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白いカラスと駐車場

作者: 諏訪 惠
掲載日:2026/03/01

1.

 ずらりと並んだ車は、一斉にクラクションを鳴らしました。天までも届きそうな高いビルの前、広い駐車場に規則正しく整列した車の上に、見慣れない鳥が飛んできたからです。鳥は優雅に電線に停まると、声高に一声鳴きました。

「ごきげんよう、車の皆さん!」

それはなんと、白いカラスでした。驚いた車たちはクラクションを鳴らすのを止め、ざわざわと話し始めました。

「白いカラスなんて見たことないぞ」

「いつもあそこに停まっているカラスはみんな真っ黒なのに」

「きっとアイツは病気なんだ」

ヒソヒソと囁かれるそれらの声に、白いカラスは怒って言いました。

「僕は生まれつき真っ白なんです。どうしてだかはわかりません。だけど、それが何だというのです?ご覧の通り、僕は立派なカラスです」

バサバサと羽ばたいて見せた白いカラスに、一台の車が言いました。

「白いカラスだって!そんなの聞いたこともない。お前は変わりモノだから、向こうへ行ってくれないか」


2.

 駐車場に並んでいる車たちには、みんな自慢の持ち主がいました。毎日立派な服を着て仕事をし、頭が良くていつも難しい話をしています。持ち主のおかげで車はいつもピカピカに磨かれていますし、腕のいい運転手は決して傷などつけたりしません。車はそれぞれの主人のことをとても自慢に思っているのでした。

 そんなわけですから、白いカラスなんて奇妙なものが駐車場にいるのは、彼らにとって不愉快なのです。

 「僕が誰にふさわしくないだって!」

白いカラスはくちばしを天に突き上げて言いました。

「もし君たちのうちの一台でも、僕のように真っ白な車があったなら、きっとそうは言わなかっただろうね」

「白い車なんてここにはいないさ。そういう車はこの駐車場には入れないんだ」

「そうだろうとも!おかげで僕はまったく君たちを見分けることが出来ないよ」

白いカラスがそう言ったので、車は怒って再び一斉にクラクションを鳴らしました。

何て失礼な、何てあつかましいカラスなんでしょう!車は一台一台確かに違うのです。ガラスのわずかに曇った位置も、タイヤについた土の重さも、今まで走った道やこれから走る道だって、全然違うのです。それがわからないなんて、カラスは何をみているのでしょうか。

 白いカラスは、自分が仲間たちと違っていることを知っていました。何しろ生まれたときから真っ白なのですから、幼いカラスは悩み、悲しみました。どうして自分だけが、両親ともたくさんの兄弟とも違うのでしょう。   

 ところがある日、カァカァと悲しげに泣いていた自分を指さして、一人の子どもが叫んだのです。

「すごい!」

白いカラスは嬉しくなって、大きく羽ばたきました。青い空の真ん中を飛んで見せると、手を叩いてはしゃぐ子どもの声が追い風に乗って聞こえてきます。「白いカラス!白いカラス!」。カラスは大きく一鳴きして、悠々と電線に降り立ちました。それ以来、真っ白な羽はカラスの自慢なのでした。


3.

 高い空から見ると、規則正しく駐車場に並んだたくさんの車は、どれも同じに見えました。まるで他の車と異なることが悪いことであるかのように、すべての車が汚れ一つありません。きっとこの車の持ち主も、似たような人間たちなのでしょう。

 毎日同じような服を着て、同じような物を食べ、同じようなことを言うのです。なんてつまらない!

走る道が違うのならば、車にも違う傷がつくでしょう。それをワックスなどで誤魔化していては、自分のように堂々と空を舞うことなど出来ないのです。白いカラスは羽を広げ、風に乗って舞い上がりました。

「さようなら、車の皆さん。あなたたちの行く道が、少しでも楽しいものでありますように!」。

車たちは相変わらずクラクションを鳴らし続けていましたが、やがてそれも消えていきました。

 夕方になると、車の持ち主たちが高いビルから出て来ます。疲れているだろう主人を迎えようと、車は張り切って夕日に輝きました。けれど人間たちは広い駐車場を見て、車のカギを探しながら呟くのです。「やれやれ、こう広くては自分の車を探すのも一苦労だ。たまには白い車にでも乗りたいものだな」。

そして車も心の中で、「さて、どれが私のご主人かな。たまには白いスーツでも着てくれないか」と思うのでした。


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