2話 髭の老人と魔法の馬車
「今、外に出ようとしたのか?」
その百八十五センチはあるんじゃ無いかと思わせる身長からこちらを見下ろす姿は半端では無い威圧感を放っていた。
ゼビル、予想以上にこええよ。こんな奴が村長なのかよ。
「気持ちは分からんでも無い。生まれてから15年間、お前は今まで一度も家から出たことが無いのだからな。明日の式展でお前は外に出ることを初めて許される。それ以前に出たらこの15年間は無駄になる。一日早いだけでも、だ。お前は賢い、二度同じ過ちは繰り返さないと信じているぞ。いいな?」
「は、はい……」
「よし、良い子だ」
俺が頷くのを見ると「今日は早く寝ろよ」とだけ言い残し、ゼビルは満足したようにリビングへと入って行く。
でもどう言うことだ?俺はまだこの世界に来て数時間しか経っていないから努力も事情も全く知らない。現段階の情報から思いつくのはどれも良く無い予想ばかり、まあ明日あると言う式展の時にでも詳しく聞くとしよう。
今日はもう怒られて疲れた。さっさと自分の布団に入って寝てしまいたい……。
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皆おはよう! 異世界に来たばっかりの俺は今日も今日とて忙しいけど頑張っていこう。
若いっていいな、そんなことを思いつつ朝食の席に着く。そうそう、マアル曰く今日のイベントは俺にとって大人の階段を上る大事なイベントらしい。いろんな意味で期待に胸が膨らむな。
さて、記念すべき異世界での朝食はサンドイッチか。パンは白い食パンが無いのか少し色の濃いパンが出て来たのが印象的である。
「おはよう、マアル、ゼクル」
「おはようございます」」
父、ゼビルもお目覚めのようだ。なんか俺の本当の親では無いとはいえ家族でご飯を食べるのも久しぶりだな。ずっと一人暮らしが続いていたからな。
「さて、そろそろ迎えが来る時間だ」
朝食を食べ終え、談笑をする間も無くその時は訪れた。ゼビルに連れられて、家の扉を開ける。
がちゃり
今度は誰も文句は言わない。寧ろ祝福して居ると言った方がいいだろうか。
「さあ、初めての外だ。どうだ、風が気持ちいいだろう」
すまぬ父よ、つい昨日まで俺は勇人として外に出てたんだ。
そんなことを言えるはずも無いが確かに気持ちはいい。フート村と言う土地だからこそ、と言う事もあるのだろうが周りの家も皆木造で村は緑で溢れかえっているのだ。
家の扉からはまっすぐと道が伸び、みると家の門の前には大きな馬車が止まっている。あまり飾り気の無い黒い馬車だ。
「さあ、あれに乗っていればすぐに会場に着く。心配することは無いさ」
ふむ、乗って見て初めて知ったけど案外馬車の中って割と広いな。それと馬車って聞いて古いイメージを持ったかもしれないが馬車のドアが自動で開いた辺りこっちの世界の技術力は低く無いのかもしれないな。
がたり、
馬車が動き出すと段々馬車を見る余裕が生まれてきた。
馬車の中は外見から想像できないほど広いな。見た目どころか明らかに天井も高い。
「驚きましたかな?」
うおっ、なんだこのじいさん。いつから乗っていやがった?
じいさんは顔にヒゲを肥やし表情は見えないが、何処かの隠居人に似たような服装をして居る。これで印籠とか出したら完璧だな。
「この馬車は魔法を用いた加工がなされて居りましてね、入った物は生き物かどうかにかかわらず半分の大きさになる。だから実際より広く感じるのです」
魔法だと? やっぱりあるのか……魔法……。頭が痛いな、科学を発展させた地球が異端なんじゃないかとか思えてくる……。
まあいい、このじいさんは実に使えそうだ。村長の息子というアドバンテージを最大限使わせてもらおう。
「じいさん、あんた物知りだな。俺はゼクル、このフート村の村長ゼビルの息子だ。俺はまだ外の世界について何も知らない、色々教えてくれないか? 勿論、この事は父にも伝えよう。悪くない相談だろ?」
それを聞くとじいさんの頬の髭は見るからに上がり髭の中からはふぉっふぉっふぉと笑い声が響いている。
「面白い、実に面白いのう。教えてやってもいいが、今わしが教えられることはなにもない物でな。今わしが言えることはこれからお主が行くのは学校であり、この世界の全てが学べるとまで言われてる場所、と言うことだけ。良き学園生活を……グッドラック」
それだけ言い残すとじいさんはすうっと消え去っていった。
二人目だぞ……。なんだ、この世界では消えるのが今キてるのか?
瞬間移動があるのでは。そんな希望を胸にする俺を乗せた馬車はこの国二番目に大きな都市、デオンへと向かって行くのであった。
2話目で式典が終わる予定でした^ ^




