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 私は木材商人の三女としてこのキールという街に生まれました。


 この国はとても緑豊かであり、主神の加護も相まって木材にはとても恵まれています。私の家もその豊富な森林資源を元手に他領や隣国にその材を輸出することで生計を立ててきました。

 当然の事ながら木材を扱う商人は我が家だけではなく、大小様々な商家が存在しています。この街の中だけでもいくつもの店が建ち並び、我が家はその中でも中堅どころ・・・いいえ中堅の下の方に位置しています。残念ですが。


 それでも商いには大きな問題もなく、贅沢はできませんがさほど苦しい思いもせずやってこれました。長女次女とともに我が家を盛り立てるべく必死に働いてきました。


 そんな中この街の大店おおだなの次男が嫁を探しており、私もその候補になっているとの噂を聞きました。しかもかなり有力候補であると。

 普通なら玉の輿と喜ぶところですが、その次男が・・・想像におまかせしますが気が弱い女性なら身投げも考えてしまうような人物なのです。


 本当にありふれた話(テンプレート)で笑ってしまいますね。我が家が大店の要望を断れるような力を持っているわけも無く、決まってしまえば従わざるを得ません。幸いにも年齢的にまだ少し猶予があります。私の年齢はともかく相手の次男が店を持つにはまだ若すぎるからです。

 商家以外の人にはおかしな話に聞こえるでしょうが自分の店を持つにはある程度の年齢が必要で、しかも店を持った後に結婚するという風習があるんです。


 嫁候補の噂を聞いた私はこの風習を盾にして、なんとかして暗い運命から逃げ出そうと画策しました。金銭的に独り立ちして家を出る可能性を模索できる職、しかもそこでよい出会いが期待できるような職場。そんな理想郷を見つけ出そうと思い立ちました。



 そんな都合の良い職場があってたまるかと思いますよね。あったんです。



 幸い私は見た目がかなり良く、商家に生まれた関係で教育も上等な物を受けています。当然努力もしました。幸運に恵まれたところもあったでしょう。私は無事希望通りの職に就いたのでした。


 それがここ、クレマチス領軍ダンジョン管理ゲート課キール支部なんです。



 ここは一般人がほとんど訪れる事のない場所。出会いなんてあるのかと疑っていますね?いいえあります。そう領軍です。

 ダンジョンを訪れる軍の人間は戦闘能力が高く、魔石をたくさん拾ってくるのでお給料がずいぶん良いらしいのです。魔石は領主様に納めますが危険な探索に対し特別手当が出るそうです。領軍に所属していて給料も良いとなれば多少の見た目のことは気になりません。良い人を探して日々受け付け業務を真剣にこなす毎日でした。



 そんな中私は出会ってしまいました。黒王子様に。



 その人は成人はしていますが、まだ顔にあどけなさが少し残る細身の若い男性でした。受け付け女子情報網によると16歳で成人したばかりとのこと。氷のように冷たい瞳、繊細で優美な曲線を描く鼻梁、夜の帳を思わせる艷やかな黒髪、最低限しか口を開かない寡黙な性格。異性に対し美しいと感動したのは初めてでした。私の方が()()年上ですが問題ありませんよね。

 そんな美しさを持ちつつも笑うと幼さが出て来て愛嬌がある、そんな最強生物が他にいるでしょうか。

 しかも稼ぎも超一流です。今までの探索者、領軍の精鋭はいったいなんだったのか。あまりにも桁が違い過ぎて勘違いや冗談の類かと思ってしまいます。



 これほどの良物件。当然それを巡る戦いも苛烈を極めます。



 彼が入ダンすると予想される日の勤務シフトの取り合いはまさに命がけです。女の醜い部分が本当によく出ていますね。しかし負けるわけにはいきません。私にもそれなりの想いと覚悟があります。


 今日はツイていました。その予想が当たっていたのです。

 私のシフトは午後からだったのですが、彼はその日午前のかなり早い段階で入ダンしており、過去の例からすると私の勤務時間内に帰還すると予想されるのです。しかも既にいつ帰還してもおかしくない時間なのです。


 私は彼がいつ戻ってきてもいいように今日何十回目かになるお化粧と服のチェックをします。そして一言目になんと声をかけようか考えます。


 彼のことを考え続けていると何かお腹の下の方がきゅ~んとしてきました。あれ?躰も熱くなってきたような。頭がぼーっとしています。



 何かおかしいような?周りの同僚ライバル達の様子も異常です。



 いえ、そんなことはどうでもいいんです。帰還した彼に最高の笑顔を見せなければ。そしてそのまま彼と結婚しましょう。ええ、それがいいですね。それが運命です。



 その時まさしく彼の声が聞こえてきました。



「みなさん見てください!新しい魔獣がいままでよりも高い質の魔石を落としましたよ!高いランクかもしれません」



 ああ、彼が見てくれと言っているわ。絶対に見ないと!全てを捨ててでも、命をかけてでも見ますわ!

 彼の、彼の元に行かないと!













 オレとミューズは11層で魔石を無事取り終え、ダンジョン入り口の階段下まで戻ってきていた。目の前の階段を昇れば受け付けロビーだ。



《少々ここでお待ちください。脱出作戦の仕込みをします。マスター、魔素を派手に使いますので心積もりを。仕込んでいる間に作戦を説明します》


「あんまりヒドイことはするなよ?」


《マスターに色目を使ってきたあの例のメスの発情魔素をアレンジしたもので、ヒドイどころかむしろ・・・コホン。

 よろしい。では説明します。まずはマスター。11層のクリスタルヒュージボアが落とした魔石を手に持って叫びながらロビーに行ってください。これは明らかにE級以上ですのでそれを派手にアピールするのです》


「高ランクの魔石です!みたいにかな」


《はい。いま私が上のロビーに仕込んでいる魔素でスタッフは全員マスターに強く注意を惹かれる状態になっています。容易に注目を集める事ができるでしょう。この力の強制力はかなりのものです。

 そこでミューズあなたの脱出の出番です。ロビーの見取り図、街の地図、今後の行動について鼓膜から圧縮データを送ります。受信して解凍、展開、把握しなさい。あとヒールは脱ぎなさい》


「ミューズにそんな機能が!」


《制御を解く時に旧アイの劣化バージョンを脳に置いてきました》


「作戦と行動はわかりました~。リクさまぁすこしの間おわかれですぅ。ヒールをあずけてもいいですかぁ」


「ああ、細かい作戦はオレにはわからないけど気をつけてな。最悪バレたっていい、見捨てやしないよ」


「り、りくさましゅてきぃ~」



 ミューズが抱きついてくる。大事な作戦の前だ、すぐ体を剥がして・・すこしだけ味わおう、うん。



《マスター、今、上のスタッフの配置が最も適した状態です。すぐに決行を!》


「わかった、いく!」



 目の前のロビーに向かう階段を一気に上がる。上がった所には入り口の目隠しのための衝立がある。その衝立の右側をスタッフがいる受け付け方向に抜け大声で叫ぶ。



「みなさん見てください!新しい魔獣がいままでよりも高い質の魔石を落としましたよ!高いランクかもしれません」



 衝立を通り過ぎる時さりげなく衝立の位置をズラす。後続のミューズが少しでも見えなくなるようにだ。



「どうですかこのまs・・・うわっ」



 受け付けの近くまで来たところでロビーにいた全てのスタッフがオレに殺到していることに気が付く。彼ら、彼女らの表情がはっきりと異常だ。目の焦点が合ってない。オレへの視線が怖い。オレが手にした魔石なんて見ていない。全てがオレを見てオレを求めている。少しでもオレに近づこう、触れようと必死の形相だ。


 もともとロビーには5人の人間が居た。受け付けに女性3人、外からロビーへの入り口の内側に門番のような男性が2人。この5人がオレに駆け寄り前後左右を取り囲む。



(アイ!異常すぎるぞっ!危険じゃないのかっ)


《効果が高すぎたようです。いまミューズが衝立の反対から出て外へ抜けました。魔素効果を解除します》


「み、みなさん落ち着いて!魔石はちゃんと渡しますから。オレは逃げませんよ」






 時間はかかったが何とか落ち着きを取り戻し、10層突破、新層、新敵、新魔石の報告をしてなんとか終了した。あの様子だとミューズがゆっくり歩いて出て行ったって気が付かないだろうよ。

 あ、もちろん換金もしたよ。魔石はE2級、銀貨15枚だってさ。このダンジョンでは初なので暫定だそうだ。



 今日は精神的疲労がヒドイ。

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