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ホテルの新しい部屋で3人の会話は続いている。
《よく考えてみてください。いままでだって不滅ですが不死ではない存在を散々見てきているではないですか》
「そんなわけねーじゃん、と言いたいけど、そうじゃないんだな?どこでだよ」
《ダンジョンの魔獣です。敵が現れなければ永遠にその場で待ってますよ。ミューズと同じ不滅ですが不死ではない。ただしミューズは境界を越えましたけどね》
「・・・う~~むむ。ミューズ平気か?なんちゃって神様で永遠な存在らしいけど」
「りくさまの一番好みの姿でずっといられるなんて、さぃこ~ですぅ」
「事の重大さを理解してないだろっ。絶対にっ」
《そうでしょうか。不滅の可能性はありますが人間となんら見分けがつかない。寿命は森人で説明できる。ケガもするし強い力で攻撃されればおそらく死ぬでしょう。逆にどうやって見分けろと?》
「ぐっ、相変わらず口論では勝てない・・・」
《それにミューズはそれほど長生きはしないでしょう。マスターがいなくなればミューズも後を追います》
「わたし・・・私の夢が今決まりました。リク様に不滅の存在になっていただく事です。今後リク様のお手伝いをさせて頂きながらその夢を追います。このミューズの全てを賭けて追います。いつまでもどこまでもお側に居させて下さい」
《とてもすばらしい大きな目標ができましたね。協力します。時間はあるようでありませんよ。互いに切磋琢磨していきましょう》
「オマエら待てよ。さすがにおかしいわ。話がデカくなりすぎだ、宇宙かよっ」
《おお、久しぶりに学習しました。マウントフジの同類ですね。宇宙かよ!》
「えっなんですかぁソレ、おしぇてほしぃですぅ~」
言葉のチョイスを間違った、痛恨のミス!!
《その大目標は今後進めるとしてミューズ、他に人間と差を感じたことは?》
「いまのところこれ以上は。まだ日がたってないですしぃ~」
《確かにそうですね。今後も気にかけておきましょう。まだ確かめることはありますので》
「オレもオレも!ミューズと魔石の関係!」
「はぃ。成形済みのませきは吸収できました。ゴハンですぅ」
「ど、どゆこと?」
《おそらく食べ物と同様にエネルギーになるんでしょう。もしかしたらレベルがと思いましたが残念です。吸収の済んだ魔石はありますか?マスターに渡しておいてください。今後実験に使います。成形前の魔石はどうでしたか?》
「なんかぁいけそうだったんですけど~、なにも起きませんでした」
《そうでしたか。私の直感プログラムでは成功と出ていましたが。間違うこともありますし仕方ありません。この実験の続きはダンジョンの方がよいでしょうね。その魔石もマスターへ。違法な物なので注意です》
「うわっそうだよ、どうすんの」
《今後の実験に使います。部屋のどこかに隠してください。くれぐれもダンジョンには持っていかないように。私からもいくつか質問します。生まれてまだ日が浅いですが女性の日はありましたか?また子作りに関してですが・・・
「はいすとーーーーーっぷ。その関係はオレ抜きでもいいよね」
《では後にします。マスターは他に?》
「・・・食べ物の好みとか趣味とか。あと誕生日かな?」
「ニホンのたこヤキが至高ですぅ~。趣味はりくさま。コピーされた日は2月13日です」
「う、うん、なんか全部微妙だったわ」
「りくさまのタンジョウ日をおしえてほしぃのです」
「ん、12月32日だよ。でも孤児だから拾われた日な。ちなみにこの世界では全員1月1日に年をとる方法だよん。アイは初めて魔法ができた時で12月14日だな・・・おぃこの3人全員、まっとうな『産まれた日』がないんだが」
《質問は以上ですか?マスター》
「あとは・・・今日お風呂入る?お湯頼もうか」
「わ~~ぃ、いっしょにはいりますぅ」
「だめ。オレはあとでいいから先入りな」
「ぇ~。それならわたしが後がいいですぅ。りくさまの残り湯で・・・はぁはぁ」
「あ、普通に変態だった」
《私からもまだ確認はあるんですが、全て旧アイに関することなので後で個別に聞いておきます。どちらも睡眠をとらないので機会は十分あります。もうマスターも終わりでいいですね?》
「うん、これからいつでも聞けるしね」
《ではフロントにお湯を頼みましょう。明日はやりたい事があるので早めにゴハンを食べて就寝しましょう。ダンジョンはお休みですよ》
「りょーかい。チームリーダーにおまかせだ」
「は~ぃ」
「ところでさっき言ってた旧アイに聞くことって?」
《例えば、魔素を使用しない場合における記憶領域を利用した演算方法とその処理の最適化についてです》
「スマン!聞いたオレがバカだった!」
その夜。二人のベッドの間には衝立がしっかりと立てられ、皆就寝モードだ。リクは緊張して寝られないというお約束が発動するかと思いきや、あっという間に眠りに落ちていた。それを確認してアイはミューズに話しかける。
《ミューズ聞こえますか、声に出さないで応えて》
(は~ぃ、どうしました?さっきいってた旧アイに用事ですかぁ?)
《それは済ませました。別の事でお願いがあります》
(なんでしょぅ?)
《・・・・・・・》
(むずかしいことなんですかねぇ・・・?)
どうしてだろう・・・
想いはあるのにうまく言葉が出てこない。
論理を紡ぐ信号が同じ部分を何度も何度も廻っている。
アイにしては珍しく、いやAI魔法として生まれて初めて長い時間言葉に詰まったようだ。言語論理機能は完全に正常であるのに。アイの中で初めて感情が論理を上回った瞬間だったかもしれない。
それでもなんとかして想いを吐き出していく。
《もし、もしマスターがあなたと重なる時が来たら、最初の・・初めての時だけでいい、あなたの中にいさせてください。その時私もマスターを・・リクを感じたい、自分に刻み込みたい》
(・・・いつかきっとそういうお願いをされると思っていましたよ。でも私たちの主人はヘタれですから遠い先の話になるかもしれませんが)
《ダメ・・でしょうか》
(・・・・・・・・いいでしょう、受け入れます)
《・・・ありがとうございます》
しばしの沈黙が二人の間を占める。
《大きな借りが出来ました。この事はマスターには秘密に》
(はい。アイさんは女性なんですか?)
あまり考えたくなかった事、あえて避けてきた事が的確に質問として飛んできたので思わずドキっとする。と同時に随分人間らしい反応をするようになったと自分で自分に驚く。でもその答えは・・・
《わかりません・・・わからないの》
アイの葛藤とは裏腹に静かに夜は更けて行く。
朝、リクとミューズの二人はアイに起こされ食堂で朝食を摂る。食べているときもミューズはリクにべったりだ。
「めちゃめちゃ食べるなミューズ。しかもカロリーすごそうなヤツが多い。神でさえ羨むその体型が崩れちゃうよ?せっかくのスーパーボディなのに」
《おそらくミューズはどれほど何を食べようと太りませんし体型も変わりません。不滅とはそういうモノですので》
「おぃぃー、今ので全世界の全女性を敵にしたぞ?」
「べつにぃぃですょ~、りくさまが味方なら~。コレおいしぃ~のです」
「あとミューズ、くっつきすぎて食べにくいんだが」
「なんかぁ~からだがぁ~言うコトきかないのです」
《少しおかしいですね。マスター、集中してミューズを見てもらえませんか》
「部屋に戻ってからな。そのためにまず食べさせてっ!」
部屋に戻った後、話しながらミューズを魔素視してみる。
「たしかにちょっと変かな?ミューズ自身だけじゃなく、ミューズの魔素もオレに触れようとしているかもしれない」
「きゃ~はずかしぃ~」
「なんでだよ・・でも何もできてないし起こってないと思う。ってゆうか触れようとしてるってとこも本当かどうかわからん」
《・・・少しおもしろくなってきましたね。この件はまたダンジョンで実験します。とりあえず今からは別の案件です。家具を部屋の隅にズラしてください。中央を広くあけて。そして昨日手に入れた木の模型棒を持ってください。二人ともです》
「棒の練習かよ、さすがに部屋の中じゃマズい」
《大丈夫です。大きくは動きませんし型稽古と言ってもよいでしょう》
「ほんとかよ。まぁやるけども。ほらミューズも、こっち」
「はいは~ぃ」
《二人とも身体強化をしてください。マスターはミューズに合わせてくださいね・・・ダメ、それでは強すぎます。もう少し抑えて。微調整するのではなくミューズと同じくらいにすると考えて・・・ミューズを魔素視して・・・そう、それでいいです。
ミューズは木の棒に強化が偏り過ぎていますね。しかし見えてないのでしょうから仕方ありません》
昨日、整備課でもらってきた120cmの木の模型棒を手に取って強化を行う。ミューズの方も当然同様の棒を持っている。
アイが言うにはまず『剣の型』の動きを練習するらしい。お互いに向き合いその棒をまるで剣を持つようにして構える。いわゆる『中段の構え』だな。そこから片方が垂直に振りかぶり、垂直に相手に振り下ろす。相手は自分の棒で直角に受けて振り払う。その後またお互いに中段の構えだ。
これを交互にゆっくりと繰り返す。最初はびっくりするくらいゆっくりやる。お互いが打ち合って元の姿勢に戻るまででたっぷり10秒ほどかけて行う。
最初は少しだけ緊張していたが。10分もやればすぐ飽きてくるもんだ。
「アイ~この遅さのままどれくらい続けるの」
《2時間です》
「ウソだろっ!あ、コラっ、ミューズ、勝手に休憩するな」
ミューズも既に飽きてたみたいだし2時間のワードを聞いて投げ出したようだ。うむわかるぞ、この遅さは結構精神にくるのだ。
「オレも休憩・・・わっやめろやめろ、顔文字こわいって。前が見えないよアイさんっ」
「きゃぁ~こっちの旧アイさんも顔文字で攻撃してきたぁ~」
アイ同士が息ピッタリな件について。




