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次の日の朝。目は覚めたもののベッドからは出ないでシーツの中でダラダラしていた。昨日は武器の申請をしたし組合で狩りの相談もした。今日はどうするべきかを迷っていた。
ただ起き上がりたくなかっただけの可能性は否定しない。どーん
現時点で急いでやるべきことはやったよ。今はミューズからの連絡を待ってる。もちろん新しい武器の出来上がりもそうだ。気が短いオレには待つだけしかできない状態がもどかしい。
ふとレベル上げでもしようかと思い立つがなぜかテンションが低いままだ。まさかこのオレがレベル上げに飽きたとか?ないない、それはない。オレのゲーム歴の8割はレベル上げからできてるもんな。
もしかして・・・ミューズとあまりレベル差をつけたくないという深層心理が?
たしかにミューズと一緒のパーティーでのダンジョンは楽しいだろう。いままで一人だったからね。いやアイは別だよ、同じパーティーだけどメンバーとしては0人だし。
ふ~む。改めて考えてみるとやっぱりめちゃ楽しみだわ。ちょー大好きだった人と、ちょー大好きなレベル上げできるんだ。さいこーに決まってる。いますぐのレベル上げは無しだ!かわりに魔石取りをしよう。ってゆうかアイともそういう話してたよな?
アイによると魔石だけの場合、11層でやるよりも4~6層でやった方が効率はいいらしい。つまり数をこなした方がいいんだろうな。確かに11層の配置は魔獣と魔獣の間隔がすげー広かったわ。
え~と11層のクリスタルヒュージボアがE2級の魔石で銀貨15枚、んで4~6層のボアがF1で銀貨4枚か。7~9層はダメなのかな?F2で銀貨5枚だけど。
なるほどこういう事らしい。まず7層まで突貫する時間がもったいない。9層に行ってもグレートボアの3匹構成はない。逆に4層までは比較的早い。6層に3匹構成もある。極めつけの理由が、魔石モードでやるなら重くて途中で地上に戻ることになるだろうって。だから地上に近い方がいいってさ。
その話を聞くと転移がある11層もアリな気がするが、短時間しかやらないなら11層、一日やるなら4~6層の勝ちだそうだ。
結局4~6層でやった。節約してることもあるんだがHPが全然減らない。休憩がいらないのでぶっ続けで狩れる。もちろんアイがそれを許さないけどね。3匹構成が混在している6層がメインだけど、足りなくて5層も少し回ってる。
とにかく魔石がかさばるし移動と戦闘の邪魔になる。矢を拾う時間、魔石を拾う時間、荷物を置いたり持ったりする時間。これはダメですわ~。戦闘時間よりそっちの時間の方が長いし変に忙しい。戦闘で忙しいならいいけど物拾いで忙しいのはなんか萎える。
まともに持って移動できるのも300個が限界ギリギリなのでアイにカウントしてもらって、300溜まったら地上へを繰り返したよ。
それでも魔石モードで2日連続で挑戦、合計1380個のF1魔石を拾う。2日目は早めにやめたから1日半ぐらいの勘定でいいかもな。税引き後で金貨386枚と少々。受け付けの人の顔が青くなってたし査定にすごい時間かかってた。ゴメンネ。
めちゃ稼げたけどもう二度とやんねー。効率が悪くてももっと深い階層でランクの高い魔石を狩ろう。
2日間のダンジョンを終えて帰途につく。アイはこの2日間で取得したデータの解析に忙しいらしく言葉少なめだ。らしいっちゃらしいので放っておく。
あそうだ、明日は組合で狩りだった。なんか準備はあったかな?場所の選定は終わってるらしいし、仕込みもしてあるそうだし問題ないかな。
オレはどれぐらい手を出すのがいいんだろうな、などと考えているうちにホテルに到着だ。フロントでいつものようにお風呂サービスを申し込む。するとフロントの人がオレ宛に伝言を預かっていたらしく伝えてくれた。斡旋所の総合受け付けにくるようにだって。
ん!?もしかして?
アイにも確認して斡旋所に急ぐ。斡旋所のロビーに駆け込みすぐに受け付けに声をかける。
「リオラさん。伝言を聞いてきたんだけど」
「あら~リクくんいらっしゃい。いつもカワイイわねぇ」
このリオラさんは初めて斡旋所に来た時に手続きしてもらった思い出深い人で、それ以来ずっと優しくしてくれている。随分仲良くなってお互い名前呼びできるほどだ。リオラさんは初日からオレをリクくんて読んでた気がするけどな。
「丘の上村からメッセージよ。ミューズさんて人わかるのよね?待ってるから村に来てくれって。ちょっとワケありみたいねぇ~。上の人達が騒いでたわ。あまりおイタしちゃダメよ?」
「おイタって・・・」
「フフフ、聞いたわよぉ~神懸かり的な美人さんだってね。あ~あ~妬けちゃうわ、私というモノがありながら」
「リオラさん、からかわないで。メッセージの続きを早く」
「あらあらご執心ね。丘の上村で待ってるって。狩人のノムさんって人と教会のシスターの連記になってて、事情はよく聞いたって書いてあるわ。相談したいみたい。迎えに行ってあげるの?」
「うん、そのつもり。キールに連れて来てもいいんだよね?」
「さっき言ったワケありがちょっとね・・・連れて来てもいいけど一番最初にここに来て。どこにも寄らないで」
「わかった。明日の朝イチで連れてくるよ。リオラさんいますよね?」
「ええ、乗りかかった船だし、リクくんのためなら一肌脱いじゃうわ」
「もし話が難しくなったら手伝ってもらえますか?」
「安心して。私は味方。それに前例がないわけじゃないしね」
(これ事情ダダ漏れなんじゃないの?)
「心強いです。ありがとうございます。少しだけ狩猟組合に行って、その後村へ向かいます!」
「まぁさっそく。本当に大事に想ってるのね。いってらっしゃい」
この後組合に寄って明日の狩りの開始時間について調整する。丘の上村から来るので少しだけ遅めになると話す。すぐにホテルに戻りフロントにお湯のキャンセルと今晩は部屋に戻らないことを伝えた。
《マスター、急ぐのはいいですが落ち着いて。浮足立ってますよ、怪我などしないように。ついでなので道中訓練もしましょう。現在できる最大の強化を、特にAGIを意識してみてください。以前説明したように、マスターの強化は意志で程度を変化できる筈なので》
(望むところだ。街を出て森に入ったらすぐやるぜ)
《はい。村に手土産などは不要ですか?》
(あ~・・今回は里帰りじゃないし。次回で)
《ふふっわかりました。いきましょうミューズを迎えに。会いたいという気持ちを全面に出して、早くそして速くと願いながら。きっとその想いは魔素を動かします》
「はぁはぁはぁはぁ・・・つ、ついた・・・はぁはぁ」
《どれだけ会いたかったんですか。一瞬ですがAGIとINTが80ほどになってましたが。完全に人を逸脱したようですね。他のステータスも高かったですがその2つはダントツでした》
「はぁはぁ・・なんでINT?」
《視神経系統と脳内運動処理それから運動神経全般の強化、特に信号伝達系強化といったところでしょうか。速すぎて私には観測できませんでした。脱帽です》
「そんなにか・・はぁはぁ・・よし息もだいぶマシになった。いこう」
我ながら化け物じみた動きだったと思い返しながら孤児の施設に向かう。まだ一月半しか経っていないのに何故こんなに懐かしいのか。懐かしい?うれしい?よくわからない変な気分だ。戻ってこれたのはうれしいが、戻って来たかったわけじゃない。
息を整えながら歩いていく。施設ももうすぐそこだ。その時施設の扉が大きな音をたてて開く。
「りくさま~~やっときてくれたぁ~~」
もちろんミューズだ。すごい勢いでこちらに駆けてくる。おいおい身体強化つかってるな!危ないぞこれ。咄嗟にこっちも強化して身構える。案の定ぶつかるように飛びついてきた。
「ミューズあぶないだろコラ。普通だったら怪我してるぞ」
「ふぇ~ん、りくさまぁ」
泣いちゃってるじゃないか。いやまぁオレも会えてうれしいよ。だけどここまでやられちゃうと逆にこっちが一歩引いちゃうよ!ひとまず背中に手を回すくらいのことはしてあげる。
ミューズを抱きしめながら遅れて出てきたシスターとアイコンタクト。身振り手振りで理解したがどうやらノムさんを呼びにいってくれるらしい。ごめんねシスター帰ってそうそうに。
ノムさんの小屋に向かうシスターの顔には、懐かしさと誇らしさと戸惑いが混ざった複雑な表情が浮かんでいた。




