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 私達はキールのダンジョンの最下層にいます。この層でマスター以外の転生者と遭遇したのは驚きでしたが、そのうえダンジョンマスターにまでも出会うことができました。

 このような稀な邂逅が2度も続くなど通常では考えられません。マスターの持つ豪運の影響なのでしょうか。運と言うよりも因果と呼ぶ方が正しいのかもしれませんね。

 マスターが転生者であるということと魔素を視る力、この2つの要因が2つの出会いという結果を産み出しました。ヒロシと名乗る転生者と話をしなければ、ここまで本気でダンジョンマスターを探すことはなかったでしょう。またダンジョンマスターに確認するまではダンジョンを改造しようなどとは僅かでも考えなかったでしょう。

 そしてマスターはダンジョンの改造に対してかなりのやる気を見せています。当然でしょうね。今までこのダンジョンを遊ぶ側として探索してきましたが、このダンジョンのゲーム的完成度が今ひとつであったためやや不完全燃焼でした。

 それがある程度思うように作り変えられる思わぬチャンスを得たのです。マスターの性格的に考えても、この件にはかなりの力を入れていくことになるでしょう。

 当然私も吝かではありません。そもそもマスターの意志に沿う事は私の存在理由ですし、その中でもマスターが好む事であるなら私自身の喜びにも繋がります。腕によりをかけて取り組みます。


 マスターに最も効率的な手段を検討しろという指示をもらいました。


 なんてことでしょう。もともとこの件には力の限りを尽くすつもりでしたが、わざわざマスターから役割を与えられ、頼むとの言葉ももらいました。しかもその役割は私が最も活躍できる内容です。こんな心躍ることがあるでしょうか。ふふ、少し前までは感情の有無さえ不確かだった私がいまや『心躍る』なんて。不思議なものです。

 とにかく気合いをいれましょう。最近の私は進化した自分の機能をフルに活かせず持て余していました。今こそ能力をフル回転して最高の結果を導きます。


 さぁ始めますよ。







 まずは鬼門となるミューズです。マスター及びルルの内容に関してはある程度見通しがたっていますので心配はいりません。


 ミューズには魔獣を討伐することをメインに動いてもらいます。極めて妥当な割り当てです。これぐらいしかやってもらう事がなかったと言えなくもありませんが。ですが必要な役目であることも確かです。

 ただし懸念点があります。武器の耐久性です。現在は武器を製作中であり、今手にしているそれは木の模型なのです。実践で使用することなど考えられていない物なのです。どうしても使うのなら保護しながら、という結論になります。


 ミューズ及びその中にいる旧アイは魔素が見えませんし意図的に使用することもできません。しかし一般の人々の中にもなんとなく魔素を意識し、なんとなく活用している者は意外といます。組合長や宿の受け付け等がわかりやすい例です。

 つまり例え魔素が見えなくてもある程度なら活用できるのです。ミューズの体の設計元はマスターの体です。しかもこの世界で一番魔素の運用に長けたマスターと私というアドバイザーまで付いているのです。こんな好条件でありながら『ある程度使いこなす』なんてヌルいことは許されません。キッチリ指導する必要があるでしょう。


 まずは魔素が見えないという最大の弱点を克服します。そう、VRの出番です。私が見ている魔素視の画像をデータにして旧アイに送ることは比較的簡単です。また送ったそれを旧アイで展開しミューズに見せる事も問題ありません。では何かやっかいな点があるのでしょうか。あります。処理速度です。

 考えてみてください。自分の意志で魔素を操る感覚を得るための鍛錬。自分が『こうしたい』と操作を始めてから実際に魔素が動くまでにタイムラグが出来てしまったら?繊細で超感覚的な訓練なのに実際とは違う環境で行った時の感覚のズレは誤差で済むでしょうか。いえ、おそらく致命的なものになり得るでしょう。たとえ体得できたとしても実戦闘に耐えないものになってしまう可能性が大きい。


 とはいえこれ以外に有用な訓練方法は思いつきません。処理速度を限界まで上げてミューズに違和感を与えないようにする工夫が必要です。


 魔素視で感じる景色というのものをマスターはよくこう表現していました。キラキラが見える、と。よろしい、確かに魔素の粒とも言うべきものがキラキラと空に舞う雪の様に見えなくもありませんね。これらは大きさも輝きも何もかもが一つずつ全て違います。違うということはそれだけデータが多くなり、ひいては処理を遅くします。

 このキラキラを3種類程度に分類し、モデリングしてデータを少なくしましょう。いえ、いいえ、やるならもっと徹底的にですよね。思い切って単一モデルにしてしまいましょうか。大きさの違うキラキラがあるのなら複数個使用して密度表現で代用すればいいでしょう。ふむ、ゆえに単一モデルは最小サイズが求められますね。


 この方法を取ってやれば送るべきデータは三次元位置情報だけに限定できます。画像データを完全に送る必要がなくなったのでかなりデータを少なくできました。データを少なくできたことで送信時に行っていた圧縮作業を省略します。圧縮をやめれば旧アイ側での解凍作業もなくなります。これもまた全体の処理速度を上げました。

 さらにこの訓練のためだけのオリジナルの専用通信プロトコルを開発。ひたすら処理速度を上げる事に特化した通信機能を持たせます。他の用途には全く使えませんがその価値は十分にあるでしょう。

 最後にミューズの鼓膜の調整に入ります。開発したばかりの通信プロトコルが使用する周波数帯だけ感度を上げるように魔素で調整します。この影響で他の周波数帯の音が聞こえにくくなってしまいますが大きな問題ではないでしょう。もちろんこの訓練の時だけしか行いません。


 ここまでで画像送信の遅延としては3ミリ秒まで抑えることができました。目標とする1ミリ秒には届きませんでしたが今はこれでいいでしょう。ミューズには自分の魔素の動きが3ミリ秒遅れで見える事になりました。

 心配な点はもちろんあります。ミューズのレベルが上がったり身体強化の練度が上がったりしてステータスが、特にAGIとINTが大きく向上した時に、この遅延が無視できない物になっていくことが予想されます。その時にはこの訓練が不要になっているとよいのですが。


 さて、ここまでで12.8秒も使ってしまいました。さっそくミューズの訓練を始めましょう。







 この作戦の開始時から私は自身のリソースを3つに分けて事に当たっています。一つはミューズに、もう一つはルルへ。最後の一つはマスターを担当させています。懸案だったミューズの魔素VR表示機能の作成に勤しんで居た頃、一方ではルルとコミュニケーションを取ろうとしていました。


 非接触時のルルとの交信を確立するため、ルルの耳の構造を解析します。人間のものとそれほど大きな差はないようです。鼓膜だってありますしね。むしろ人間のものより性能が良いようです。特に高音域に対して有利な模様です。犬の嗅覚が極めて優れているように猫は聴覚が優れているのでしょう。

 であれば対応は簡単です。高音が得意なようですので高周波数帯域をメインにしてシンプルな通信プログラムを作成しました。相手はこんな見かけですが神なんです。なんとでもしてくれるでしょう。


 交信が出来るようになった後、真っ先に行うべきはルルとの認識の共有です。神の力である『エネルギー』とマスターの魔素との関係性。魔獣討伐から得るエネルギーと信仰から得るエネルギー。これらのエネルギー、つまり神の力で何ができるのか。ルルは何を望んでいるのか。私達に許される望みはいかほどなのか。


 それを知るために様々な質問をルルに投げかけていきます。簡単ではありませんでした。神の禁忌に触れる要素が多く答えられない部分が多くあったからです。手を変え品を変えあの手この手で質問を繰り返し、時にはマスターの魔素で籠絡します。最終的にはダンジョンを大きく拡張してルルの神格を上げる約束までして説得していきました。その結果驚くべき事実が判明します。

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