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 オレとミューズの二人はしぶしぶながらアイの指示通りに型の稽古を続ける。わざとゆっくりと動作させるということがここまで苦痛だとは思わなかった。今は特に身体強化しているから通常より速く動けるし、思考だって断然速い。つまり感じてる遅さは何倍にもなっているハズだよな。



「アイ、強化状態でこのスピードだと良い練習になってないんじゃないか?強化なしでやるか速度を上げさせてくれ」


《・・・そうかもしれません。強化無しでは木の棒がもちませんし、かといって強化して速度を上げるとこの部屋がもちません。仕方ないですねダンジョンにいきましょう。念のため弓も持っていってください》



 そんな流れでダンジョンへ。なんとなく魔素が濃い所の方がよいだろうと11層にやって来ている。そして練習再開だ。強化して少し速度を上げる。少しといっても強化した上での少しだから第三者から見たらすごいことになってそうな気がする。

 でも明らかに楽になったしやりやすい。さっきまでと比べたら楽しいとさえ言っていい。ミューズはどうかな。表情は特に変わってないように見えるが。



「ミューズ、大丈夫か?」


「だいじょうぶですの。もっとはやくしたいですぅ~」


《やはり二人とも気が付いてないのですね。二人とも開始時より随分速くなってしまっていますよ。訓練としては駄目でしたが、相対的に練習の密度が上がっているので指摘しませんでした。では二人が快適に感じられる所まで速度を上げてみてください。ミューズが先導してマスターが合わせる形で》


「は~ぃ」「わかったぜ~」



 許可が出たのでもうこっちのものだ。調子にのってどんどんスピードを増してゆく。ミューズもきゃっきゃ言いながら楽しんでるな。オレも負けていられないと少しづつ熱がこもってくる。棒同士のインパクト時の衝撃がだいぶ重くなってきたぞ。強化してるが大丈夫か。



《そこまでっ!やめてください。やり過ぎです。ですが予定していた練習量は超過できました。予定練習時間を10分の1以下に出来ているのも望外です。この勢いで次の型をやってしまいましょう。『薙刀の型』です。

 当然ですが『剣の型』とは違います。右足を少し前に出して半身になります。右手で棒の中央あたりを、左手で棒の手前を握る。棒を寝かせるように右上に振りかぶって左袈裟懸けのイメージで振り下ろす。そのまま寝かせるように左上に振りかぶって右袈裟懸け。これと左右を完全に逆にしたもので袈裟懸け、計4回の振り下ろしを。相手は全て外側へ弾くように。弾くときも持ち手と足さばきはきちんと意識してください。

 説明だとわかりにくいですがやってみれば体は動きますよ。VRで人体モデルを作成して視界に表示します。それをみながら最初はゆっくりでどうぞ。旧アイにも転送しておきます》



 すぐさまアイはVRを産み出して指導してくる。



《足の左右が逆ですっ!やり直して》

《手の持ち替えが遅いっ!もっとスムーズに。そうっ》



 アイさんが鬼コーチモードに移行したようだな。割と厳しいデスネ。だけどVRの見本がめちゃわかりやすくて動きはすぐ掴めた。剣の型の時とは違ってすぐに速度を上げさせてくる。その勢いに戸惑いつつも強化されたDEX(器用さ)で、つまり身体能力まかせでどんどん対応していく。なんでもうまくこなせちゃいそうだな。身体強化さまさまです。

 この後『槍の型』ってのを同じようにやってシゴかれまくった。アイはずっとノリノリで指導してきてたよ。楽しかったのだろうか。こちらも最初は戸惑うけど、慣れると動作が速くなってキレが良くなったりするので楽しめたかな。段々カッコよくなるんだよね。相手の動きが自分と鏡だからわかるんだ。







 3つの型を一通り終えて休憩している。



《想定していたより何十倍も早く練習が進みました。本来ならここで今までの型を全部使って組み合わせの練習やランダムに型を打ち合う訓練に移行するのですが、私たちの相手は魔獣なので対人練習はここまでにしましょう。

 当然次の相手は魔獣です。ここは11層、相手はあの紫の大きいのですね》


「いきなりアレじゃ厳しくないかな」


《いいえ全くです。自己評価が低すぎます。いまの練習の半分以下の力で十分ですよ。ただし棒の強化は上げてください。壊れそうなので。ゆえに部位強化がまだ十分でないミューズは見学とします》


「ひど~ぃ。りくさま~~」


「うんうん、しょうがないよ。リーダーの指示は絶対なのだ。鉄棒が出来るまで待ってなさい」


「ぐすん」


《休憩が終わったら索敵します》








 というわけでクリスタルヒュージボアのそばまでやってきた。名前が長い。角に身を隠して集中を高める。



(アイ、棒はメチャ強化したけどやっぱ軽くて心許ないんだが)


《十分ですよ心配のし過ぎです。不安なら強化の魔素に打撃増強か衝撃倍化のイメージでも込めたらどうですか。得意の爆発でもいいですよ》


(爆発はやめておこう・・・前にヒドイ目にあった。まぁいくぜ)



 角から飛び出して走り出す。身体能力のおかげで瞬時にトップスピードだ。自分でもえげつない速度だと思う。相手がオレに気が付いた時にはもう殴っていた。

 オレの目にはゴリゴリに強化された棒が相手の横っ面にぶち当たる瞬間がはっきり見えていた。薙刀の型だ。頭部に衝突したオレの木棒は一瞬も動きを止めることなく接触部分を大きく削り取りながら進み続ける。しかしその途中で魔獣は絶命してしまったようで、あっさりと魔素に変わっていった。



「ヤッバ。くっそ強い」


「りくさま~~しゅてきぃ」



 今日一日で技術が身に付いたとは思えないのでステータスの暴力と強化の力で薙ぎ払っただけなんだろう。ただその威力はすさまじいの一言に尽きる。

 そこへ離れていたミューズが駆け寄ってきて抱きついてくる。一戦ごとにイチイチ抱きついてたら・・・いいなっ!もっとおねがい。



《やはりミューズの魔素の様子が変です。戦闘自体は悪くありませんでしたね。ミューズ、今の様子なら反撃は無いので撃破の瞬間に魔獣のそばに居るようにしてください。魔素塊の様子を探ります。マスターは速過ぎるのでミューズの様子をみつつ手加減を。次に行きます》



 こうやってミューズに対する実験を兼ねながら棒の試し打ちをして行く。ぶっちゃけると棒はクッソ強い。もちろん弓だって強かったよ。でも決定的な差があるんだ。


 何が違う?


 戦闘への()()だな。弓の場合だと敵を発見、矢を番え、矢を強化、相手に放つ。この動作が攻撃までに一瞬のタイムラグを生むんだ。だからこのラグを縮める速射がつえーんだわ。

 しかし棒の場合は敵を見つけた瞬間走り寄ってすぐ殴ってるわけだ。棒は身体強化と同じで常に保護と強化が掛かってるからイチイチの掛け直しはないんだよ。

 威力だけで言ったら光の矢がピカイチだけど、あの()()がもらえるなら棒だって更に強化できるしね。

 それにもう一つ忘れてはいけない要素がある。終わった後、矢を拾わなくていい!これはいいっ。スゴクいいんだぞ。攻撃時間より矢を拾う時間の方が長いんだよ、笑っちゃうよね。とにかく拾う時間が無くなるのはとてつもないアドバンテージだ。

 蛇足になるけども棒を振り回すのが楽しくもある。昔見たアニメの主人公が如意棒を振り回して敵をバッタバッタするんだよ。もちろんアニメみたいに非現実的な動きが出来るわけじゃないから完全な真似なんてできないけど・・・あれ?できるかもな。いまはステータスおばけだしな。スキを見ていろいろ試してみよう。


 アイの指示に従って魔獣をどんどん倒して行く。ミューズをそばに居させて魔素塊を吸わせようとする試みは全くうまくいかなかった。どうやってもオレの経験値になるだけだったよ。ミューズにとどめを刺させても駄目だった。困ったな、ミューズのレベル上がらない説が再浮上してきたな。次はオレは手を出さずにミューズに一人で倒させるかな。武器が壊れるのはマズいか?



「なんかぁ、ゴメンなさぃ~」



 色々やっても駄目なので少しヘコんでいるようだ。そんなの気にしなくて良いのにね。ミューズのせいじゃないんだし。ヘコみながらも相変わらずオレにくっつく。



《やはり何か違和感があります。私の直感も反応しています。今すぐ解決はできませんが、今後も検討していきましょう。さて、結構な数を倒しました。実はすぐそばに12層への階段があります。せっかくですので降りてみましょうか》


「お~そうなのか。いくいく!」



 アイの案内に従い階段を降りる。階段自体には目新しい所はない。降りた先が少し意外な様子を見せていた。階段を降りた先に踊り場がある。その先は一本道の通路が伸びているだけ。分岐や曲がり角は無いようだ。だいぶ先で大部屋につながっているように見える。



「これは・・・また中ボスか?」


《どうでしょうか。ゲーム的視点で考えるとあきらかにおかしいです。大ボス部屋であるならまだ説明がつきますが、それでも中途半端で唐突な気がします》


「よくない感じだな、ガチで警戒が必要だ」



 このダンジョンに入ってここまでの違和感は初めてだ。今までは完全にゲーム要素に従って作られていたんだ。あの異常な11層の紫のだってしっかりゲーム的センスが見えた。うす~く、本当にうす~く警鐘が鳴っているような、そうでもないような。


 その時だった。

 若い男の声が後ろの階段から聞こえてくる。



「ちょっといいかな?」

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