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 太陽は傾き、街の街灯に火が入り始める。ノースは港の仕事を終わらせ、次の仕事場にいた。酒場のホールでの給仕の仕事で、街で人気の酒場は多くの人々で賑わっていた。


「酒を追加で。あとは……」


 客がオーダーを入れる。料理を載せた丸いトレイを両手に持ち、ノースは客の注文が終わるまで待っていた。


「そういえば知っているか?」


 同じテーブルの男が注文中の男に話しかける。


「また魔王討伐が失敗したらしいぞ」

「ああ、知っている。あとアゴヤの煮付けと」


 男は話を聞きつつ、注文を続ける。


「でさ、今回はかなり金をかけていたせいで、しばらくは討伐隊を出せないらしい」

「ふーん。デゴのたたきと」

「期待はあまりしてなかったが、こうも情けない結果を出されちまうとなあ」

「俺らには関係ないだろ。ドドルドのサラダ」

「まあ、待て。関係あるのはここからだ。しばらく討伐隊が出せない代わりに、魔王討伐の募集をかけるんだと」

「募集?」


 注文の為にメニューから顔を上げなかった男が、やっと喋っていた男に顔を向けた。


「隊を組む金がないから募集をかけてそいつらに討伐させようってわけだ。で、討伐が出来たらそうとうな金が出るらしい」

「ははーん。関係あるってのは討伐に行って一稼ぎしようって事か。バカバカしい。俺らに倒せるわけがないだろう。あとはミミンの丸焼きだな。これで頼む」


 男はメニューを閉じた。


「はい」


 ノースは男に返事をして、やっと離れられると心の中で安堵した。これ以上ここにいたら、料理が冷めてしまう。まだ話している男達のテーブルから離れ、ノースは持っていた料理を注文していた客のテーブルに運んだ。

 他のテーブルの注文も取りつつ料理を全て運び終わったノースは、新たな注文を伝えようと調理場へ向かった。が、その途中でくらりと目眩を感じ、思わず壁に手をついた。


「ちょっと、ノース。大丈夫かい?」


 近くにいた店の女将さんが、ノースを心配して声をかける。


「はい、大丈夫です。すみません」

「あんまり無理するんじゃないよ」

「はい、すみません」


 ノースは慌てて壁から離れた。

 使えない奴だと思われたくない。


「そんな必死にならなくともクビ切りゃしないよ」

「すみません」


 ノースの態度に女将さんはため息を吐いた。


「もういいから。調理場に注文を知らせておいで」

「はい」


 女将さんに頭を下げてから、ノースは急いで調理場に向かった。調理場で注文を伝え、出来上がった料理をまた運ぶ。それからはいつも以上に気を付けて仕事をした。へまをしてクビになるわけにはいかない。人気店で賃金がいい事も辞めたくない理由ではあるが、ノースにとってはこの店で働く重要な理由がもう一つあった。


「いつもありがとうございます」


 仕事が終わったノースは、調理場の裏手に来ていた。抱えるほど大きな布袋を受け取り、ノースは頭を下げる。布袋の中には調理場で出た廃棄食材が入っていた。人気店だけあって廃棄食材の量も多い。ノースは毎日の食事をこの廃棄食材だけで賄っており、仕事を辞めさせられるのはノースにとって死活問題だった。


「ああ、あとこれ頼みたいんだが」


 ノースに袋を渡したコックが、手紙とパンを渡してくる。ノースはそれを受け取った。


「誰宛てですか?」

「ミレーナの館のハンナちゃんに」


 パンを袋にしまい、手紙は上着の内ポケットに入れる。ノースは個人で配達の仕事をしていた。こちらの報酬は現物が多い。始めは移動のついでに頼まれた手紙等を運んでいただけで、ノースはついでの事にお金は貰えないと断っていた。すると、頼んできた相手がお礼として物をくれるようになったのだ。今では現物報酬の配達屋として見られている。この方が相手も頼みやすいらしく、評判も良いのでそのままにしている。


「帰り道で寄れるので、このまま渡しに行きます」

「ああ、よろしく頼むよ」


 ミレーナの館に向かうべく、ノースは歩き出した。

 ミレーナの館に寄ると帰るのが少し遅くなるが、パンは廃棄食材ではなかなか出ないので、ノースにとっては嬉しい依頼だった。

 この手紙を届けたら、家に着くのは夜中過ぎになるだろう。明日、いや既に今日になってしまったが、朝から仕事が入っている。仕事場は家から二時間はかかる距離だ。遅刻しないように家を出るには、あまり寝られない。

 そんな事を考えながら歩いていると、ノースは壁に貼り紙がしてあるのに気が付いた。横一列に大量の紙が長々と貼り付けてある。

 こんなに目立つ貼り方は珍しく、ノースは近寄って、歩きながら流し読みをしてみた。暗かったので、文字の大きな部分しか読めない。


「魔王討伐求む……、褒賞金……」


 酒場にいた男達の会話をノースは思い出した。一生をかけても使い切れないような金額の褒賞金は、確かに魅力的ではある。しかし、それは勝てたらの話だ。国の軍隊をもってしても勝てない相手に、ただの一般人が勝てるはずもない。

 しばらく眺めていたノースは、気になる文字を見付け立ち止まった。


「これは……」


 貼り紙に近寄り、改めて全文を読む。しばらく何か考えていたノースは、いきなり貼り紙を剥がし、それをポケットに突っ込むと足早にその場を離れた。


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