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ミューズの買い物が思いのほか時間がかかった。女子の買い物が長い事は前世で学んでいる。アダルトなオレは懐の大きい所を見せるため寛容につき合うのだ。というかデートみたいでこそばゆくて楽しい。
その日のうちに終わらなかったので翌日の午前中も街の中を二人で歩く。紳士として荷物を持ってあげる。
前世のような買い物を想像しているなら少し違う。残念ながらこの世界は商店がまだまだ発達してない。ウィンドウショッピング的な感覚で楽しめる店は少ない。生活必需品ばかりで娯楽品を売っている店はほぼないし、並んでいる店は材木店とか食肉店とか『素材そのまま』な場合も多いんだ。もちろん家具屋とか魔道具屋とか他にもあるけど今日の目的とは違う。
訪れているのは古着屋と雑貨屋だ。今回の買い物のメインはこの種類の店になる。この街の中に複数あるのでいくつも店舗を見て回って比較も可能だ。
ちなみに新品の衣服を仕立てるのは金と時間がかかって非常に面倒だ。金はあってもあまりやりたくない。一般の人は布を買って自作するのが普通。オレの場合は少し前まで村から持ってきた物、つまりシスターの手作り品を使ってた。足りなくなったら古着を探す。
いまは伝手が出来たので肌着と下着だけ新品の既製品を購入している。どのツテだって?ホテルのフロントだよ。この世界にコンシェルジュって概念があるのか知らないけど超有能です。拍手。ダンジョンや狩りの時に来ている仕事着はまたちょっと特殊なので次の機会かな。
買い物が終わったならカフェで休憩とかレストランで軽食、なんて行きたいところだがそのどちらも厳しい。食堂は労働者ががっつり食べるところだし軽食や飲み物は屋台がメインで落ち着けない。あとは酒場があるけどうるさい。
たった一か所だけいい場所がある。わかる?そう、またしてもホテル。ホテル内の食堂かロビースペースだ。そこならまさに一息つける場所だ。本当にこのホテルから離れられないよ。
午前中で買い物を済ませ、午後からは待ちに待った武器をもらいに行く。整備課に着いて受け付けに来意を告げる。むむむっ!受け付けの奥に何やら油紙に包まれた棒があるぞ。アレ完成品じゃないのかな。長さもちょうどソレくらいだし。気にはなるが対応を待つ。
少しの時間受け付けで待っているとドワーフもどき改めフェラリウスさんがやってきた。
「待たせたな」
「どうも。受け取りに来ましたよ」
「ああ、用意してあるぜ。そこだ」
フェラリウスさんはこっちの予想通りに受け付けの奥のスペースから完成品を持ち出す。受け付けの机の上で包装を解き、布で綺麗に油分を拭きとった上でオレに渡してくれる。
「存分に見てくれ。資金が十分だったから素材も魔道具も一番のを使った。初回の打ち合わせの時に話した焼き入れ焼き戻しもしてあるぞ。柔軟だが強靭にできてる。魔道具で作ったので酸化しない。酸化ってわかるか?サビないってことだ」
鉄棒を渡してくれたので実際に手にして見てみる。心の中でサビないっておかしいだろと思いつつ鉄棒を注視する。何の変哲もないただの鉄の棒。円柱ではなく八角形の棒だ。鈍い灰色で特徴もない。でもその棒にオレは見惚れてしまう。
なぜか?
その鉄棒には他の物、他の生物よりはるかに多くの魔素が纏わりついていた。もちろん魔素の眼を通しているから見えているだけだ。無理矢理表現するなら光のオーラを纏った神々しい遺物のようなものに感じる。
当然手作りだった場合はこんな物はできないだろう。魔道具だからこそなのか。魔石の力でも宿ったのか。酸化しないってのも何となく納得してしまう。
《マスター、見えていますね?これは良い意味で想定外です。この鉄棒はきっと私たちに大きな力をもたらすでしょう。もはや鉄棒と呼ぶには相応しくない。魔杖と呼称しましょう。またもや研究すべき課題が増えました。ただの鉄と魔石からこのレベルの物ができるのです。素材を高位の物に換え、マスターが作成に関与したら一体どうなるのか。また、完成した物の運用と能力はどんなものなのか。あぁ興味が尽きません》
「ミューズもぉ、ミューズも見たいですぅ。アイさん」
「こらこら落ち着けミューズ。いま渡すから」
ミューズが思わずアイさんとか言っちゃってるのを誤魔化しつつ魔杖をミューズに渡す。言葉も崩れてるなぁ。アイはVR魔素画像を送っているようだ。
「わぁ~きれぃ~キラキラ」
その言葉に反応したフェラリウスさんが訝しげに声を出す。
「そこまでキラキラではないと思うが。まずは見てくれよりも重さと長さ、それから握りを確認してくれ」
「すいませんねミューズは独特の感性があるので。前にも言いましたが重さは問題ないです。もっと重くてもいいぐらいです。長さも丁度いい。他はこれから実戦で試してみてからですね」
そんなことを言いながら魔杖を握りつつ感覚を試したりバランスを確かめたり。もちろん大きく振り回したりはできないし、しないよ。魔素視でもよく見ておく。ミューズは魔素を見るのに一生懸命でちゃんと試せてるか心配だ。でもここでまた余分なことを言われると困るので黙っておく。
「現時点で違和感はないんだな?よかろう。この書類にサインを。手直しは内容によるが1回だけやってやるわい。三日以内に来てくれ。異常が無くても報告にこいよ。こっちも珍しい製作だったから興味があるんだ。結局武器として使うんだよな?」
「そうです。今日さっそくダンジョンに行って試してきますよ。三日以内に報告にきますね」
「わかった。で、これが料金だ。こっちにもサインを。特急だから割高だぞ?」
「自分から頼んだことです。承知してますよ。今日の使用感次第ですが追加で2本頼む予定です。この値段でいいので」
「なっ・・ガハハハハハハ!負けたよ、行ってこい」
そして毎度の最下層。今日ばかりは全回復法は後回しだ。準備しながら魔杖を再度観察する。
「やはり魔素が纏わりついている。綺麗だしまとまりがいい。オレの体の周りにある防御幕としての魔素に似ている印象だ。どう思うアイ?」
《その通りですね。良いところに気が付きました。鍛冶師が言っていたように酸化を防げそうですし、外部から加わる力や衝撃に強そうです。一言でいえば魔道具で作った鉄は耐久性に優れる、ということですね。せっかくミューズの保護強化が上達してきたのにあまり意味がなくなりましたね》
「ぴぇん、なのですぅ」
《耐久性に問題がないとなったいま、次はこの魔杖に強化をどこまで載せられるか確かめたいですね。さぁ準備はできましたか。いきますよルル、マスターとミューズの前に1体ずつL31のダンジョンムーンベアをお願いします。念のために言っておきますがマスター。過剰な強化は禁止で外界時の通常強化のままで行ってください》
「はいっ!前回はすいませんでした。いつでもどうぞ」
目の前に熊がポップする。当然ミューズの前にもだ。まずは試しにとシンプルにそのまま殴りつける。気の棒とは全く重さが違うので感覚はズレるが振り回す力に不足はない。ブオンッという重々しい音を響かせて目にもとまらぬ速さで振われる鉄の凶器。
熊の左肘あたりに魔杖がヒットする。魔杖の有り余る重量と運動エネルギーによって、ヒットしたそこを中心にして熊が『くの字』に折れ曲がる。ただ折れ曲がる最中に絶命してしまったようでアッサリと消えてしまった。
「やっば~」 「すっご~ぃ」
期せずして二人の感想がハモる。予想はしていたがあまりにも強い。どうやらミューズも似たような気持ちのようで呆然としている。
《予想通りですね。魔杖を観測してみましたが折れ曲がりやヘコみ、傷など一切ありません。威力に関しては言うまでもありません。マスター、もう少し付き合ってもらいますよ。次は魔杖に強化を施して見ましょう》
アイの指示で様々な強化を魔杖に載せて戦闘を行う。ミューズの方は強化を自在に操れないので元々習得していた保護強化を被せて戦っている。
結果としては何の強化でも問題なく効果は載るようだ。ミューズの方は防御に防御を重ねるような形になって意味がなさげに見えたが、より硬くなって攻撃力が上がったような感触だと言っていた。
「ミューズ、長さと握りの感覚もよく確かめてな。オレより少し背が高いんだから魔杖が短いんじゃないのかな」
「いぃぇ~だいじょうぶなのですぅ。ふりまわすカ・イ・カ・ン。もっとぷちぷちしたいですの。うふ」
ミューズが目覚めてしまった!!




