46
森人、と呼ばれる人種がいる。森と共に生きる人という意味だ。人とよく似た形をした森の一部と解釈している国もある。共通しているのは森と共に在るということだ。
人とは言うがいわゆる人間種とは決定的に違う。しかし見た目は人間とほぼ変わらない。変わらないが非常に目立つ特徴がある。耳だ。人間に比べ非常に細長い形をしている。
またその美しさも特徴の一つだ。森人は例外なく一様に美形揃いであり、古今東西あらゆる文献や記録にその美しさが綴られている。現代においても吟遊詩人がその麗しさと華やかさを唄いあげ、森人を見る機会がない人々にその姿を伝えている。
普通に暮らしていれば森人に会うことなどまずないだろう。なぜなら森人は自分たちの土地から出ないからだ。また他所の者がその土地に入るのも激しく拒否する。もともと森人の地は深い森の奥のそのまた奥にあるので、間違って人間種が迷い込むこともないのだが。
このように基本的に人間種と関わることが無い森人だが、完全に他所との接触を断っているわけではない。その例外は交易だ。森の中でどのような農業が行われているのか定かではないが、非常に質のいい農作物が育てられているようだ。その中でも穀物がこの交易の中心となっているが、特に小麦に関しては『森小麦』と呼ばれ非常に高値で取引されている。
逆に森の中では鉱石類がほとんど採取できないらしく、鉄、青銅、真鍮の類、石材、稀石、宝石関連、さらに魔道具、このあたりは外からの輸入に大きく依存している。
これらの交易を一手に担っているのはウィリデ連合国だ。理由は二つある。一つは森人の土地が連合国の北東に隣接し、かつ連合国以外の国とは接していないという単純明快なものだ。もう一つは連合国が道具と狩猟の大神を主神としていることだ。
この大神は緑と風をも保護しており、森人の大半もこの大神を信仰している。もう少し正確に言うならば、森人の多くは緑と風の大神と大地と農業及び豊穣の大神の二柱を信仰している。
この二つの要因により連合国は森人と比較的親しい関係にあり、森人をもし見かけるとしたらウィリデ連合国ということになるのだ。親しいといってもあくまで比較的だということに注意するべきであり、連合国の人間だから森の深くに立ち入れるわけではない。
連合国はこの関係をうまく利用して他国から鉱石類を輸入し良質な穀物を輸出する、いわゆる中継貿易と関税で大きな利益を得ているのである。この国の領主の多くが商人の成り上がりであり、その腕を遺憾なく発揮しているようだ。
ここまでが一般人が森人に関して有している知識である。一般人が深い関りを持つことは無いのでこれで十分なのだ。それに対して軍や斡旋所の上層部、森人に詳しい一部の人間しか知らない事もある。
森人の外見は人であるがその生態には大きな違いがある。
まずは性別だ。森人には女性しかいない。男性タイプがいないのである。単為生殖であるかと言えばそうでもない。ではどのように増えているのか。
大樹と呼ばれる古く大きな樹が森の奥にはあるという。1本だけではない。部族と呼ばれる単位毎に1~2本の大樹が存在している。
その大樹から新しい森人は出てくるのだ。
産まれてくるとは言わない。新しい森人は赤子ではなく成人の姿でやってくるから。驚くべきはそれだけではない。出てきた成人の森人は全員一張の弓を胸に抱いている。この弓は森人にとっては命に等しい物であるという。生涯に渡って持ち続けることになるのだ。森人によっては眠る時さえこの弓を手放さない者もいるらしい。
それほど大事な物なのにこれを捨てることがある。森人が外の世界にて仕えるべき主人と出会った時だ。
そもそも外に出る事がない森人がどうやって外の人間と出会うのかは想像し難く興味が掻き立てられるところだ。だが主人と出会ってしまった森人は、自ら弓を捨て森を出て主人についてゆく。森人の土地以外で出会う森人はほぼ例外なくこのパターンであり、弓を持っていない森人を見たらそう思って間違いない。森人の土地以外にいる森人。
これを人は放浪者と呼ぶ。
「このような理由で私はリク様と何とかして連絡を取るため、この村に住むノム殿とシスター殿を探しにやってきた、ということなのです」
「ほぇ~~そんなことが。いやとにかくビックリしたぜ、何者が俺んちに現れたんだったてな」
「驚かせてしまったようで申し訳ない」
「そんな謝らないでミューズさん。こちらこそノムさんが不躾な対応をしてしまって。ほら~ノムさん」
「アハ・・アハハ・・スマンかったです」
「私のような者が現れれば警戒は当然、人として正しい反応だと」
私はいま丘の上村に来ています。もちろん作戦行動に則ってのことです。
この国の戸籍問題をクリアするために謎多き国の住人の神秘性、秘匿性を利用することになりました。とはいえ謎だらけの人物というだけではかえって怪しまれます。そこでその神秘性に貿易相手としては重要な国という関係性をうまく混ぜ込んで出自の怪しさを誤魔化してしまおうという作戦なんです。
その背景を援護射撃にして『謎深き森の麗人、森の外の人間に命を救われ主従関係を結び放浪者となる』というテンプレストーリーを強引に押し出していきます。どうです?ラノベ一冊これで書いてみましょうか。
人間はとてもおもしろい感性を持っています。命を救われて恩義を感じ主従となる、この部分に大きな運命と物語性を感じて納得してしまうようです。他の部分だけを見ればうさん臭さこの上なしなのにです。
「このままの私が突然リク様のもとへ・・キールに赴いても警戒されるだけだろうと推定した。下手したら警備の者に捕まる可能性さえあったかもしれない。自分がそれほど珍しい存在だということは認識している。珍しいとはいえ森人はこの国の正式な貿易相手でもある。きちんと手続きさえすれば問題は起きないと信じている。
ゆえにまずあなた方の力をあてにさせてもらったのだ。なんとかしてリク様に連絡を繋いでほしい。リク様はあなた方二人を父と母親のような存在だと仰っていた」
「・・・ぉ、ぉぅ・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
男は言葉に詰まり、女の方は顔を伏せ涙を拭っているようだ。共にリク様を愛してくれていたのでしょう。大変よろしい。この二人には人族の中でも特に目をかけてやらねばなりませんね。
「ノム殿にはもうここにくる道中にお話ししたが、私がリク様と出会いどうやって大猪から助けられたかをもう一度お話ししよう。ここを飛び立ったリク様が成長され、いかに偉大になられたか実感して欲しい」
「さて、少しばかり話し込みすぎてしまったようだ。そちらにも時間を取らせてしまって申し訳ない。お互いやるべきことをやりましょう」
リク様の偉大さを語るとつい時間が過ぎてしまいます。慌てて作戦行動にもどります。
まずはキールに対し連絡を取ってもらいます。理想としてはリク様が迎えにきてくれるのがいいでしょう。
次に教会に出かけてお布施をします。大金はかえって危険だと指摘されているので金貨1枚程度です。それでも大金だったのでしょう。担当者は驚いていました。
施設にとって返しキールからの連絡を待つ数日間、私にできそうなことを提案してもらいます。力が強い事は伝えてあるので力仕事がいいようです。それだけではすぐ終わってしまうので森で狩りをすると言っておきましょう。あとは一応客人として部屋を用意してもら・・・えなかったので大部屋で過ごすことになりました。空いている部屋はないようです。リク様が使っていたベッドを貸して頂けました。とても光栄で幸せな気分です。
狩りについてですがリク様のステータスであれば造作もありません。それよりアイさんから出ている課題の方がやっかいです。森に出掛けて獲物を押さえたらそちらの方をがんばろうかと考えます。
今の私の状態はこの村に居た頃のリク様に似ているようです。この世界に誕生して日が浅いのに、もう何年も過ごしているように振舞わなければならないこと。AI魔法が頭の中にあり使いこなす必要があること。一般人よりステータスが高いこと。魔素を身近に感じていること。大きな秘密を抱えていること。違いは私が魔獣であることぐらいです。
私の中のAI魔法は『劣化アイさん』ということなので、学習して進化することができないそうです。それはそうです。AI魔法はリク様だけが持つ神の権能に等しい技術。そんなものが私ごときに与えられるわけがありません。
コピーを作成した時点のアイさんと同じデータ、かつ魔素が自在に操れない状態。そしてリク様のレベル19のステータスと身体強化。これが今の私に与えられた力です。
明日以降気合いを入れて課題に取り組みます。最優先は自分の外にある魔素を取り込んでレベルアップできないかに挑戦です。そのために魔石をいくつも持ってきました。次に魔素反響定位の習得ですね。
どちらも困難を極めるでしょう。どうかリク様、そのお力をお貸しください。
ぁ~あ、りくさまにあいた~~ぃ。




