表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界への帰郷  作者: 蟻塚ハチ
4/8

4 助け


 こちらを狩ろうと、闇の中にぎらぎら光る目が、私の動きを追っている。

 私も同じように目の前の獣から視線を逸らさない。

 奥から更に後続が数頭、姿を見せ始める。


 仲間がこれ以上、増えない内に、目の前の敵を片付けるのがいい。

 私は地を蹴り、獣たちに襲いかかった。

 しかし、走り続けた疲労は足に蓄積されている。

 思う程の速さも、力も出ない。

 一頭の胴に喰らいついたが、暴れられて止めを刺すことが出来ない。

 獣の牙が私の腹のかすめ、肉をこそぎ取って行く。

 噛み付いた一頭に止めを刺さない内から、別の獣が私を喰らい殺そうと疾走して来ていた。

 

 咥えているこの獣を盾にする。

 あわよくば、突進して来る獣の角が、この盾を破壊してくれればいい。

 しかし事態はそう上手く運ばなかった。

 私の牙から逃れようと暴れる獣の、長い角が私に腹に刺さる。

 感触から貫通したのが分かった。


『ぅぐっっ!!』


 くぐもった声が漏れる。

 噛み付き捕らえていた力が緩み、それを機に獣は私の牙から逃れてしまう。

 腹には自由になった獣の角が刺さったままで、更に刺し殺そうと前進してくる。

 もう一頭の獣も、目の前に迫っていた。

 それをどうにか切り抜けるため、目前の獣の喉笛に噛み付こうとした時のことだった。


 突然、その獣の姿がかき消える。

 いや、実際に消えたわけではないとすぐに分かった。

 上空に向かって何かが一閃した。

 光を追って上を見ると、上下真っ二つに分かれた獣の体が地面の落ちてくるところだった。

 

『っつ!!』


 腹に衝撃があった。

 私を刺し殺そうとしていた獣も、いつの間にか半分に切り裂かれた状態になっていた。

 私は腹に刺さったままの獣の角とその上半身を、後ろ足で蹴り腹から引き抜く。

 馬鹿馬鹿しくなる程の痛さに、死んだ方が良いのではないかとも思った。

 すぐ様かぶりを振る。

 目前の危機は脱したが、新たな未知の敵が現れたのだ。

 そんな弱気なことを考えている暇はない。


 一体先ほどの光は何だったのか。

 

 少し離れたところで、また獣の断末魔が聞こえた。

 それが数回繰り返されて、差し迫って排除すべき獣の気配は全て潰えた。

 獣を瞬く間に狩り終えた者が、こちらに歩いてくる。

 私が絶対的信頼をおいている、生き物の気配を感じる能力。

 呼吸、音、匂い、体温、それらを感じとる力。

 それが反応を示さなかった。

 

 私の感覚はそこに誰も居ないと言っているのに、僅かな月明かりを反射する細長い武器と、それを手に持つ人間の姿が、私の目には映っている。

 そう、いとも簡単に獣を屠ったのは、たった一人の人間だった。

 その人間は歩いてこちらまでやって来ると、その手の武器、剣を構えて、すっと音もなく切りかかってきた。

 

 少し遅れて私は回避行動に移る。

 一撃目はなんとか、避けることが出来た。

 二撃目、三撃目と、猛追を受ける度、速さが増しているような気がする。

 これだけ避けることが出来たのは奇跡に近い。

 本当に辛うじて、当たらずに済んでいるだけだ。


 次は駄目だ。次は刺されて死ぬ。

 そう絶望的なことが脳裏をよぎった時、はっと気付いた。

 この人間は、私が獣の姿をしているから敵とみなして、襲いかかっているのではないか。


 そう思うが早いか、私は剣を避けて、空中を翻ったと同時に、人間の姿に戻って叫んだ。


「私は人間ですっっ!!」


 着地の衝撃は獣の姿の時とはやはり違う。

 しかも、腹を角で貫かれた傷はそのまま残っている。

 気絶したいほど痛いが、気力で耐える。


 予想は当たっていたようだ。

 人間は、剣を振り下ろすのをぴたりと止めた。


 性別は男だ。

 髪は金髪、目は碧いので、外国人だろう。

 背は関島よりも高い。

 全身を覆うマントのせいで分かり辛いが、その下に着ている衣服がやけに古めかしい。

 ファンタジーや海外の歴史物の小説や洋画で出てくるような服装だ。

 

「……人間?」


 外国人の容姿で日本語を話しても、服装が奇抜でも、銃刀法に違反していたとしても、私は大したことではないと笑い飛ばせる。

 生きているのだから。


「そうです。人間の女の子です」 

  

 力強く言った。

 腹が痛い。


 男はしばらく硬直していたが、驚きから冷めると、視線を横に逸らしながら近寄ってきた。

 羽織っていたマントを脱ぐと、私の体にかける。

 全裸だったので、助かったと、それを有りがたく受け取る。


「すまない。怪我をしているのではないか」


「大丈夫です」


 欠片も大丈夫ではない。

 腹に穴は空いているし、細かい傷で血だらけだ。

 しかしそれは、この外国人のせいではない。

 それに、少しすれば勝手に治ると経験上、知っていた。


 男は一瞬、鋭い目付きをした。

 けれど何も言わず、腰の辺りに巻きつけた鞄から白い布を取り出して、私に差し出す。


「しばらく、傷口に巻いておくといい。何もしないよりはましだろう。顔の血も拭っておきなさい」


 顔も体も、獣と自分自身の血にまみれて酷い有り様だ。

 私は素直に男から白い布を受け取り、そのうちの一枚で顔の血を拭い取った。

 男に借りたマントの下で、もう一枚の白い布を適当に、腹に括り付ける。

 

「色々と聞きたいことはあるが、とりあえずこの森を離れよう。腹の治療もそれからだ」


 腹を貫かれたのは見られていた。

 大丈夫と言い張ったところで、結局そうなるようだ。


「近くに馬を止めている。そこまで移動するが」


「馬……」


 馬で移動をする。

 私は、色々な感情を押し込めて、素直に関島を助けられるかもしれないと、喜ぶことにした。


 極度の緊張状態から解放されて、気が抜けていた。

 気配を感じない男からは、目を逸らさないようにしているつもりだったが、気付けばすぐ傍に男が立っている。

 ごく自然な様子で私を抱え上げようとするので、慌ててその手を逃れた。


「あ、歩けます。大丈夫ですから」


「子どもは大人に甘えるものだ」


 本気で逃れようとする私を、静かな動作で苦もなく捕まえる。

 抱え上げる時も、腹の傷に触らぬようそっと、しかし逃がさぬよう素早く。

 私はそんな人間に出会ったことがなかった。

 男は私の敵う相手ではない。

 そんな男に抱え上げられるなど、恐ろしくて息も吸えない。


「私は、子どもではないです」


「女性ならば、なおのこと男に甘えていればいい」


 甘く微笑まれて、言葉を失った。

 同時に脱力する。

 何を言っても駄目だ。

 時間を無駄にするだけだと判断する。

 この手の人間は苦手だった。


「あっ、待って下さい。連れがいるんです」


 男が歩き出したので、慌てて止める。

 

「仲間がいるのか」


「はい、あっちです」


 私は一方を指差した。


「……分かった。行こう」


 男は私を抱えたまま、移動する。

 獣と争う間に随分、距離を移動していたようだ。

 関島の元に辿り着くまでの時間がやけに長く感じた。

 抱えられて緊張しているせいかもしれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ