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 オレの『やっちゃってね』の指示に了解のアイコンタクトがミューズから返ってくる。それを見てオレも意識を切り替え魔素に集中だ。


 パティオさんは盾を前面に構え油断なくウルフに近づく。少しだけ腰を落としているな。当たり前だが戦闘にはある程度慣れていると思われる。不意を突くつもりは無いようで気配を消したり死角を取ろうとはしていない。

 魔素視によるとパティオさんに大きな魔素の反応はないし偏ってもいない。組合長みたいな無意識の身体強化もないようだ。ただ一般人よりは体に纏っている魔素量が明らかに多いので、オレ達が言うところのレベルは高いだろう。キールの領軍のトップレベルと同等かな。



《マスター、魔素量の目利きも鋭くなってきましたね。いままで星の数ほどデータを積んで統計解析してきた私と同レベルで理不尽さを感じます。まさかこれが嫉妬の心なのでは》


(余裕あるじゃないのアイ。いいから測定してなよ)



 接近している内にウルフがパティオさんに気が付いたようだ。一声短く唸りを上げパティオさん目掛け突進してくる。パティオさんはその場で足を止めて受ける気だ。盾を前に出しメイスを振りがぶっている。

 そして激突。パティオさんは盾を使って勢いをいなしウルフを自分の左側に流す。その流れのまま振りかぶったメイスで殴打だ。うまいね。体の各所の魔素の流れに淀みがなくこの動作に慣れてることがわかるな。おそらく得意技だろう。


 痛い一撃をもらったウルフは距離を取ろうとする。当然パティオさんは追い打ちだ。だが残念、パティオさん足おっそいな。追いつけず距離を稼がれウルフに態勢を整えさせてしまった。

 そこから睨み合うもパティオさんは受けの構えのままだ。盾役もできるけど攻撃寄りだって言ってたじゃん。攻めなさいよ~。受けはさっき見て得意だってのはわかったからさ。


 案の定ウルフが再度突進。同じ展開だ。これを2度繰り返し、トータル3度の受け流し殴打で沈めた。領軍の基準で言えばかなり強い。領軍はパーティーで倒してるけどいまパティオさんはソロだしね。


 用意していた水を差しだして一旦休憩してもらう。一度だけの測定だがアイがデータをこねくり回している気配が伝わってくる。その間にオレは少しだけパティオさんに話しかける。



「大丈夫ですか。ウルフ系魔獣の経験は?」


「前にいたところのダンジョンは不定形の亜生物系だったので、少し勝手が違いますね。ただ突進や体当たりという意味で同じなので盾がうまく機能してます」


「え~っ!も、もしかしてスライムとかですか?いいなぁ~。これぞモンスター!って感じですよね。序盤に最も親しくする奴ですからねっ!」


「・・・え?えっと、すいませんよくわかりません。そんなにい、いいもの?でしょうか。そういえばスライムって言い方は先輩老兵が使ってました。もしかして両親のどちらかが軍の方なのでは?」


「あ、オレ孤児なんで」


「・・・失礼」


「いやぜんぜんですよ。スライムじゃなければなんて呼ぶんです?」


「ゼリーです」



 ひとしきりモンスターの呼び方で盛り上がったところで休憩終わりとする。



「では続けますね。同じ相手で再度戦闘です」


「了解です」



 追加で2体、合計で3体のウルフの戦闘を行ってもらった。当然アイは観測、解析中だ。予定通りにオレは進めていく。



「ありがとうございました。次はオレ達が戦闘を見せますね。この後4層でまた予定があるので、4層に走って向かいながら魔獣を倒して行きます。ついてきて見ておいてくださいね」



 オレがそう言うと待ってましたとばかりにミューズが飛び出す。なんだ?戦いたかったのかな。ウズウズしてたっぽい。ちゃんとコースわかってるんだろうな?旧アイもマップデータ持ってるって?なるほど問題ないな。


 しょうがない。やる気なミューズに任せてオレはゆるりとついて行くだけにする。オレに先行してミューズが魔杖をブンブン振り回す。手あたり次第に攻撃して触れたモノから次々と魔素に還していく。たまに魔石が落ちててオレは回収役だ。



《マスター、希望者が置いてけぼりです》


「いけねっ。おーーい!ミューズ!すとーーっぷ!!」





「はぁはぁ・・・な、なんで、はぁ、そん、はぁ、そんなにはやい」


「すいません、ミューズが調子にのっちゃってやりすぎました」


「失礼したパティオ殿。体がナマっていたようでつい、な」


「はぁはぁ・・なん、なんで、どうなってるの、ふたりとも・・はぁはぁ」



 予定外の休憩を取っている間にアイの解析は終わったようだ。



《報告します。個体名パティオの解析結果を表示します》



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【名前】パティオ

【LV】5

【NEXT】ー

【吸収率】3%


HP 35/42

MP 0/0


STR 中

VIT 高

DEX 中

AGI 低

INT 中


【スキル】棍棒[2]  小盾[2]

     受け流し[3]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《一般人の中ではかなり高いステータスです。技術もあります。吸収率とは一般人を1、マスターを100とした時の魔素塊の吸収度合いです。この者は常人の3倍の吸収力を持つ優秀な個体です》


(判定は?人柄はよかったぞ)


《不合格です。お話になりません》


(だよなぁ・・・もう4層はやめるかな)



「パティオさん、落ち着きましたか?大変そうなんで4層はやめにしますね。帰りましょう。あ~そうだ魔石がいくつか落ちたんですよ。これどうぞ持ってってください」



 差し出された魔石の()()()()を見てパティオさんも悟ったようだ。



「あはは・・そうですよね。わかりました帰りましょう。一つだけお願いがあります。帰り道の途中でいいので1体だけ私の目の前で討伐してもらえませんか?本気で」


「ふむぅ、わかりました。言いふらしたりはしないでくださいね?」


「探索者のマナーでもあるし誓います」



 ミューズが綺麗に掃除して進んだので、帰り道には1体もリポップしてなかった。しょうがないので適当な所で寄り道する。パティオさんが十分見学できる距離でオレは魔杖を構える。



《マスター、くれぐれも手を抜いてくださいね。フリではありません。真面目にです》


(コラ、笑わせるなよ。逆にフリになってるぞそれは。『いいか、押すなよ?絶対に押すなよ?』って伝統芸能があってだな)


《おふざけはそこまで。強化も最低にしてください。そう、ゆっくりどうぞ》



 なんだよツマンネー。一瞬イタズラ心が湧いてやっちゃおうかと思ったが、さすがに大人気なさすぎるしパティオさんは基本良い人そうだからやめた。

 集中して強化を抑える。言っておくけど最低限に抑えるのも難しいんだよ?特に動き出すと抑えつけてたのが乱れるし。だからゆっくり踏み出してウルフに接近する。いつもより遅いのでさすがに気が付かれる。しかしウルフが身構える前に魔杖を振った。はい終了。



「な、なんだいまのは。あ・・ありのまま今起こった事を話すぜ。リクさんの姿が掠れたと思ったらパーンって音がしてウルフが消えてた。何を言ってるのかわらねぇと思うがオレも何が起こったのかわからなかった。頭がどうにか・・・」



 まぁまぁショックを受けているようだ。しきりに何かブツブツ言ってて怖いし口調もちょっとちがくねぇ?なんだか面倒くさくなってきたのでパティオさんを急かして帰りのコースを急いだ。地上の受け付けに戻り課長補佐さんを呼んでもらう。



「早かったですね。いかがでしたか?」



 課長補佐の顔が期待に満ち満ちている。なんだ?



《管理ゲート課経由のメンバーを採用したら金貨100枚相当を支払う約束になっています》


(な、なんだってーー。あでも不採用だから別にいいや)


「え~とですね。今回ダンジョンの中で互いに戦闘などを行って・・」


「すいません!私の力が足りないようでした。実力差がありすぎてパーティーを組んでもお互いにやりにくいだけになりそうです。下手したら事故や怪我にもつながるでしょう。今回は残念だったということでお願いします」



 パティオさんの方から言い出してくれた。やっぱいい人だね。



「リク様、ミューズ様もそれでよろしいでしょうか?」


「はい、結構です。手間をとらせてしまい申し訳ない」


「そうでしたか・・とても残念です」



 課長補佐はがっくり来ているようだ。ちょっとかわいそうだし別の機会に何か穴埋めするかな。

 パティオさんともお互いに残念だったと挨拶をする。おみやげの魔石を換金して帰っていった。旅費ぐらいになるといいが。

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