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 施設から飛び出してきてすごい勢いでオレに攻撃(?)してきたミューズがようやく落ち着きを取り戻し、シスターとノムさんを加えた4人で改めて挨拶と情報を交換し合う。



「先ほどはあらぬ姿を見せてしまいお恥ずかしい限りだ。リク様に再会できたことで張りつめていた気持ちが緩んでしまったようだ」


「恥ずかしい事なんて全然ないわ。普段は礼儀正しく厳格な所もあるミューズさんが、あれほどの激情に駆られて飛び出して行くなんて本当に驚いたけど、それほどリクを慕ってくれていたんだって。なんだかこっちまで感動してしまって目頭が熱くなったわ」


「ひょぇ~ミューズさんが?そんなにまで。おいリクっ!おめぇこんな美人さんを泣くほど待たせるとはどういう了見だ。今回は見逃してやるが次はねぇぞ。例えミューズさんが許してもオレが黙っちゃいねぇ」


「ノム殿、お力添え痛み入る。だがこうしてリク様は来て下さったんだ。今は喜びしかない」



 これなんの寸劇だ。セリフ決まってるの?なんなのサー。オレは見ておけばいいのカナ。ノムさんが美人に弱いのはいいとして、シスターも大概だぞ。



「なんかシスターもノムさんもミューズとめちゃ仲良くなってない?いつのまに」


「ミューズさんは本当にいい人。あなたを待っている間ずっと施設の手伝いや子供たちの面倒を見てくれたの。なによりあなたを大事に想っている者同士通じ合うものがあるのよね」


「そ、そうなんだ・・・」


「その通りです!シスター殿。リク様っ!我らはリク様の導きにより出会ったようなもの。気が合うのも当然でありリクの御心でありますっ!」


「おぉ確かに。我が大神様に感謝だ。あなたの敬虔なる僕ノムがこの出会いに感謝を捧げます」



(ミューズのキャラがおかしいんだが?悪乗りしてないコレ)


《ミューズに伝えました。おふざけみたいですね。『てへぺろっ』って顔してます》


(ミューズには余分な言葉を教えるなよ?)


《えっ!?余分・・・?》



 ミューズと2人が仲良くなるのは別に悪いことじゃない。むしろ嬉しいくらいだ。でも3人で同盟でも組んで攻められているような気がする。なぜかオレだけアウェイなんだ。

 まぁいい。そろそろちゃんとした話もしよう。現況を確認した上でキールに送った手紙の詳細を聞き出す。シスターが言うにはミューズの許可をちゃんと得たうえでこのような内容を書いたらしい。


 まずは元森人であったこと。

 キールの北部の森でオレに命を助けられた。

 オレと主従関係を結ぶため放浪者になった。

 放浪者であるので森人とは縁が切れている。

 オレが探索者だから探索者として同行する。

 それだけの実力はあること。


 聞いて納得だ。これだけ伝えていれば確かに受け付けのリオラさんも訳知り顔をするハズだ。つまり設定は余すところなく伝わってるのな。



「そっか~全部伝えてくれたんだね。ありがとう。オレもミューズを受け入れる決心はついたし、戸籍と探索者の資格を問題なく用意してもらえないと結構困るんだけど」


「リク様、いまやあなた様はキールの探索者の頂点と聞いております。そんなリク様の機嫌を損ねるような真似を簡単にするとは思えませんが」


「そうだ忘れるとこだった。リク、おまえダンジョンに入ってるのか?頂点ってどういうことだ」


「リク、私も詳しく聞きたいわ。危険じゃないの?たまに送金してくれてるけど無理して危険な仕事をしてるのならイヤよ?」



 あ~~面倒な話題になってしまった。安心させるためにもある程度きちんと説明が必要だろうしな。全部は当然話せないけど。アイに手伝ってもらってよい感じにキールでの生活を説明しよう。

 説明が苦しくなったら、ノムさんにはヴィナトゥールさんのネタを振ればだいぶ誤魔化せるだろう。絶対に因縁があるだろうからな。シスターには必要物資のリクエストを出してもらおう。いつもヒーヒー言ってるから。やっぱ食料かな?


 お互いの空白の期間を埋めるように長く話をしてしまった。名残は惜しいけどこれが最後なわけでなし、明日の狩猟組合の狩りのことを説明して今日はもう休むことにした。ノムさんにもシスターにも明日は明日でやることが多いはずだ。それが生きていくってことだ。


 明日は早朝に施設を出るから別れも今ここで済ませておく。また来るよ絶対に。












 クレマチス領の領都にある巨大な斡旋所。ここは領都の斡旋所として機能しているだけでなく、領内の各地方都市にある全ての斡旋所の中心であり総本部としての役割も担っていた。


 その巨大な施設のとある一室で男が熱心に書類に目を通している。それなりに上質な衣服を着ていること以外取り立てて特徴のない人物である。

 その部屋にある机や棚には大量の書類が積まれておりその様子がこの男の多忙さを表しているようだ。それだけではなくあちこちに魔道具らしき物も乱雑に置かれたままで、全体としてひどく散らかった印象を与えている。

 男は椅子に座り机上に所狭しと並べられた書類の山から処理すべき物を抜き取り、目を通した後必要な指示や対応を記入し別の山へと積みなおす。そんな終わりのない作業を延々と行っていた時、その部屋に通じる唯一のドアがノックされる。



「入れ」



 一瞬の躊躇もなく返事を返すが書類から片時も目を離さない。忙しく動くペン先もそのままだ。失礼しますと言って入ってきた者もその様子には慣れたもので、後ろ手で扉を閉めると遠慮なく室内に入ってくる。

 新たに入室してきた者もまた男で中肉中背の凡庸な外見だがどこか椅子の男と似た印象を受ける。観察眼の鋭い人間ならばこの二人が同郷であることを指摘するだろう。

 部屋に入ってきた男は椅子の男に出来るだけ近づき、声を潜めた上でここを訪問した目的である報告を始める。この部屋にはその二人しかいないはずだが余程他人に聞かれたくない話なのか随分用心深く見える。



「昨日のレポートの中で明らかに異常な数値を見つけましたのでお知らせに」


「続けてくれ。忙しいんだ簡潔にな」


「二日間のダンジョン探索で276単位の魔石を持ち帰った者がおります」


「多いな。多いが異常という程ではない。上位探索者複数の合同探索ではないのか」


「単独探索とのことです」


「なぜパーティーを組んでいない?単独でその数値は極めて優秀だ。D級を数十体というところか?国内トップだな」


「いえ、問題はそこではありません」


「もったいぶるな、早く言え」


「魔石は全てF1級、個数にすると1380個になります」



 報告を受けながらも未だ書類から目を離さなかった男が急に顔を上げ報告者を睨む。その眼は先程までと違い熱を帯び鋭くなっている。



「あり得ん。二日間の単独で7000近い魔獣だぞ、何かの間違いだ」


「すでに確認済です。ちなみに二日間といっても実質は一日半だったそうです」


「・・・強さ云々ではないな。いや強さもあるかもしれんが特殊な能力持ちかもしれん。魔石を創り出したり複製したり・・・その魔石手に入らないか?」


「手配済です」


「よくやった。その者は本物かもしれん」


「黒髪だそうです」



 そこまで聞いた男は天井を見上げて考え込む。普段は判断が早い男にしては意外なほど長時間思案している。が、心が決まったようで不意に立ち上がり宣言する。



「我々は途方もない永きに渡って網を張り続けてきた。報われる時が来たのやもしれぬ。あの方に報告する。他の者には知られぬようにしろ」


「はい。情報は止めさせました」


「私は出掛けるぞ」



 そう言って男は外套を羽織り部屋を出ていく。報告した男もそれに従って行くようだ。二人が出て行った後には手が付けられなかった書類の山だけが残り、その部屋の主の帰りを待つだけであった。



 これほどテンプレな暗躍ムーブが展開されているとは、さすがのアイでも気が付けない。もしリクが知れば地団駄を踏んで悔しがったに違いないだろう。

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