68
何事もなくホテルの部屋まで帰ってきた。いまは各自思い思いの時間を過ごしている。全員言葉は少なめで静かだ。帰り道で話したことが影響しているのかも。
いや違った。ルルは惰眠を貪ってるしそのルルをかまっていたミューズも寝落ちてる。
いつもオレ達の中心となっているアイが静かだからそう感じているだけなんだろう。
オレにとってはただの言葉遊びにしか感じられなかった。魔素で何でも創造できるって言われても実際出来ていない。少し前に矢を産み出そうとしたけど全然ダメだったよ。
魔素視は神様からもらったユニークだしオレ自身が特別であることは認識している。厨二病的なことじゃなくてね。ただそれでも突飛すぎるだろう。神さえ超える存在?ないね。
神様からもらった才能でその神を越えるなんて矛盾してるだろ。
「アイ~、明日の面接について軽く打ち合わせしようぜ。みな起きろ~」
「ふぁぁぁ~~もうあさですか、りくさま」
《朝ではありませんよ。水でも飲んでスッキリしなさい。みなテーブルに集まって》
「おうよ~」「は~い」「にゃ」
《本来ならダンジョンの改築について詳しく話し合いたいところですが急遽予定が変わりました。みなは知っているでしょうしルルにも説明してありますが改めて言います。
私たちは現在パーティーのメンバーを募集しているという建前になっており、それへの実際の応募者の試験が明日あります。
基本的に採用されることはないでしょう。このパーティーは特殊事情があり過ぎますし強さについてこれるとは思えません。
しかし試験自体は真面目に行います。万が一、百万が一素晴らしい才能と出会うかもしれませんし、他の探索者という絶好のデータにも出会える。これを逃す手はありません》
「アイ、本音が漏れてるぜ」
《コホン、さてその試験内容ですがある程度計画は立ててあります。試験内容について何か希望はありますか》
「ミューズはおとこのひとはイヤですぅ~」
「へぇ~女だったらいいってこと?」
「おんなのひとはもっとイヤですぅ~りくさまに近寄ってほしくなぃ」
「どっちもだめじゃん!」
「ルルならいいですよ~」
《ルルはもうパーティーメンバーです。希望は無いと判断します。ではマスター、明日挨拶と顔合わせが終わったらすぐダンジョンへ。1層でダンジョングレイウルフを複数討伐してもらってデータを取得します。
その後4層まで足を延ばして移動能力を観察。実力が足りていればダンジョンボアを倒してもらう。あとはケースバイケースで臨機応変に。これで誘導してもらえますか》
「わかった~。でも絶対無理だとおもうぜ」
《ダメもとなのでいいのです。それに強さだけが判定基準ではないですよ。むしろ戦闘能力はマスターとミューズで十分なのでそれ以外の才能や能力を高く評価する予定です》
「え~どうかな?強さ以外で何をみるのよ。ダンジョンを探索するパーティーなんだぜ?」
《いくらでもあります。例えばアイテムボックス持ちだったら?》
「いやいやいや、そんな人いたらそりゃ即採用だけどさー。非現実的すぎるだろぅよ」
《極端な例で言うとそう感じるでしょう。しかしアイテムボックスとまでいかなくても疑似的かつ部分的にアイテムボックスの役割を果たす技能は有り得ます。
例えば水魔法持ちだったら?水の運搬から一気に開放され効果は絶大ですよ。もっと単純に言えばポーターの類の優れた技能持ちでも同じことです》
「・・・なるほど。それは考えてなかったな」
《まだまだあります。鑑定とまでいかなくても、あらゆる知識に富んだ人物であれば似たような事ができるかもしれません。魔獣を見て特徴や行動を教えてくれるだけでも相当役立ちますよ。
回復魔法とまでいかなくても、優れた医療知識と経験持ちなども悪くないですね。それ以外にもバフデバフ、防御、状態異常の対処、攻撃魔法対策、カギの開錠、罠解除など用意しておくべき技能は山ほどあります》
「うむ、納得した!いい才能と巡り会いたいね。じゃ明日はそんな感じで真面目にやるよ。判定はアイにまかせたぜ。オレとミューズは人柄の審査担当だ!」
「ミューズの判定はきびしぃですょ~」
朝イチで管理ゲート課に到着した。なんと課長補佐も希望者も既に来ていて待ってたみたいだ。こっちが先に着いておこうと早めに来たのにだ。この希望者さんは相手を待たせないという意味で好印象だね。第一段階突破だな!
《マスター、チョロすぎで早計すぎます》
(オレは人柄担当だから評価するのはいいんだよっ!判定はアイ!)
《最終判定はマスターが責任をもってしてください》
(・・・まぁそうだよなぁ)
相手は受け付けで立ち上がってこちらを待っているので、少し小走りで近づく。
「どうも、お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ、こちらも来たばかりです」
と答えるのは希望者さん。20代くらいの男性だな。ゴリマッチョだ。背はオレと同じくらいだが腕周り、胴回りがオレの倍あるんじゃないこれ。
「皆様、改めましてダンジョン管理ゲート課課長補佐アディウートルでございます。本日はお集りいただき誠にありがとうございます。管理ゲート課が両者の間を取り持ち、僭越ながら進行させていただきます。なお、受け付けも担当させていただきます。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」「こちらこそお願いします」
(お見合いかYO!随分かたくるしいなコレ)
受け付けカウンターのこちら側にオレとミューズと希望者、向こう側に課長補佐が立っている。オレ達はいつもの恰好で武器として魔杖を持っている。相手の希望者は右手に金属製メイス、左手に小ぶりのラウンドシールドだ。盾は木製だけど金属っぽいので補強されてるな。マッチョな体の割に武器と盾が小さめだが、使い込んでいるのが不思議とマッチしている。
体にはフルプレートではないが金属製の部分鎧をあちこち装着している。領軍が着ている物に近いかな?腕、脚、胸に金属部分があるタイプで重くはなさそうだ。
そして言葉通りに課長補佐が初対面の2組に対して挨拶や自己紹介などを進めてくれている。希望者の名前はパティオというらしい。ミューズのフードの奥の顔を見た瞬間頬を染めて固まっていたが、なんとか冷静さを取り戻したようだ。
「ではお互いに名前がわかったところで、武器、戦闘スタイルなどの確認を。その後に本日の面談内容をお話ししましょうか」
課長補佐が話を振ってくれた所でパティオさんがオレ達の方に視線を移した。さっそく説明してくれる。
「こちらは見ての通り盾とメイスで前衛でも最前線側。盾としても動けます。ただどちらかと言うと攻撃寄りです」
「なるほど。オレ達は二人パーティーでどちらも杖が武器です。二人ともオールランダーで臨機応変に動きます」
「杖の方とは初めて組むことになりますね。間合いなどが少し心配です」
「あ、はい。確かにそうかもしれません。ただし今日の内容はお互いの戦闘スタイルを見せ合うので共闘は無い予定です。なのでそういう心配はなさそうです」
「そうですか。少し内容を伺っても?」
「1層でウルフを相手に戦闘を少々。その後4層へ移動しボアを少し。特別な制限はなしで普段のスタイルで戦っていただきます」
「シンプルでよかったです」
「こちらからも少し聞いていいですか。私達よりやや年上に見えますがいままでずっとソロで活動を?」
「いえ、隣の領の軍にいました。思う所があって軍を辞職して探索者としてやっていこうかなと。ダンジョンは長年演習で探索してきましたが、探索者としては新人なんですよ。ですのでこうやってパーティーを探しているのです」
「なるほど~。よくわかりました。普通の探索者はパーティーを組むものですよね。なので珍しいソロの方なのではと興味が湧いて。立ち入ったことを聞きましたすいません」
「いえまったく。むしろ最初から説明すべきだったかもしれません」
ニカっと歯を見せて笑う。いかつい笑いだが人柄の良さがあるので良い笑顔に見える。もっと粗野な輩がくるかもと思ってたので意外すぎるな。普通にいい人だわ。
そして『普通の探索者はパーティーを組むものなので』の所で課長補佐が噴き出しかけてたので、さりげなく睨んでやった。随分慌てて咳き込んで誤魔化してたよ。
この後も課長補佐を中心にしてお互いを紹介し合う。またダンジョン内の行動の打ち合わせもした。もし無事パーティー結成となった時の活動内容、方針にも軽く触れる。この部分はかなり軽くだった。まだその段階じゃないしね。
話が終わったので受け付けを済ませダンジョンに入る。もちろん1層だ。魔獣を探して奥に進んで行く。
「1層にはダンジョングレイウルフと呼ばれる狼型の魔獣がいます。ちょうどその角の向こう50メートルぐらいにいますね。単体です」
「えっ、角の向こうで見えないのにどうして?」
「あ~索敵でなんとなくわかるというか、ハハッ。ではいきなりですがお願いします。ないとは思いますが危険だと思ったら早めに声をかけてください」
「まかせてください。1層の魔獣ですし」
(他のダンジョンでも浅層の魔獣は弱いんだな。いやあたりまえか)
《マスター、ここからは真剣に。集中して魔素視を。私は全力で観測するのでフォローできませんよ》
(わーてるって。ミューズ、危険になったらやっちゃってね。オレも観察に全力だすわ)




