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オレはホテルの部屋に戻ってきた後、自分のベッドの上でぐで~んとのびて寝っ転がってる。ミューズは長椅子ソファでルルにかまってキャッキャしていた。晩ごはんの後の小休憩みたいなもんだ。この後お風呂にするか体を拭いて終わりにするか悩むところだ。
いくら気持ちのいいことだってたまに面倒な時はあるよね。『きょうはフロめんどくせ~な』的なね。え?そんなことない?スマン、オレはあるんだ。しかもまぁまぁな頻度で。水汲みを待つのもなにげにダルいしさー。水魔法か水の魔道具なんとかならないかな。マジで金ならあるからさ~(ゲス顔)
水魔法か・・・もうすっかり忘れてるけどこの世界の魔法について全然調べてねーし。魔素魔法の追加分もなーんも考えてねー。他の事で頭がいっぱいなんだよ。でもいやじゃないしアセってもいない。むしろ楽しいくらいだ。魔法の事を考えるより今のことをもっとやりたいし楽しみたい。
うん。こんな風に考えられているってことは今が幸せなんだろう。そりゃ楽しいに決まってるよな。レベル上げが順調だしダンジョンマスターごっこできてるし、アイとミューズがいるし、ルルはかわいいし。
あれ、ヤベーな。なんか満足しちゃってないオレ?そんなんでいいのか、もっとハングリーにいくべきじゃないのか。
待ちたまえ。いまのことをトコトン楽しむのはハングリーじゃないというのか?そんなことない。オレらしいしオレ的にハングリーしてるぜ。うんこれでいい。いやこれがいい。
《集合してください。今後のダンジョン方針について打ち合わせしましょう》
「は~ぃ」
「おぉ、いいね」
ルルを間に挟んでミューズとオレは長椅子ソファに座る。ルルの占有権を巡って沈黙の戦争状態だ。お互いがお互いを牽制している。ルルは我関せずで寝ているようだ。
《現状を説明します。当初の予想よりとてつもなく順調に計画は進んでいます。しかし逆に順調すぎてうまく行っていない部分が出てきました。そこを第一に説明します》
「順調すぎてダメとはこれいかに」
《あまりにもレベルが順調に上がってしまって、あっという間に上限に到達してしまったのです。本来ならもっと効率を出せるのにその上限がボトルネックになってしまっている。そこを説明していきます。少し数字が多くなるので目の前にVRホワイトボードを用意しますね。注目してください。
マスターの全回復法は超進化しており、リソースを空気中から取り込むことに成功しています。これの意味するところは増やした魔素をほぼ全部渡しても、種となる魔素が周りにあるのですぐにまた増やし始められるということです。
また、MAXまでの実行時間が短縮されており約30分でフルチャージできるようになっています。感心を通り越してもはやあきれるしかありません》
すぐさま目の前に半透明なホワイトボードが出現する。アイの説明に沿って言葉や数字が次々と描かれていく。
L30のマスター = 約295万(30分)
L25ベア討伐 = 約138万(30分で30体)
《現在のマスターのレベルは30で魔素容量表記で2949です。ルルにこのまま渡せば30分で約295万の神の力ということです。次に魔獣変換した場合を考えます。現在可能な最高レベル25のダンジョンベアを30分で30体討伐したとして約138万。
以前説明したように魔獣変換すれば9倍の効率になるにも関わらず、マスターの魔素が高品質すぎて変換せずにそのまま神の力として使っても時間単位でなら上回ってしまいます。とんでもないですね。もちろん時間を無視できるなら変換した方がお得ですがそれでは本末転倒です。
これもまた以前に説明しましたが、魔獣変換する場合はよりレベルの高い魔獣を倒した方が効率は良いのです。しかし今は上限によって規制されてしまっています。
生産可能な最高魔獣レベルは25ですが、これがもし30であった場合の予測数値はこうなります。レベル30のダンジョンベアを30分で30体討伐して約905万です》
L30のマスター = 約295万(30分)
L25ベア討伐 = 約138万(30分で30体)
L30ベア討伐 = 約905万(30分で30体)
《細かい説明は無視でも結構ですので、L25とL30の差だけ見て下さい。極めて大きな差があります。少しでも高いレベルの魔獣を倒すこと、これがどれほど重要かがわかりますね。
この結果を受けて目下の急務はルルの神格をあげることになります。ルルの神格が上がれば自然と呼び出す魔獣のレベル上限も上がるとのことです。
今はマスターが全回復法をした方が効率が良いですが、呼び出す魔獣のレベルが上がればタイミングによって二人で討伐した方が良くなる場合も出てきます。
以前に軽く説明しましたが、魔獣討伐によって得た神の力を再度魔獣の呼び出しに使う無限ループはできない仕様も忘れてはいけません》
「こりゃやるしかないな。ルルの格上げね?」
「ルル~よかったねぇ。いっぱいマソもらえますよぉ~」
《ルルによればダンジョンの階層を積み重ねれば格はあがるそうです。ルル、これ以外に格を上げる方法はありませんか》
「あるけど千年単位で時間がかかるにゃ」
《何階層になれば格は上がりますか?上がったとしたら魔獣の上限レベルはいくつですか》
「神のダンジョンマニュアルには1階層につき少しずつ上がるって書いてあるにゃ。オマエ達の言うレベルで表現すると、レベル上限=階層X2+1となるみたいにゃ」
「+1ってなんだよ。上限が高くなる分には文句はないけど」
《ふむ。一番初めに創り出す時=0階層を考慮してのことでしょうか。もしくは地上を特殊な1層と見做しているのかもしれませんね。まぁ大きな問題ではありません。急ぎ階層を追加したいところですが階層追加は数千万の桁だった筈です。ルルいかがですか?》
「力が足りにゃいにゃ~」
《追加する階層を最小の一部屋だけにしたらコストは下がりますか?》
「・・・そんな階層はいやにゃ~ん」
《できるのですね。この12層を見てください。大きさはありますが一部屋ではないですか。いまさら何を迷う必要があるのですか》
「・・・にゃ、にゃむぅ」
《どうしました。さぁコストはどれぐらいになるのですか。答えなさい》
「リク~たすけてにゃ~ん」
「ふっ。いつもいつも甘い顔してるわけじゃないぜ。ダンジョンとレベル上げの事に関しては妥協しないし、させない。さぁ吐くんだルル!」
「ミューズぅ~にゃぁにゃぁ」
「くぅ~かわゆす。ごめんねぇ、りくさまの言うことはぜったいなのですぅ」
《八方塞がり、孤立無援、四面楚歌の三拍子。さてどうしますかルル。小さい階層を追加するのは一時的な話です。効率的に稼げるようになれば豪華な階層を入れ直す、または徹底改築することを確約します。逆にどうしても納得できないなら私達は他のダンジョンに行き別の小神に話を持ち掛けますが。そんなことはできないと思いますか?マスターの魔素を味わったあなたが?》
「そ、そんにゃ簡単には神に会えないにゃ」
《あなたと出会った時の経緯はお話ししていませんでしたか?あなたを見つけ出した実績を持つマスターに無理だとでも?》
「さ、さすがだぜアイ、隙が無い」
「アイさんこわぃ」
「・・・すいませんでした。アイさんの言う通りにします」
「オィィーー、にゃん語はどうした!!」
「きゃら作りをすてたルルちゃん。これはこれでカワイイかも、あふん」
「リクが30分魔素を追加で練って足してくれれば3階層分を一気にいけます。ただしその層は部屋無しで階段と階段のツナギのみの階層になります」
《それで結構です。マスターお願いします》
「オレのルルがオジオバさんぽくなった気がする。元に戻ってくれよ~なんか気持ち悪いぜ見た目がかわいいだけにな。まぁ回復法は今からやる。ミューズ悪いけどお湯頼んでおいて、30分ぐらいかかるからさ~。今日は風呂やめるつもりだったんだけどなぁ」
スタッフさんにお水を盥に溜めてもらい、オレはせっせこと回復法で魔素をルルに貯める。お水が溜まって魔道具でお湯になった頃、オレの方も魔素を渡し終える。いまは周りに魔素がないのでオレ自身の魔素を渡し切ってスッカラカンだ。ゆっくりお湯に浸かって休もう。
《ルル、階層を追加した時に人がいたらどうなりますか。それと追加したことが外部からわかりますか?》
「人がいる時はダンジョンの変更をしないようにとマニュアルにあります。実際やってしまったらどうなるかは知りません。外部からは変更が起こっている事は一切わかりません。逆に警告を出す事はできます。大きなダンジョンほど警告して締め出さないと永遠に変更できませんから」
《わかりました。今、ここにいるままで人が居ない事を確認して階層を追加できますか?無理なら明日ダンジョンに行ってからでいいですが》
「できます。変更に時間がかかるので今の内にやったほうがいいです。ちなみにボクは最下層であれば瞬時に戻れます」
《では今すぐ実施を》
「はい。指定しましたアイさん。現在立ち入り禁止になっています。明日の早朝には完成しているでしょう」
なんでアイだけさん付けなんだよ、と考えながらオレは湯の温かさに溺れていた。




