第一章3 『ファッションセンス』
ちょっと短いお話になってしまいました。
正直読まなくてもストーリーが解らなくなったりしない比較的どうでもいいお話でした。
その後コナツが落ち着くまでナツがくだらない話をし、コナツは少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
そろそろ大丈夫だと判断したナツは、出かけるためにコナツに着替えをするよう言ったのだが、
「あとどのぐらいかかります?」
指示を出してから二十分、未だコナツは部屋から出てこない。
実は、コナツが「怖いからそばにいて」という要望を出してきたためナツがドアの前で待つこととなったのだ。
しかしなかなか出てこないので、ナツはドアにもたれかかり、膝を抱えて座っていた。
「今どんな服着てくか考えてるからちょっと待ってて」
「それはさっきも聞いたよ! あれから何分たってると思ってんの!?」
ナツはコナツが着替えている間ずっとコナツの部屋の前で待たされていた。
十秒ほど待ってもコナツからの返事は無い。
「そろそろ俺も待たされるの飽きてきたんだけど」
「さっき言ったよね?」
「……何を?」
「『俺が守ってやる』って言ったよね?」
「言いましたね」
「もしかしたら不審者が入ってきて私が襲われるかも知れないでしょ! きちっと守りなさいよ! ……それとも、さっきのは嘘だったの?」
コナツはわざとらしく泣きまねを始めた。
「確かに言ったけどさ、そんなSPばりに護衛しますって意味じゃないからね!?」
「あー、気が散るから黙ってて。騒げば騒ぐほど着替えるの遅くなるわよ」
「お腹空いたから早くご飯食べたいんです。お願いしますよ」
そう言った後、ナツはもたれかかっていたドアに突然押された。
「ちょ、どうなってるの」
コナツはナツの存在に気づかず、何度もナツにドアをぶつけてくる。
「痛い痛い! 痛いって!」
ナツは這い蹲りながら必死に前進し、ドアから遠のくことに成功した。
「あ、ナツ」
少し開いたドアの隙間からコナツが「あ、いたんだ」というような表情で顔だけをを出す。
そして勢いよくドアを開きながら声を上げた。
「じゃじゃーん!」
よく見ると、コナツの格好はパジャマからおしゃれな服に切り替わっていた。
それじゃあさっきまで着替える服が決まってないような言い方してたのは俺を驚かすつもりだったってわけか。
サプライズのつもりですか。生憎つい今しがたドアをぶつけられるサプライズを受けたおかげで、とても驚く気にはなれませんよ。
「どう?」
ナツが笑顔から程遠い顔をしていると、コナツから感想を求められる。
「それよりも背中が痛いです」と言うわけにもいかず、
「はは、世界一可愛いですね」
ナツは背中をさすりながらロボットよりも感情のこもっていない声でそう言った。
「じゃ、行きましょ」
「あの、俺の着替えが済んでないんですけど」
「なんで済ませておかないの!? ちゃんとしてよね、もう」
「お前のせいだろ!?」
「だって、怖かったの……」
コナツはまたしても泣く振りを始める。
「それ言っとけば優しくされると思ったら大間違いですよ」
「ばれたか」
そりゃそうだろ。気づかなかったのか。
ナツは珍しく冗談を言うコナツを見て、呆れに似た表情をした。
さっきはあんなに泣いてたのに、今は珍しく冗談を言えるくらいに調子が戻っている。
普段ほとんど冗談なんて言わないコナツが冗談を言うということは、それだけ機嫌が良いということなのだろうか。
……いや、きっとわざとやってるんだろう。
俺に心配させないようにと意図的に気丈に振舞っているだけなんだ。
ならば兄としてするべきことは何か、それは気づかない振りをしてやることだ。
折角の妹のおもいやりをわざわざぶっ壊すこともないだろう。
「じゃ、俺は自分の部屋で着替えるから少し待っててくれ」
「わかった」
ナツが部屋に入りドアを閉めようとすると、
「あ、ダサい服はやめてね」
「そんなこと言われてもな。俺はいいと思っても他の人から見たらダサいことって多いじゃん?」
「多いどころか100%そうね」
「実はな、俺が今着てるシャツも気に入ってるんだ」
ナツは「Ice Evolution」の文字を見せ付けるように胸を張る。
「わかったわ。ダサくてもいいけど近くを歩かないでね」
「ひどい! お兄ちゃんのガラスのハートがブレイク直前です!」
言い終わるとコナツが階段を降り始めたので、ナツはドアを完全に閉めた。