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 襲い来る眠気になんとか打ち勝ち、永遠かと思われた授業が終わりを告げると、ボクは急いで狩りの準備に取り掛かる。



 この国の多くの子供は、小さい頃は家庭の労働力として働き、成人を迎える1年程前になると、将来就くであろう職、または求められるであろう職の本格的な訓練を始める。


 一般家庭の子供の場合、親の職業ををそのまま引き継ぐ事が普通なので、小さい頃から家を手伝ってきたその延長線上に職業訓練もあるわけだ。


 一方ボクのような孤児は選択肢がたくさんあるように見える。

 自由に職を選ぶことができるが、親から引き継がれる物が無いのですべてゼロからはじめなければならない。自由には代償が必要だ。


 しかし実際はその土地で不足している職に求められて就くことが多いようだ。ご多分に漏れずボクも、この村から一番近い都市キールの要望によって狩人と決まっていた。自由なんてなかったと不満を言いたいところだが、ボクはこの職が気に入っているし自分にあっていると思う。



 狩人はこの国ではとても人気がある職だ。


 しかし技術習得の難易度が高く、望む者すべてが就けるわけではない。地域にもよるが不足しがちな職ということだ。特に近年、この国の人口が急激に増えていることから、食料確保の観点において大いに歓迎されているらしい。


 ボクは物心が付いてまだ間もない小さい頃から、この村唯一の狩人であるノム師匠の下で修行を始めていた。1年半ほどで才能を認められ、今に至るまで続けている。



 そんな事を考えながらもしっかり手は動かしていたので、あらかた準備は整った。と言っても弓と矢、ナイフなどは危険もあるので施設には置いていない。非常食や水の類と縄、布類、獣脂、そのほか諸々だ。ちなみに森の中で火を使う予定はない。



 準備を整えたボクは、施設を出てノム師匠の家へと走る。









「ノムさ――ん、来たよ」


「おう、リクか」



 家の外で狩りの道具の手入れをしていたと思われるノムさんが、顔を上げてこちらを見る。


 40代でずいぶん年季の入った深い皺、イカつい顔をしている上に眼光はするどく、いかにも職人らしい威圧的で寡黙な気配を纏っている。

 しかしその眼の奥には長い年月の間、自然との闘いで培われた己への自信と静かな知性のような物も感じさせる。



 ボクは息を切らせて走り寄りながら、預かった伝言を話していく。



「うん。シスターがね、この間の肉の差し入れありがとう助かったって。それと革屋のおっさん、兎の毛革頼むって」


「冬毛がまだ抜けてねぇ季節だから毛皮は悪くねぇだろう。ただ冬を越した肉の方は脂が残ってないだろうなぁ」


「そうだね」


「だが贅沢は言ってられねぇな」


「うん。じゃ今日は兎の方向で?」


「いや待てリク。お前いよいよ成人だよな?

 オレんとこへ来てもう何年になるのか。本当に独り立ちする時が来ちまったな・・・・」


「え、急に何?」


「お前はいままで必ずオレと一緒に狩りをしてきたな?

 例えオレが一切手を出さない時でも監督として常にオレが傍にいた」



 ノムさんは少し間を開けるように言葉を切る。

 どう言おうか考えているようだ。



「これからは本当に一人だ。

 試験をする。準備して森に入るところから全部一人でやれ」



 何を言い出すかと思ったらそういうことか。



「わかった。特に問題はないと思うよ。

 でも突然すぎるよ? まさか今からとか?」



 師匠はボクの顔を見たまま、しばらく押し黙る。



「期間は8日間だ。鹿か大狐か同程度の大物を1、兎は10、設置罠は無しで、シスターの授業もサボるな」


「えっ、厳しくないですか?

 野営無しだと森に深く入れないし、罠無しで探索のみ!?

 それちゃんと自分でも達成できます?」


「馬鹿野郎、師匠の愛はデカいんだよ」


「意味わかんないよ・・・・」





 突然無茶なお題を突き付けられてしまった。


 シスターの授業を受ける以上森の中で野営できないし、野営できなければ比較的森の浅い場所で狩りをしなければならない。せいぜい2時間分ほどしか奥にいけないだろう。


 どこにでも本当にたくさんいる兎ならともかく、狐のテリトリーはかなり奥だし、エサ場と水場を渡り歩いている鹿は運次第だ。悪ければ深い所を巡っていることもある。

 物量的には問題ないが、おかしな縛りのせいで難関だ。よく考えないと。



(これ普通に詰んでる?)



 他の人ならあきらめてしまう所だろうけど、なんとかしてみせるしかない。





 誰にも話してはいないが、ボクにはちょっと人と変わったところがある。


 ものすごく集中して人や動物や物を見ていると、その周りに薄く光っている小さなモノが見えてくる。


 キラキラ閃いて、消えたり、現れたり、また消えたり。

 最初は神話に出てくる精霊様かな? なんて思ったりしたけど、意志は無く無機質な物のようだ。



 森の中で注意深く辺りを観察すると、狙っている獲物が通った獣道に、そのキラキラが『残り香』のように漂っているのを見つけることができる。


 いつのまにかそのキラキラの模様や濃淡、輝きの加減で獲物の種類や時間経過、進行方向などを読み取ることができるようになっていた。


 また近くに隠れている動物がいるとその場所がすぐにわかるので、見逃すことなく追跡できる。

 潜んでいることを逆に利用して罠にかけたり、なんてこともしている。




 もう一つある。


 ボクはどうも他の人に比べ体の能力が異常に高いようだ。


 高低差の激しい山や森の中での移動、子供にはあまり向いてない長弓の扱い、狩った獲物の運搬、長時間活動し続けていても疲労が貯まりにくい体。

 例を挙げればキリがないが、自分でもおかしいと感じているので周りの人、特にシスターと師匠には知られないように行動している。



(もしかしたら師匠にはバレてるかもだけどね)



 ひとまずその日は狩りの修行を中止し、試験は明日から始めることにして今日はその準備に充てる。

 道具類の手入れや森に持ち込むものを手配する。


 その後すぐに施設に戻りシスターに試験について報告、8日分の授業の有無を確認する。


 8日間のおおよその計画を立て施設の子供たちの面倒を見た後、試験に備えて早めに寝た。









 翌日。シスターの授業が終わるとすぐ師匠の家に赴き、すべての準備を整える。



「師匠、できました」



 師匠は黙ったままボクの全身をくまなく見、持っている道具などにも目を向けたようだ。



「どう進める?」


「南から入ってトゲ岩で兎を2日、そのあと川まで足を延ばして大物の痕跡を探します。4日目に授業が無い日があるので、できればそこで追い込みます。最後に兎がたりてなければ追加します」


「道具は?」


「2度確認しました。予備も持ってます」


「弓とナイフは?」


「問題ありません。弦は張り直し、ナイフは研いであります」



 師匠は少し考えて続ける。



「天気は?」


「運良く晴れです。7日目か8日目に少し霧が、もしかしたら弱い雨かも」




「・・・・・もう何年もお前をみてきたが、成人近いとは言え子供の出来じゃねぇ。微塵も緊張してないだろ?少しぐらい慌てやがれっての」


「師匠の教えの賜物です」


 と、ニッコリ笑ってあげる。



「別にお前に不可能とは思ってないが、卒業試験としちゃ難易度は高いハズだ。いいか?いつも言ってるが周りと・・・


「周りと自分をよく見ろ、流れに逆らうな。自然に敬意を払い必要な分だけ、真に必要なら情けは不要。でしょ? わかってます」


 師匠の言葉にかぶせるように言う。



「そういうとこなんだけどなぁ」



 師匠はあきれてため息をついている。



「この時期は狼みたいな危険な動物が出ることはないが、絶対じゃないからな?

 キールの北にいかなきゃ猪もでねぇ。わかってるな?」

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