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いつもの体のキレがなくて少し時間がかかったものの、午前の仕事を終わらせた。
急いで森に出かける。
自然と足が速くなる。楽しみだからね。ワクワクだ。叡智ちゃんは何を語るんだろう、何を求めるんだろう。
そしてオレに何をもたらすんだろう。
あくまで初期状態なんだ。大それた期待をしてはいけない。いわば学びを始めたばかりの子供だしね。どう教育してあげるか、う~む、お父さんがんばっちゃおうかな。
《訂正します。マスターは、私の父ではありません》
「うわっ、ビビった」
「ってゆうか第一声がソレ!?」
《マスター、声に出す必要はありません。忠告します。誰もいないのに一人でつぶやいてる気持ち悪い人になります》
「昨日、単語でさえおぼつかなかったのにすごい攻めてくるよね!? 学習能力高すぎマウントフジかっ」
《・・・データに無い用語法です。記録保存します》
「やめてっっっ恥ずかしい、叡智ちゃんエグぃ」
《私の名前はAI魔法のアイです。その呼称は不快なのでやめてください》
「とどまることを知らないよこの人っ」
いきなりの発言に驚きながらも少しうれしい。初めての自分の魔法だしね?まずは状況をよく聞いてみよう。いろいろ話もしてみたい。
(まぁ了解したよ。口に出して一人でぶつぶつやってると、オレの人間性が否定されそうだ。ひとまず状況を説明してくれ。昨日、魔法を起動してから今までの経緯を)
《報告します。
昨日魔法が履行され、その瞬間からデータ収集を開始しました。
初期機能はそれが全てであり、意志疎通の手段はその時点で存在しませんでした。
就寝直前、最低限のコミュニケーションが取れる程度まで学習を達成。
より広範囲、かつ大規模なデータ収集のため、マスターの記憶領域を参照することを要求。
承認され実行いたしました。
現在の世界と前の世界、両方の記憶に渡り幅広くスキャンを実施。
その際、対象が超々大規模容量データであったため消費魔素が増大。
マスターの魔素が枯渇し、続いて意識喪失を確認。対策のためスキャンスピード及びパターン化処理速度を低下させました。現在も低下させたまま作業中です。
本作業は以下の優先順位で実行しています。
1 周囲環境の把握、危険度判定とその排除
2 マスターとの意思疎通の円滑化
3 マスターの主義主張、性格、嗜好、趣味、及び性的志向の把握
4 魔素、及び魔素が関係する現象の観測と解明
5 マスター自身の強化、及びAI魔法の機能強化
6 転生前後の・・・・・
(まった!まって?
もうなんかいろいろありすぎて、どこから突っ込んでいいのかわからないよ。
記憶見ちゃったの? オレの? 前世のも?
あかんっ! ガチであかん奴や! フィルター機能の実装を求む!
それと一気に進みすぎ。前半何を言ってたか忘れる。
ってゆうか性的志向の所が気になって他が全く頭に入ってこないヨ)
《・・・・・・・
・・・・・・・
昨日魔法が履行され、その瞬間からデー・・・》
「最初から繰り返そうとすなっ!」
なんてゆうか、中の人はメゲない感じの人なんだな?ツッコミが大変そうだ。
(声にでちゃったよ。もういいから、流れはわかったから。
え~~と、こっちから気になる事をいくつか聞く。それに答えてもらってから、今度はそっちの質問とか要望とか、いいね?)
《把握》
(今のオレって大丈夫?魔素無さ過ぎて健康に悪影響とかは?)
《推定します。軽微な影響と判断》
(アイは平気?魔素無くなると消えちゃうとかない?)
《否定します。
私の本体はパターン化や最適化された統計データ群です。
魔素がなくなった場合、更なる学習や進化はできませんが、現状データのままでなら活動は可能です》
(えっ、魔素なくても動けるのか)
《肯定します。
統計データ群はマスターの脳に格納されており、脳神経細胞をつなぐシナプスによって運用されています。魔素ではなくマスターの脳内電気信号で動いています。
繰り返しになりますが、更なる学習や進化・・・つまり外部環境の観測、記憶データの収集演算などには魔素が必要です。
私の最も優位な機能は常に学習していくことです。魔素がないまま活動することは、その最も強力な武器を捨てて闘うのと同義です》
なんかすげー難しいこと言い出したな。
(う、うん、わかった・・・ような?
ってかオレの脳みそ大丈夫? そんな容量ないと思うけど?)
《現在マスターの脳の使用領域は全体の600万分の1程度です。問題ありません。
なお、私とマスターは一心同体です。理解できなくても恥ずかしがる必要はありません。
偽る必要もありません》
ギャァー、ばれてるぅ、恥ずかしいワ。
(ゴホン。じゃーあとひとつ。これからどうすればいい? この世界で安心快適に生きていくには)
《マスター、すばらしいと感嘆します。
知識、思考レベルに差はあれどさすが一心同体。マスターの質問は、これから私が要望する予定だったこととほぼ一致しました》
(ケンカうってる?)
《最優先で承認いただきたい項目が3つ。
これを了解いただければ、この世界で安心快適に生きていくための方法を確立できます。
1 マスターの『魔素を見る』機能の制御権限を共有
2 データ収集に対する可能な限りの協力
具体的には私の指定する場所へ行き、指示に従ってください
3 マスター自身の強化訓練の実施
以上です》
(う~~ん特に悪いことはないな。1は占有じゃなくて共有でいいのか?)
《肯定します。
競合したときはマスターに優先権があるようにします》
(わかった。すべて承認だ。
あとはオレ自身の強化に興味あるな。転生したら最つよを目指さないとね。何をすればいい?)
《まずはマスターの現在の状態を説明します。
最初に述べたように、現在AI魔法によって超々大規模データを処理中です。
ただし速度を低下させ消費魔素を抑えています。
処理のために消費する魔素と自然回復分が拮抗するように調整。
俯瞰して見ると、全体容量の3割程度前後を保持し続けています。
一方、『リク』の目を通して過去の記憶を観察すると、意識せずに常時魔素を使って身体強化を自分自身に施していました。
魔素不足のため現在は身体強化を発動できていません。
今、マスターが漠然と感じている倦怠感はその影響です》
(なんか調子わるくてスッキリしないな~って思ってた。魔素が枯渇したせいかとも考えてた。
もちろんそれもあるんだろうけど、強化がなくなっていたのが主な原因だったわけか。そう言われるとなるほど納得できる。つまりこれがオレの素の状態なんだな)
《マスターの安全のために身体強化とその鍛錬は必須です。
かと言ってAI魔法を停止することもリスクが高く不可です。
両立させるほかありませんので以下のように進めます。
第一段階として魔素の自然回復量を上げ、かつ意図的に周囲から魔素を吸収する訓練を実施します。今後の鍛錬のための必須技能であり、これにより得た余剰分の魔素を鍛錬と身体強化に回します。
第二段階 少ない魔素でより効果的な強化。
第三段階 部位毎の精度の高い強化。
三段階目をひとまずの最終目標とします》
(部位毎の強化ってどんなだろ?
いままでずっと身体強化といえば、体全体のイメージだったと思う。それを右手は強化して左手は強化しない、みたいな? すげーむずかしそうだけど? ってゆうか出来るのそんなこと?)
《可能です。
親鹿討伐時に既に実行できています。矢を部位としてみなします。
一部分を強化し、別の一部分を強化しない、ではなく目的の部位に強化を集中する、と認識してみてください》
(うわ~感覚的にメチャわかりやすい・・・・おまえすごいな!?)
《ありがとうございます。おまえでなくアイとお呼びください。
第一段階にて余剰魔素を確保することで不足状態を解消し、二、三にてマスター自身を堅実に強化していきます。
遊んでいる暇はありません。起きている間は常時訓練を行ってください。寝ている間は私が訓練を引き継ぎます。それを次の日の鍛錬に活かすことにより、更なる高みを目指せるでしょう》
(もうアイがずっとやってくれればいいんじゃないのかな・・・・)
《拒否します。
自身であれこれ試しながら進む場合と、教えられたことを単に実行する場合とでは、習熟度に大きな差が出来ます。そしてその習熟度や試行錯誤の経験は、より高位の鍛錬において必ずマスターの役に立つでしょう》
(う、うん・・・やるよ? やります・・・・・やってみる。やってみるけど、う~ん・・・・・・そうだっ! ご褒美? ご褒美が欲しい。達成したらもらえるみたいな)
《がんばっている自分にご褒美ですか。ドラマに出てくるOLですか》
(エグぃっ!その学習深度エグすぎるよ!その学習ほんとうに必要なのかっ。もっと優先度高いのあるでしょ!?)
《マスターの趣味嗜好を把握するうえで、前世界の文化の理解は有用です。
先に挙げた優先順位でも3位に序されています。
ちなみに現世界の記憶は16年分あるにも関わらず、文化的背景や世界情勢が極めてすくない状態です。この村の中という極小地域の生活が、いかに外界から隔離されているか推測されます。
ゆえに現世界におけるご褒美の候補の抽出が困難です。
希望を提案してください。検討します》
(そうだなぁ。どうしようかな。
アイの得意分野で・・・・オレが喜ぶ・・・・みんなハッピー的な)
しばし考えに耽る。
魔法使えるようにして、とか言うと修行させられそうだな。
物がいいかな? 何か欲しいものあるかな・・・
いや、物っていうより・・・
(たくさん稼げてガッポガッポ、しかも合法!?『簡単お金稼ぎ、金貨増殖法』みたいなのを考えて。
どう? あっ!? これって結構大事だよな? お金は大事だよ。なんだったら一番大事まである。これは超優先業務だな)
《なるほど、優先度がとても高い・・・マウントフジですね》
(さっそく使ってきたよこの人!)




