚の伯父さんとコナツとシキの名前くらいしかないのだから、見落とすはずなどないはずだ。

 だが無い。

 何度スクロールしてもコナツの名前が無い。というか、コナツとシキの名前がない。その代わりに見覚えの無い名前ばかりが並んでいた。一体どこで知り合ったのかも記憶に無いものばかり。

「なんなんだよ……」

 さすがにナツも怖くなってきた。どう見ても自分の携帯のはずなのに、アドレス帳は見覚えの無いものならば殆どの人間が少なからず焦るはずだ。

 状況が把握できず焦りの加速してきたところに、さらに不安要素が積み重なる。

 ナツが携帯の画面を消してテレビの前のテーブルにそれを放ると、廊下に続く扉の小窓に白い人影がうつるのを見た。


 さっき俺がリビングを出たときは誰もいないように見えたが……。


 それを見たナツは音を立てず、小窓に自分の姿がうつらないように扉のそばまで移動した。

 十秒ほど待ってから扉をほんの少し開け、まずは相手の姿を捕捉しようとする。

 どうやらさっきの影は少女のものだったようで、その少女は玄関を降りてドアノブを右手で握りながら足元を見てきょろきょろしている。


 なんだあれは。


 見たところ小柄でナツよりも力が無い、となればナツは強気に出て行く。

「おい、俺の家で何してんだ」

 扉を開け、ナツは大またで少女に近づく。

「うわぁ! あ、あ、すいません!」

 少女はナツの言葉に反応して振り返り、すぐに深く頭を下げて謝った。

「はぇ?」

 てっきり空き巣か何かで、声をかけたらすぐに出て行くと思ったナツは阿呆のような声を漏らした。

「お、お前、何の目的でこの家に侵入したんだ?」

「いや、私はなんでここにいるのかわからなくって。記憶が途切れてるっていうか……その………」

 「自分と同じだ」と思ったナツは、少しだけだが警戒心を解いた。

「なんで今さっき足元見てきょろきょろしてたのか聞いていいか?」

「この家にいるの怖いから出ようと思ったんだけど、靴が無くって」

「気にせず裸足で出りゃ良かったのに。まぁいい、とりあえず話を聞きたいんだ。ここじゃなんだし上がってくれ。まぁもうあがってるけど」

 ナツは少女をリビングに招き入れた。

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