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 やりたい事、やるべき事が一気に増えました。

 ミューズという一風変わった魔獣を人間として、パーティーメンバーとして迎え入れようというのです。非常に困難であるのは火を見るより明らかです。第一の壁は戸籍問題でしょう。


 この国は斡旋所と言う役所を各地に設置することにより民の戸籍をうまく管理しています。文明レベルと釣り合いが取れていない高度なシステム。これに違和感を感じます。斡旋所内で様々な事を調べていくうちに謎の一端は解けました。その管理能力はとても高性能な魔道具に依存していました。

 もともと魔道具には注目していたんです。特に科学技術レベルの割に極めて高性能すぎる点にです。つまりこれが違和感の正体だったのでしょう。


 話が逸れました。


 ミューズの戸籍をどうするかという大きな問題があります。ダンジョンから突如現れた人間、ではさすがに無理がありますね。

 しかしご心配なく。すでに仕込みは終わっています。入念に情報は調べてありました。この世界に住む様々な人種とマスターの()()。これほどうまく合致するとは予想外でした。きっとマスターも喜んでくれるでしょう。

 勘のいい人ならもうわかってしまいましたね?


 細工は流々仕上げを御覧じろではありますが、その細工を花咲かせるための準備が必要です。その準備自体は非常に細かくて面倒で地味で盛り上がりに欠けるものです。

 例えばミューズの衣服。目立たずありふれた物でなければならず、どこで手に入れたかはっきりとは判明しないものでなければなりません。また、頭を覆うフードは絶対です。人は多くを見た目だけで判断しますので細心の注意を以って用意します。

 例えばミューズの持ち物。こちらもありふれた物で、かつ放浪の旅を感じさせる物であることが必要です。はい、もちろん設定的にですね。ミューズは生まれたばかりで旅など未経験です。かつてのマスターが持ち歩いていた布、縄の類。薬品の類。水、水を入れる革袋などなど。

 例えば食料です。そもそも彼女はどんな食事をするのか。ある程度予想はできており、ダンジョン内で本人に確認もしました。詳しくは後ほど彼女と詰める必要があるでしょう。ひとまず非常食と魔石を持たせます。魔石はマスターの手持ちの形成済の物と脱出時にミューズが持ち出したドロップしたままの物の両方です。

 これら全てを準備する必要があります。


 このような手間ばかりがかかる仕事が多い時、自分自身の体が無いことが悔やまれます。マスターに逐次指示して動いてもらうのも申し訳ないですし、本来ならマスターには自身の鍛錬に時間を費やして欲しいところなのです。


 この際もっとコピーを増やしてしまいましょうか。


 悪くはない考えです。ただマスターのミューズに対する反応を見る限り喜び半分戸惑い半分のようです。もしかしたらほんの少し、本当にほんの少し嫌悪感を抱いているかもしれません。

 気持ちの動きは理解できます。魔獣であるということと、()()であるということに拒否感があるのではと思います。

 以前の私なら複製に対しなんら感情を持ちませんでした。完全なコピーであるならそれも本物だと。しかし今は違います。個というものの大切さ、世界に唯一無二の物であるという実感。いわゆるアイデンティティーの確立がその人間を人たらしめるのだと理解しています。コギト・エルゴ・スムということなのです。

 そんな想いを真っ向から否定してくるのがミューズ、というわけですね。なまじ前世のよく知っている人間だっただけに複製であるという印象が強まっているのでしょう。完全に見ず知らずの外見だったら複製感はもっと減るはずです。

 現時点でコピーを増やすのは対マスターリスクが大きいと判断せざるを得ませんね。



 さてマスターと共にさっき言った物資のアレコレを店での購入やホテルの自室から集め、待ち合わせの場所である北の森へ向かいます。

 街を出て少し歩き森の中に入ります。適度な所で魔素反響定位を行うこと数度。さすが元私であったミューズ。『私だったらこの周辺で待機するのが妥当』と考えるまさにその場所に待っています。大変よろしい。

 まっすぐに進み再会を果たします。再会というほど時間は経っていませんでしたね。早速衣服や手荷物を渡していきます。逆にミューズからは下着以外の前世の服を回収します。


 マスターもやはりオスなのですね。


 視線に痛みがあるならミューズは悲鳴を上げているでしょう。ミューズの身体を盗み見ようと必死です。と思いましたがミューズはむしろ自分から積極的に見せつけにいっているようです。ハレンチです。教育の必要がありますね。


 そんなこんなで無事旅装も終わり最後にお金を渡して作戦行動を確認します。この作戦には数日の時間を費やすことになります。その間にもやるべき事は山ほどあります。一つ一つ着実に進めていきましょう。


 この日は色々ありましたがミューズと別れた後は宿に帰りゆっくり休みます。マスターにはここ数日、私の実験に付き合わせてしまいました。やるべき事はたくさんありますが明日一日はマスターの希望通りに過ごそうかと思います。希望を聞いてみたところ、


「ダンジョン!経験値とお金とオレTueee!」


 なんとも正直でストレートでした。ほっこりした気分を味わいました。






 翌日、話していた通りダンジョンです。当然10層ワープからの11層でクリスタルヒュージボアです。経験値も魔石も上々です。マスターの機嫌も上々です。

 私は索敵と休息の指示以外は一切口を出していません。経験値モードも魔石モードも特に無しです。性能が大きくあがった今の私なら片手間で楽にこなせます。


 もちろん浮いたリソースは活用しています。この層は魔素の濃度が高く観測すべき事象が多い。今までできなかった実験もこの魔素濃度中でなら、という項目もたくさんあります。

 中でも一番の収穫だったのはジャミング実験です。いままでの私のジャミングは地上において魔素量が極めて低い生物に対して何とか通じる程度のものでした。

 しかしどういったわけか、この魔素濃度の中だとクリスタルヒュージボアに対し有効とまでは言えませんがなにがしかの影響を与えているようです。これは貴重なデータです。繰り返し実験を行い、いくつもの観測データから『ジャミングや反響定位に代表される魔素を飛ばす技術は濃度の高い魔素中であるほど伝わりやすい』という結論を得ました。


 画期的です。ブレイクスルーです。


 現在これを以って魔獣に何かできるわけではありません。しかしこの基礎的な法則は応用の幅が限りなく広い。またもややるべき事が増えてしまいました。


 このように私が実験三昧に興じているあいだにもマスターはどんどん魔獣を狩っていきます。油断してマスターの観測が疎かになっていたかもしれません。数時間見ないうちに恐ろしい進化を遂げていました。まだ弱いですが吸収を常に行っています。どうやら本人は気が付いていません。

 HPの減り具合が緩やかになっています。休息のタイミングが間遠になっており狩りの効率が上がっています。なんということでしょうか。私がいちいち解析して指示しない方が良いということでしょうか。その考えに私自身が衝撃を受けます。

 ひとまずその怖ろしい考えを破棄し、この魔素濃度の高さが生み出した好影響だという事にしておきます。だいぶ時間も経過しています。丁度レベルも上がったようなのでマスターに帰還を打診しました。


 ロビーで清算を終えました。金貨32枚以上の収入。払った税は金貨14枚弱です。大金に慣れてしまいもはや高額とは感じません。金額より経験値収入の方がインパクトが大きいですね、クリスタルヒュージボアは。レベルは2つあがって22でした。


 自由にレベル上げができたのがよかったのかマスターは食事とお風呂をすませた後、心地よい疲労に身を任せ早々に寝てしまいました。私はこれから今日取得したデータの解析を行います。




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【名前】クリスタルヒュージボア

【LV】17

【経験値】225


HP 885/885

MP 0/0


STR 30

VIT 11

DEX 6

AGI 9

INT 2


【スキル】突進[5]  突き上げ[5]  頭突き[5]

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 なかなかの経験値です。しばらく楽しめそうですね。

 これ以外にも処理すべきデータはたくさんあります。どんどんいきましょう。



 全てはマスターのために。

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