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このダンジョンに入るのももう3回目だ。
レベル上げは順調と言っていいだろう。そこそこの狩り場も見つける事ができた。
階層の記録も塗り替えた。軍やゲート管理施設、斡旋所の上層部にはかなりのインパクトを与えたようだし、影響力も上がっているだろう。
ただし、いま程度じゃ全てを跳ねのけることなんてできやしない。干渉してくる鬱陶しい奴らを蹴散らすにはもっと力が必要だ。
名声や権力なんて欲しくもないのに、それがないと息苦しくてやっていけない。
でも手に入れたら入れたで、それまた息苦しいんだろうな。やってられっかよ。
息苦しさはともかく、このダンジョンで名声を得ることは不可能ではなさそうだ。
でもそれだけじゃない。金も稼げる。
まぁ今はそこまではいらないけどな。
出来たら魔石が出るのは少し遠慮してほしい。経験値が減らないように。
でもお金が無くなるのも困る。アハハ、矛盾してるかな?
お金は大事だ。
もうあのホテル以外で暮らしたくない。お風呂は毎日入りたい。うまい物をもっと食いたい。自分も部屋もいつも清潔でいたい。快適に暮らしたい。
あの村のみんなの暮らしをマシにしてあげたい。
シスターに服や化粧品を、そしてずっと綺麗でいてほしい。
いつも腰をかばってたノムさんにいい薬を送りたい。
金が要る。経験値も減らしたくない。
ダンジョンに出会う前はこんなじゃなかったよな。質素な生活でも満足できてた。人間は欲深く、邪で際限がない。もっともっともっと。上にいけばいくほど求める。
オレは転生者だ。
ここには無い物も色々知ってる。誰にも言わないが、内に抱えた欲は二世界分で倍あるだろう。罪深さも倍だ。自己嫌悪で泣きたくなる時もある。
こんなオレを主人として慕ってくれる奴がいる。
忠誠心はガチもんだ。お互い絶対にウソつけないしな。
あいつ真にオレのためだったら人とか殺せると思う。
少し大袈裟だったかな。でもあいつはそう思わせるだけの何かがある。
感情がまだ少ないから冷静で理知的で真面目に見える。
でも根っこはそうじゃないと思う。ちょいちょいアツイ部分が見え隠れしてる。
本当にオレのためだと思ったら、オレ相手でも引かない。
納得できなければ自分を消せとまで言ってきたな。
脅しじゃない、本気だったよ。
こっちがビビッちまうよ。こんなアツイ奴、前世でも現世でも見たことないよ。
女だったら惚れてたかも。
すごい所はそれだけじゃない。
アイはとんでもなく有能だ。
オレが今、魔素の能力を使いこなせているのは、アイのおかげだ。
光の矢の時だってそうだし、吸収の時もだ。なんだったら充電だってそうだし身体強化が良くなったのもそうだ。
忘れちゃいけない。ダンジョンを見つけてきてくれたのはアイだ。
ステータスとレベルをくれたのもアイだ。
いったいどれほどの感謝を捧げればいいのか。どれほどの恩を感じればいいのか。
あいつはオレがアイを作ったんだっていう。
逆だ。アイがオレを作り上げてくれたんだ。
こんな欲深で何もできないオレは、あいつに何を返せばいいんだろう。
層と層をつなぐ階段で休憩中、つまらないことを考えてしまった。
らしくないな? 何があった? 自分で考えてみよう、いつもアイが大事だって言うし。
・・・・・・たぶん、アイが有能過ぎるのに対して、オレがあまりにも情けないから?
ダンジョンの中だと特に目立つから?
いややめたっ! 出来ねー奴がクヨクヨ考えるのが一番やっかいだ。
アイを信じてついていけばいい。
オレは主人なんだ、どっしりと構えていればいい。
休憩も終わり、狩りの再開だ。
アイがまた新しいお題を出してきたな? 今現在も吸収に結構苦労してるんだが。充電だって、部位強化だってまだまだだ。今後もお題はどんどん増えるだろうなと思う。
天よ、我に百難を与えたまえ!
お題は簡単に言うとこうだった。
常時使用している身体強化。強度を使い分けろ、とのことだ。
具体的には
身体強化[1]・・・普段使い、ダンジョン以外
身体強化[2]・・・ダンジョン
身体強化[3]・・・ダンジョンでも特に強敵が出た時
オレは外で無意識なら1~2をウロウロしてるそうだ。逆にダンジョンの中なら安定して2になってる。3は結構危険で光の矢を使うときに勝手になっちまうらしい。この現象からアイは光の矢の構造を解析してるらしいが、今は関係ないな。
ちなみに寝てるときはアイが1に誘導してくれてるらしい。そうすることで体が慣れて身に付きやすいってさ。完璧に1にするのはオレ自身でないと無理らしい。
でだ。この使い分け練習として、ダンジョン内、最初から最後まで1でやってみろってさ。
あ~苦手だわ。ずっと3で!これならいけそうだが。
とりあえずこれから狩り再開するから、グレートボア(9層)を強化1を意識してやってみる。最初はグダグダだろうよ。遠くからデカいのぶちかませば終わりじゃないんだ。距離も詰められるだろうし、ナイフの出番は・・・・さすがにないか。
目と急所だな。うんやってやろうじゃん。できるっしょ。
うわ~やべーやっべーー。うまくいかない。
1に持ってこうとしてアセると、強化が切れてしまう。死んじゃうぜ、ハハハ。
いや笑い事じゃない。
基礎敏捷値がオレのが高いっぽいので、なんとか被弾はしてないが。アイがやめさせようか迷ってるな。
おい。なさけねーぜオレ。さっき落ち込んだばっかだろ。
アイにいいとこ見せてやろうぜ。
よし落ち着け。そして集中だ。ここ一番の時、いつもそうだっただろ?
集中すると魔素の感知がグッと上がる。このままだと強化も強くなる、ってか実際なってるな? 集中してるから感覚的にわかる。
ここで一歩引くんだ。集中しつつ強化を抑えるイメージで。集中することで生まれる力と抑える力を拮抗させるんだ。
うん、よしよし。少なくとも3を2に抑えることは出来てるぞ。この感触を続けて昇華させたい。
狩りを一旦中止することにして階段に移動だ。
どうやらこの訓練は魔素をかなり消費するらしい。
3を2に抑えてる状態で、やたら減っていくのが自分でもわかる。ただの2、ただの3より減るんだぜ? 笑えるだろ。
減ったら吸収訓練だ。そして完全回復。この完全回復は集中力と相性がいいな。
すごい勢いで回復するし、あきらかに得意になってる。逆に吸収は・・・ちとマズイな。
えい、今は捨て置け。すぐに強化再開だ。強化、吸収、回復、このローテを永遠続ける。
少しづつ良くなってる気がするが、気のせいかもしれない。後でアイに確かめよう。
嫌になるほど繰り返した後アイに確認したが、なにも変わってなかった。
簡単ではない。わかってる。
一つ言えるのは、この訓練法は吸収を除いてダンジョン以外でも出来るな?
昼間はダンジョンで吸収も兼ねて訓練。朝夜はホテルで訓練だ。
アイにそう伝えると少し驚いていた。何かヒントをくれるらしい。
これは珍しい。いつも自分で自分でって言うのにな? 楽しみだ。
かなり疲れたし時間もたった。今日は帰ろう。
経験値効率からいったら今日はズタボロだ。金だっていつもより全然だ。
でもいい。
もっと価値あるものを手に入れるんだ。オレは欲深だからな。




