0.プロローグ
人間の内臓を初めて掴んだ時の感触は、とても柔らかくて、温かくて。
あれは、今思い起こしても身震いがする。
腹の底から熱いものがじわじわと全身に広がって、動悸がする。息が荒くなる。頭の芯がぼやけて、白くなって、何が何だか分からない。無性に笑いが込み上げてくる。
あの瞬間、とてつもないエクスタシーを感じた。セックスなんて比じゃない。それ以上の快楽だ。
おまけにまだ温もりを持っていた死体は、日頃その美貌を振り撒いて周囲から持て囃されていた女。けれどもう二度と動くことのない彼女は、唇が苦しげに歪み目も上向き、見るも無惨な顔となっていた。
だがそんな醜態すらも、愛おしく感じた。むしろ生きている時より、ずっと、ずっと美しい。
自らの手で切り裂いた死体の腹部から、腸を握り締め自慰をした。何度も何度も、気の済むまで。生きていた中で最も恍惚とした時間だった。
ああ! あのときの言い知れぬ悦びといったら! あれは凡庸に生きていたんじゃ決して味わうことのできない感動。もしもう一度体験できるのであれば、どんなことでもしよう。何もかも全てをかなぐり捨てたって構わない。あの行為以上に心が動かされるものは、きっともうこの世にはない。
そうだ、もう一度だけ。もう一度だけ、あの快感を。大丈夫。うまくやれば、バレやしない。あれだけの大仕事をやり遂げたんだから、大丈夫だ。次だって、簡単なことじゃないか。