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9/9

 空は雲一つない快晴。山と森に挟まれた広い平地で、数人の男達が鍬を振りかぶり耕している。開拓が始まって間もないのか、耕している範囲はまだ狭い。

 そこへ、光が弧を描きながら飛んで来た。光の線は一人の男のそばに落ちる。

 地面に落ちた大きな光がしだいに治まり、その中から男と可愛らしい女の子が現れた。


「マリア!」


 地面を耕していた男、ノースが手に持っていた鍬を置き、駆け寄ってきたマリアを抱き上げる。


「こんな所まで来てどうしたんだマリア」


 ノースはマリアの目を見る。感情が顔に出ず、喋る事も出来ないマリアとは、マリアの目の動きで意思の疎通を図っていた。

 ノースの質問に、マリアは顔を後ろに向ける。ノースは意地でもそちらを見たくなかったが、マリアが示すのでしかたがなく顔を上げてそちらを見た。


「無視はとは酷いな。なあ、マリア」


 そこには、両手にバスケットを持った魔王が立っていた。


「何であんたがマリアと一緒にいる」


 ノースは魔王を睨む。


「おいおい。せっかく連れて来てやったのにその態度はないだろう」


 魔王はわざとらしく肩を竦めた。


「それに、マリアは俺のものだ。いつ一緒にいようが俺の自由」

「それはお前が勝手に決めた事だ!」


 ノースは魔王を睨み付けたまま怒鳴る。


「マリアが条件だと知っていたら生きたいなどと望まなかった!」


 今のノースは魔王の力によって命を繋げている。

 魔王城で死にかけていた時、マリアを幸せにするまでは死ねないと思い、ノースはこの魔王と契約を結んだ。対価を必要とする契約だったが、マリアの為なら何を犠牲にしてもかまわないと思った。

 しかし、魔王はその代償にマリアを求めたのだ。


「命を与えてやったんだ。お前にとって命と等しいものと引き換えに決まってんだろ。他に何かあればそちらと引き換えてやってもいいが、お前に命と同価値の物がマリア以外にあるのか?」


 その言葉にノースは押し黙る。自分の命を懸けてマリアを救いたかったのだ。マリア以上に大切なものなどない。


「今さら契約の破棄は出来ない。それに、俺は約束を守っただけだ」


 そう言われれば、ノースに言い返す事は出来なかった。


「ほらマリア。これを皆で食べるのだろう?」


 黙ったノースを無視して、魔王は両手に持っていたバスケットを軽く持ち上げ、マリアに笑いかける。

 すると、マリアがノースの腕の中で暴れ出した。下ろしてほしいらしい。

 ノースがマリアを下ろすと、マリアはすぐに魔王に近寄った。バスケットのフタを開け、中から大きな布を取り出す。

 小さな身体で、マリアは必死に布を地面に広げ始めた。


「手伝うよ」


 ノースはマリアの反対側の布を掴み、二人でキレイに広げる。その上に魔王がバスケットを置いた。

 靴を脱いで布の上に乗ったマリアは、急いでバスケットまで行き、中から何かを取り出した。それを持ってノースのそばに戻る。

 マリアは取り出した物をノースに差し出した。


「ありがとう、マリア」


 ノースは紙に包まれた何かを、マリアから受け取る。紙を取ると、中からサンドイッチが出てきた。


「マリアが作ってくれたのか?」


 マリアは頷き、じっとノースを見る。ノースが食べるのを待っているようだ。そんなマリアを見て、ノースはサンドイッチにかぶりつく。


「うん、おいしい」


 サンドイッチの中身は、ノースが好きな卵だった。パンがなかなか手に入らなかったからサンドイッチはたまにしか食べられなかった。なのに、マリアはノースの好みを覚えていてくれたようだ。

 その事が嬉しくて、ノースは笑顔でマリアの頭を撫でる。心なしかマリアが笑ったように見えた。


「サンドイッチたくさん作ったんだな。もしかして他の人の分もあるのか?」


 ノースが聞くとマリアは頷いた。


「じゃあ、皆を呼んでくるな」


 手を振って、ノースは散らばった他の男達を集める。


「休憩にしよう!」


 ノースの呼びかけに気付いた男達が、こちらに集まり始めた。


「俺はそろそろ帰るわ」


 魔王はマリアの頭に手を置き、目線を合わせる。


「あとで迎えにくるな」


 それだけ言って、魔王は来た時と同じように光になって飛んでいった。

 ノースはしばらくその光の先を見ていたが、集まってきた男達の声に振り返る。


「マリアがサンドイッチを作ってきてくれたんだ。皆でお昼にしよう」


 マリアが男達にサンドイッチを配る。男達は笑ってマリアに礼を言い、受け取ったサンドイッチを布の上に座り食べ始めた。

 美味しい美味しいと食べる男達の姿に、マリアは少し満足気だ。

 サンドイッチを配り終わると、マリアは自分の分を持ってノースのそばに来た。マリアがノースの袖を引っ張る。

 座ろうと促されたのに気付き、ノースはマリアと一緒に座った。

 ノースの隣で、サンドイッチを頬張り始めるマリアを見て、ノースは微笑ましい気持ちになった。

 魔王領に暮らしを移してから、マリアの表情は少しだけ和らいだような気がする。きっと何かに追われる事もなく、安心して暮らせるのが大きく影響しているのだろう。悔しいが、その事に関しては魔王に感謝しなくてはならない。魔王はマリアを幸せにするチャンスをくれたのだ。

 マリアの満面の笑みが見られる日は近いかもしれない。




end

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