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キールのダンジョン12層。最奥の部屋のさらに奥の隠し小部屋。オレとミューズはネコちゃんをどっちが抱っこするかで小競り合いをしていた。
「そろそろミューズと交代してくださぃ~」
「もうちょっと待ってよ。抱っこしてたほうがいい名前でるからさ」
「わたしもかんがえるのですよ~はやくはやく」
《黒猫さん。その二人はひとまず無視してください。神でありダンジョンマスターであるあなたに問うべき事が山ほどあります。言葉を発することができない私の思念を読み取れるんですよね?》
「このオスに触れているときはわかるにゃ~」
《なるほど。接触時のみなんですね。では触れている今なら多少荒業を使っても平気でしょうか。聞きたいことを圧縮して一気に渡します。ひとつひとつ聞いていると時間がかかるので。答えてもらえますね?近い内に黒猫さんの耳の構造を把握して離れていても意志疎通はできるようにしておきます》
「このオスの魔素とひきかえにゃ~」
《結構。全容量の1割分と交換です。ではこちらの自己紹介を含めて送りますよ。答えをもらったらこの二人に説明しますので。さぁ二人とも、名前は一旦後にして現在の状況と今後の行動について説明しますよ。知りたいでしょう?黒猫の素性を》
「確かにそれは名前を考えるのに必要な情報だ」
「ノワールちゃんできまりですよねぇ」
「ミューズ、それはアカン。テンプレすぎる。既存のラノベに存在しすぎてむしろ反感を買ってしまう」
「だれのですかぁ?」
《・・・二人とも。何度も言わせないで。名前はあとで。そこに座りなさい》
「はい」 「こわぃですぅ~」
《・・・私が黒猫に聞き取りをした内容を伝えますのでよく聞いてください。
この黒猫は狩猟の大神の眷属神で森の獣を統べる小神だそうです。500年程前からこのダンジョンに居て少しずつ階層を増やして来たそうです。
私からすると非常に不本意ですが、マスターに付いて行く事は問題ないそうです。ダンジョンも平気でこのままが維持されます。どのような姿形にもなれるし、姿を見せる見せないも自由とのこと。さすがこのあたりは神ですね。
とにかくマスターの魔素が甘露でマタタビのような物らしい。一度知ってしまったらもう辞められないらしいです。ダンジョンの階層が増やせるかも、とも言っています。
ここまでが現在答えてもらえた部分になります。他には神々の目的やダンジョンを創る理由なども聞いている最中です。ただし言葉の定義が難解で煩雑、内容を理解するのも現代の事象に置き換えるのも困難な状態です。この世界の根幹に関わる秘密だからということもあるかもしれません。
いかがですか?神の意志の一端に触れる事になりましたよ》
「・・・閃いたっ!マタタビに因んで『タビ』ってどうよ」
「わるくないですけどもっとオシャレなのが~」
《もう少し他に関心を持つべきところがあるのではないでしょうか。信じられません、二人で示し合わせて嫌がらせでもしていますか?階層が増やせるかもなんて絶対にマスターに刺さる筈なんですが》
「確かにそこは気になってるよ。でも名前が優先だ」
《その優先度を出力した論理の詳細を知りたい所ではありますが。よろしい、私が名前を決めます。この黒猫はダンジョンの最奥の隠された部屋にいました。そして神であるのに信じられないほどおとなしく、されるがままですね。ハワイの言葉で『ルル』にします。意味は穏やかな、平和な、隠された、守られたなどです。実際にペットの名前によく使われる事があるそうですよ》
「・・・さ、さすがアイ、強敵だな。意外な所に伏兵が」
「わたしのノワールちゃんが負けちゃいそうですぅ」
《黒猫自身に決めてもらいましょう。どれがお好みですか。タビ、ノワール、ルルからどうぞ》
「神に名はつけられないにゃん」
《・・・・・》
「・・・・・」
「そこは空気読んでどれか選んでくれYO」
「ですよぉ~、愛称ってことでどうですかぁ?」
「ならば何でもよいにゃ~」
《ルルを選びなさい。マスターの魔素1割と交換です》
「そうするにゃ~」
「アイっ!きったねぇーぞ!」
「わたしのマソならもっと食べていいですよぉ?そのかわりノワールで」
「このメスの魔素は養殖モノだにゃ~いらにゃい」
《養殖とはなかなかの言い回し。存外に興味深い表現です。マスターが天然モノなのでしょうかね。さぁもういいでしょう。名前はルルで決まり。もっと建設的な話をしましょう》
「チキショー、タビは会心の出来だったのに。しょうがない、よろしく頼むよルル。オレはリクって名前ね」
やっと名前が決まった。思わず名前を優先してしまったが、階層を増やせるって話はめちゃ興味がある。最近レベル上げもちょっとだけ停滞していたし、このダンジョンはチュートリアルっぽさが多くて味気なかったしな。展開次第ではもっと楽しくなるんじゃないかな~って期待。階層の話がなくたってネコちゃんは絶対飼いたいけどね!
「ルルはオレ達についてきてくれんるんだよな?仲間って思っていいんだよな?」
「この魔素を他の神に渡すわけにはいかにゃい。ずっと一緒にゃ」
「打算しかないのが微妙なとこだけど、まぁ仲間って理解でいいか」
《マスター、確認しますが仲間にして連れ帰るのですね?いま会ったばかりで本当のところは何者なのかわかっていないのですよ》
「ああ心配ない。オレのカンがそう言ってるし、ネコちゃんだし。アイの直感はどうだ」
《直感プログラムも肯定しています・・・わかりました。超感覚や直感に秀でたマスターの言です。信じましょう》
「よし、オレ達の自己紹介はもうアイから済んでるんだっけ、全部話した感じ?」
《はい。転生者であることは既に知っていたようです。マスターは神の間では有名人らしいですよ。多くの神がマスターの所在を探っているらしいとのこと。ちなみにミューズのことも知っていました。わたしがコピーの仕組みを利用したことさえ把握されていました。よく考えたらこのダンジョンのシステムに手を出したのに、管理者であるこのネコが何も言わなかったのはどうなんでしょう。別に咎められたいわけではありませんが》
「おこらにゃいから魔素ちょうだい」
「ルルは調子にのっちゃうタイプなんだなぁ。かわいいから許す。食べていいよ」
《マスター、全回復法をしておいてください。それからルル、やたらと魔素を持っていきますが他の人間には同じことをしないように》
「リク以外の魔素はタダでもいらにゃいにゃ」
《それは朗報です。くれぐれも外界で一般人に影響を与えないようにしてください。ではマスターが魔素を回復している間に本題に進みましょうか。階層の作成と魔素の関係から聞かせてください。ミューズ、ルルをマスターから取り上げようとしないっ、会話ができなくなります!》
オレが全回復法を行っている間にアイがルルからダンジョンの階層作成について聞き出してくれたようだ。要約して話してくれることになった。ミューズはルルを抱っこできないとわかり、不貞腐れて床に寝っ転がっていたようだ。スネてるのがかわいい。
《この話を人間に漏らすことは神としての禁忌に抵触しており、基本的に門外不出の内容とのことです。自分のダンジョンを拡張するための事なのでギリギリセーフだろうと言っています。余分なことをして神罰でも受けたら大変ですし情報の取り扱いには十分に注意してください。特にマスター、考えずに口に出すことが多いのでお願いしますよ。
そもそもダンジョンとは『エネルギー』を集める施設。地脈と呼ばれる力の源泉から魔獣を作り、それを倒させることで効率よく『エネルギー』に変換し獲得するシステム。ダンジョンが無かった時代は信仰心のみがその『エネルギー』の獲得方法であり、集めるのにひどく時間がかかるモノだったそうです。
ある時代に転生者、もしくは転生者に親しい者がダンジョンを開発。客寄せのため魔石ドロップを設定し運営をスタートしたそうです》
「念のために聞くけど、神が自分で魔獣を倒すのは無しね?あとエネルギーってなに?」
《はい。神以外で倒す必要があります。エネルギーはダンジョンを構築する力です。しかしそれだけではないようです。完全には理解できませんでしたが力の強い神は大きなダンジョンを所有しているそうです。そこから推測すると『神の力』といったところでしょうか。それなら信仰心とも繋がります》
「ああそうだな。信仰心が増えれば神の力も増えるっていうのは、パーフェクトにテンプレだ。正解だと思うぜ。どちらかと言うと神の力を使ってダンジョンも構築できる、って言うのが正しそうだ。あとダンジョン開発者って例のヒロシってやつ?」
《わたしもそう判断していましたが、話を聞く限り不確かです。かなり昔のようですので。神の時間単位が難解で正確に把握するのは不可能でした。話を続けます。
初期のダンジョンは階層などなく、魔石を必ず落とす単一の魔獣がいるだけのシンプルな構造でした。年月が経ちノウハウが積み重なっていくと様々な発見と改良が加わります。強い魔獣を倒させた方がより効率が良い事。そのために倒す者に魔素を与え強くすること。強い魔獣と弱い魔獣を混在させず階層分けすることで、その者の実力に見合った適正な魔獣を倒させること。すぐに適正な階層にいけるようにする転送システムの確立。
これらの変遷を経てダンジョンは完成し、正しいダンジョンの作り方マニュアルが神々の間で共有されました。最盛期は市民の3%ほどが探索者であった時代もあったそうですよ。ダンジョンは人で溢れていたでしょう》
「・・・ん~なんかしっくり来ないな。レベル上げして強くなって深い階層って実際には無理だよね」
《最盛期の時代は市民の経験値特性が高く、私たちの言い方なら魔素塊をもっと効率良く吸収できていてレベルを上げる事が出来ていたらしいのです。いまより昔の人間の方が魔素に対する親和性が高かったのでしょう。なぜ劣化していったのかは気になるところです」
「あとは・・・マニュアルあるのにこのダンジョンのデザインはちとヒドイな?」
《これはルルの予想をわたしが意訳したモノになりますが、長い年月繰り返しコピーされ続けたマニュアルが劣化しているらしいのです。ルルのような若い神のダンジョンを力のある神のダンジョンと比較すると、かなり違っているそうなのです》
「・・・つまりオレが正しいダンジョン作成を指南する?」
《そこまでは言いませんがルルに希b・・・》
「うおおおおおーー!
ダンジョン運営モノきたぞーー!!」




