2話
【15歳】
あれから10年。
俺はたくさんの修行をして、剣の扱い方や沢山の魔法を覚えた。村の中では一番の腕前を持っていたし、ミドルスクールでも誰にも負けたことはなかった。
そして今日、俺は村を出て中心都市ラウンドにやって来ていた。今日からここにあるラウンドハイスクールに通うのだ。
ラウンドハイスクールは世界中から実力者達が集まる名門校と言われている。入学には厳しい実技試験が課されるし、何よりもこの高校で認められた者は3年生の末に勇者の選定試験が受けられる。
この10年の間、世界の状況も変わっていた。新しい魔王が現れ、あの勇者さんとその仲間が立ち向かったものの、魔王に敗れて勇者さんは亡くなった。世界は新しい勇者の誕生を待ちわびていた。
俺は、俺に夢を与えてくれた勇者さんのためにも、この高校で認められ、勇者にならなければならない。亡くなった勇者さんのためにも俺が意志を継ぐんだ。
勇者さんに言われた通りに努力を積み重ねてきた俺ならきっとなれるはずだ。努力して村一番の実力を身につけたのだから、この高校でもきっと通用するだろう。
今日は入学式ということもあって、学園の中は多くの人で賑わっていた。
俺は入学式が行われるという式典の間の場所を探すため、学園内の地図を広げていた。すると近くでおお! という人々が驚く声が聞こえた。
見ると、群衆が2人の男子生徒を囲むように円形に集まっている。中心にいる男子生徒は2人とも手に剣を持っており、激しく剣をぶつけあっていた。
よく見ると片方の生徒が優勢のようだ。相手の剣をひらりとかわしたり、自分の剣で防いだりしながら反撃の瞬間を伺っているようだった。
相手の生徒は自分の攻撃が完全に見切られていることに気づいていないのか、無我夢中で剣を振り回している。あのままでは体力を消耗する一方だろう。
意外にも周りで見ている生徒達は攻撃をしている方が優勢だと思っているようで、「そこだ!」や「やっちまえ」と言った野次を飛ばしている。
いや、どうやらそもそも円形に集まっている群衆のほとんどが攻撃を仕掛けている方の生徒の味方のようだった。
こんな入学初日に真剣で切り合っている所からも、あまり穏やかな状況ではなさそうだ。どうすれば良いかと考えていると
キンッ
突然強く金属を叩いたような高い音が周りに響いた。
それは攻撃を仕掛けていた方の生徒の剣が思いきり弾き飛ばされた音だった。生徒の手から離れた剣はくるくると弧を描きながら群集の頭の上を飛んでいくと
「危ねえ!」
俺のすぐ足元に深々と突き刺さった。
「ひぃー!」
群衆の方からは情けない声が聞こえて来た。
先程まで剣をかわし続けていた方の生徒が、剣を失った生徒の首元に剣先を向けていた。
「これに懲りたら二度と彼女に近づくな!」
「近づかない! 近づかないから許してくれ!」
そう言うと剣を向けられていた方の生徒は後退りした後くるりと背中を向けると逃げ去っていった。
「あ、待ってください! 兄貴!」
周りで見ていた他生徒達も逃げた生徒を追うように走っていった。
「ふぅ……」
あとに残ったのは勝者となった、剣を弾き飛ばした方の男子生徒と
「助かったわ。あの人しつこかったのよね」
そう言って男子生徒にお礼を言う女子生徒だけだった。
俺は足元で地面に突き刺さっている剣を抜くと、2人に近づいた。
「なかなかの剣捌きだったな。こっちまで剣が飛んで来たのは驚いたが」
俺がそう話しかけると、話しかけられた男子生徒はこちらをまっすぐ見た。
淡い栗色の髪を耳ぐらいまで伸ばした優しそうな雰囲気の男子生徒だった。その雰囲気とは裏腹に目は闘志を感じさせるような赤色をしている。
「ああ、すまない。もう少し気をつけて弾くべきだったよ」
男子生徒はそう言うと、俺が持っていた剣を受け取った。「これは僕が先生に渡しておくよ」
「それにしても何でこんな日にあんな喧嘩みたいなことをしてたんだ? しかも真剣だなんて」
「それは私を助けようとしてくれたからよ」
傍らにいた女子生徒が言った。
長くまっすぐな髪に紫色の瞳。背中には大きな宝石が付いた杖を担いでいる。男子生徒の方とは反対に強気そうな顔つきの女子生徒だった。
「さっき逃げて行った奴ら、私が持ってる杖が珍しいから寄こせって言って、集団で囲まれたのよ」
「それで僕が気になって注意したら、相手が怒り出して剣を抜いて襲ってきたんだ」
この学園にもそういう非常識な不良みたいなやつらがいるんだな。だが、それを制しようとするこんな立派な人たちもいるんだ。
「なあ、良かったら――」
俺が二人の名前を聞こうとしたその時、
ゴーン
始業の時刻を知らせる鐘の音があたりに響き渡った。
「やばい、もうすぐ入学式が始まる!」
俺があわてて言うと、
「君も新入生なのか! 僕たちもなんだ!」
そう言って2人も近くに置いてあった荷物を急いで背負い始めた。
そうして俺達は入学式の会場に向かって走り出した。
〇
「えーっと、ここが俺の部屋だな」
入学式が終わり、俺は寮の自室の前に来ていた。
ルート村とこの学園がある中心都市との間は距離があり、通うことはできない。俺は今日から寮暮らしだった。
寮は学生2人に1つの部屋が与えられており、俺ももう1人の男子学生と一緒に暮らすことになっていた。
部屋の前にも中にも姿がないことから、もう1人の学生はまだ部屋にたどり着いていないらしい。
部屋の前のネームプレートには俺の名前のウィルの下にもう1つ名前が書かれている。
『レッド』
これがこれから一緒に暮らすことになる学生の名前らしい。
俺は部屋の中に入ると荷物の整理を始めた。
「あ、あった! ここか!」
しばらくして部屋の外から声が聞こえたかと思うと、1人の男子生徒が入ってきた。
「よろしく! 僕の名前はレッド。君は……」
入ってきた生徒はそこまで言うと言葉を詰まらせた。
「……!」
俺も同じように驚いて言葉が出てこなかった。
なぜなら部屋に入ってきたその生徒は今朝出会った不良から女子生徒を守っていた男子生徒だったからだ。
「まさか君と同室になるなんて! すごい偶然だね!」
そう言うと入ってきた生徒――レッドは笑った。
「俺も驚いたな。俺はウィル、よろしくな」
「ウィル君だね。よろしく」
俺達は互いに挨拶をすると、握手した。
まさか今朝出会った生徒とこんな形で再会して、まさか部屋も同じになるとは思ってなかった。
俺はふと、この生徒と再会できたら言いたかったことがあることを思い出した。
「なあレッド君、1つ頼みたいことがあるんだがいいか?」
「ん、なに?」
部屋の中の家具などを確認しながらレッドは返事した。
「俺と手合わせして欲しい」
今朝出会った時からレッドはなかなかの腕前の持ち主だということはわかっていた。だったら今の俺の実力とどっちが上なのか確かめたいと思った。
この学園で勇者に選ばれるためには、学園内で優秀な実力を持つ者にならなければならない。それならば今の時点で負ける訳にはいかない。
「手合わせ?」
「いや、朝みたいに真剣でやり合おうって訳じゃないんだ。確かこの高校に修練場があっただろう? そこで模擬試合でもどうかなーって思ってな」
「なるほど、確か木刀とかも置いてあるらしいね。いいよ」
レッドは頷いた。
「じゃあ、今日の夜に1試合だけやろうか」
「本当か! ありがとう!」
こうして俺とレッドは模擬試合をすることになった。




