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マスターの急な思い付きではありましたが鍛冶の工房を見学することになりました。鍛冶に限らず魔道具には興味を持っています。本格的に調査するタイミングを窺っていましたが他の事が忙しくて手を付けられず、じれったい思いをしてきました。
本格的という意味では未だ今日もその時ではないと思われますが、実際の魔道具について話を聞くチャンスはなかなかに貴重です。ここはマスターに従い概要だけでも抑えておきましょう。
鍛冶師のフェラリウスの案内に従って説明を聞いています。マスターも興味があるようで頻繁に質問を飛ばしています。しかしお互いに妙にちぐはぐなのです。質問と答えのすれ違いが甚だしい。別の言語を持つ者同士が無理矢理会話をしているような印象です。
例えば精錬と言えば当然『素材に熱を加える』『素材を溶かす』あたりは想定される工程です。マスターの質問にもそれらが含まれますが、どうやらこの世界の魔道具による精錬には熱の要素が無いと思われるのです。それは確かに話がすれ違うわけです。マスターもそこら中にハテナマークを浮かべながら話しを聞いています。
私なりに解釈するとこの世界の魔道具は『入力』と『出力』だけがあって、間の工程がないように見えます。実際には無いわけではなくブラックボックスになっていると言うのが正確でしょうか。
精錬の例えで続けるなら鉄鉱石を『入力』する。必要な条件などを装置の操作盤を通して『入力』する。作業が開始されて時間が経つと精錬された鉄と分けられた不純物が『出力』される。この『入力』と『出力』の間に何が起きているかわからないのです。気が付いたら魔石が摩耗し純鉄ができているのです。
当然マスターもこの点について何度も尋ねますが『それに何か意味があるのか』『知ってもしょうがない』というニュアンスの答えしか却ってきません。つまるところ誰も中間工程については知らないのです。
実際の作業を始めから終わりまで観測してみないと断言できませんが、どうやら中で科学的な分離作業をしているのではなく魔法的な力により鉄とその他に分離しているのではと推定します。だから熱が不要なのだと。そして魔法使いでもない限り中で何が起きているのかわからない。魔道具がある世界ではこれが常識なのでしょうか。仕組みもわからずに誰がどうやって魔道具を作っているのか。
魔道具に関しては万事がこんな調子で、どの道具の説明を聞いても『入力』と『出力』の話で終わります。ただ誤解しないでください。人が人の手で鍛冶を行う場合もあるのです。金床だって炉だってやっとこだってあります。この作業場の鍛冶師たちは手で行う鍛冶仕事によって師足り得るのでした。
人の手によるものと魔道具産の物には大きな違いがあります。圧倒的、まさに圧倒的に品質が違います。品質や耐久性を問わない性質の物やコストが最優先とされる物に関しては人の手によって作られるようです。注意するべき点は手作りは本当に品質が悪いことです。品質が悪いと聞いて想像するその10倍は品質が悪いと考えてください。
工房を巡りながらあちこちをスキャンしていますが手作りの製品は目を覆いたくなる惨状です。名誉のため詳しくは言いませんが、こんな物を販売していいのかと疑うくらいです。鍛冶の技術は発達していないと言わざるを得ません。
私達が注文しているような品質に拘り資金が潤沢である製作品には、魔石を消費して魔道具を使用する。また製作の難易度が高い物にも魔道具を使う時があるとのこと。そういう住み分けがあるようですね。
今回の見学ツアーでわかったことは大きく2つです。魔道具はブラックボックスになっていること。人の手による作業は技術が発展しておらず品質が低いこと。
魔道具産の物が高品質過ぎて技術の発展を阻害しているのかもしれません。難しかったら魔道具でいい、という思考パターンに陥っているのでは。
マスター含め私たちは何か煮え切らないまま見学を終えて整備課を出たのでした。
「あ~あ~デートが終わっちゃいましたぁ」
「魔道具の感想はないんかーい。といってもイマイチだったよな?オレは良い感想も悪い感想も出てこないわ。敢えて言うならふ~ん?よくわかんね、だな」
「にゃにを期待して行ったにょか。魔道具の正しい説明だったにゃ。おかしくなかったにゃ?」
「貴重な現地人の、いや現地神の意見あざっす。たぶんルルのそれが今日の学びなんじゃね?」
《ふむ、同意します。この世界では魔道具とは『そういうもの』なのでしょう。どこかで聞いたフレーズですね。『そういうもの』だから『正しい』『おかしくない』に決まってます。なのにそこに疑問を持てるのは私たちが異世界基準の思考を持っているからなのですね》
「ああ、ほんソレだわ。うまいこと言うな~アイは」
《ありがとうございます。ところで処理待ちの書類がたまっていました。マスター、部屋に帰ってから組合にいきませんか?そしてもしよければバススに魔道具について質問したいのです》
「おっけーい、そうしよう。あとミューズの買い物行った方がいいんじゃない?」
「わわっ、うれしい~」
《そうですね。衣服を含めミューズの私物が極端に足りていませんのでそうしましょう。この数日はとにかくバタバタし過ぎました。ミューズが仲間になってまだ十日経っていません。おどろきですね》
「はんぶんはぁ~村ですごしたのでぇ~パーティーになって一週間たってないですょ」
「オレはみんなと少し違って前世から毎日拝んでた顔なんだよ。もう何年もな。ミューズは動画や誌面に毎日出てたんでね。もはや肉親、親兄弟に近い感覚かもしれない」
「兄弟とかじゃなくて、こ、こいびとがゴニョゴニョ・・」
「なんて?」
「は、はやく組合のようじをすませて、お買い物いきた~いのです」
言葉通り書類を持って組合にいく。時間的にもバススは組合受け付けにいるハズだ。
「バススさんこんちわ~」
「あ、リクさんちーっす。あっ、ぁぁあわわ、みゅ、みゅーす、ずずさん、こぬ、こんち、こんにちはでっすす」
「いったんオチツケ。毎度の書類お願いします」
「は、はい・・・ふぅ。こ、この書類ですね。どんだけ使うんですかって毎回思うっすけど、それを上回る勢いで増えていくっすね。なんかもう別世界っす。特に宿の精算がやばいっす。二日に一度、宿の人が手続きにくるっすよ」
「あの宿はもう抜け出せないです。居心地がよすぎてもうね。しかもゴハンがおいしいんですよ」
「はぁ~やっぱり異世界っす」
「フフ、私達に対して異世界とはあなた面白い事をいいますね」
「ひゃっひゃい?そそ、そ、そうですか喜んでいただけて光栄っす!」
かわいそうなぐらいアセってるな。なんと不憫な子だよ。まぁ見てて微笑ましいので楽しいけど、あまりゆっくりも出来ない。アイが言っていた魔道具について聞いてみようか。
「バススさん。前から聞いてみたかったんですが、その貨幣と魔石用の魔道具あるじゃないですか。それってどういう仕組みなんですか?知ってたら教えて欲しいんです」
(ミューズ、フォローして。バススをのせて質問を。武士じゃなくて女性っぽくね。質問の内容はアイから頼む)
「バスス殿、、さん私も興味があるんです。少しだけお話しする時間をもらえませんか」
「も、もちろんっす!!何時間でもいいっす!」
ほんの少しだけ前に出て来たミューズは、バススに目線を合わせにっこりと微笑んでいるようだ。フードの奥から覗く尋常ではない美をより近くで見たバススは昇天してしまいそうなほどの恍惚の表情だ。やりすぎじゃないかコレ。
「バススさんは親切なんですね。優しい人はとても好感が持てますよ。ところで金貨や魔石を入れて検査のようなことをしてますね。この魔道具の中はどういった仕組みでしょうか」
「は、はい。この魔道具は金貨、銀貨の品質をチェックしてますっ!ニセモノや質が低い貨幣を見分けているっす。魔石の場合は等級を、成形済の魔石なら型番や状態を調べてくれるっす。おかしな物があったら警告が出ますっ!」
「まぁわかりやすいわ、ありがとうございます。金貨や銀貨の場合は含有率や純度を計測しているのでしょうか」
「へっ?がん・・なんですって?」
「含有率。金貨にどれくらい金の成分が含まれているか、です」
「え~と、えっ。あ~と、わ、わからないです。良い金貨か悪い金貨かを判定してくれているんすけど」
「その良い悪いは何を基準にしているのでしょうか?魔道具の中で何を検査しているかご存じですか」
「いや~それはちょっと。そういう魔道具なんでそうとしか言えないっす。すいません」
バススの顔が絶望を浮かべて青くなっている。おい、そんなにか、大丈夫なのか。ミューズの質問に答えるために勢いよく立ち上がってみたものの、ミューズの背の高さにさらに困惑している。
《ミューズ、そこまででいいでしょう。予想通り過ぎて十分です》
「そうですか、バススさん忙しいのにすいませんでした。今後もリク様をよろしくお願いしますね」
「は、はいっ!!全力で努力しますっす!!!」
(なにを努力するんだよまったく。まぁでも楽しそうだな。ミューズは罪作りなオンナだぜ)
《マスター、ミューズ、協力ありがとうございました。より確信を持てました。今の会話の間もずっとその魔道具をスキャンしていました。今後も魔道具に関しては機会を見つけて調査していきますね。マスターもレベル上げが落ち着けば興味を抱く可能性があると思います》
(興味があるかだって?興味しかないよっ!!魔道具作りはやる。絶対にだ。決定事項だが今じゃない)
書類関係を一気にクリアにして街に出る。さぁ買い物だ!




