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《マスター、もっと回復に集中を》
(わかってるって。いぶし銀職人の絶妙な技に思わず見惚れてしまってたんだ。いい仕事しやがるぜまったく)
《意味不明ですが褒められたことは理解しました》
(うむ。ところで相談なんだけど、オレいま矢に魔素を集めて放ってるじゃん?んで、後で矢を回収してる。これが手間なんだよね。
いまは簡単に壊れないように魔素で大事に使ってるけど、矢は基本消耗品で弓を含めて持ち運びだって楽じゃない。どうせ魔素使うのならいっそのこと矢なしでもできないかな?)
《わかりません。試してみてください》
(どんなのがいい?)
《魔素に関して特に感じる事があります。なにかを新しく試みる時、
『自分がどうイメージしているか』
『自分ならどう組み立てるか、表現するか』
『自分に合っているか』
こういった『自分』という要素がカギになることを確信しています。これはマスターも実感しているところだと思います。助言はしますが自分の中の衝動に素直に従ってみてください。
マスターの言葉通り『矢なし』でどうぞ》
(う~~むむむむむ)
そう言われても困るんだよな。話としては理解できるが。
まぁだから相談してるんだけどね。
仕方ないな。
(やってみる。集中したいから強化と充電は消すぞ)
《却下です。戦闘中の動作なのですから強化を切ってはいけません》
やれやれ・・・ひとまず自分の手を見る。当然矢は持たない。なんとなくのイメージで手に魔素を集めてみる。
おお集まってくるな。いいね!
あれ?魔素は集まってる。うん、確かに集まってる。でもそれだけだな?
一旦あきらめて矢を手にする。いままでやってきたように矢に魔素を纏わせて強化する。速く、貫くイメージだ。
うん、集まってきたな。
矢がキラキラに包まれてなんか強そうだ。矢の先端に偏って多く集まってるね。貫くイメージだから?まぁとにかく出来てるよな。一旦魔素を矢から散らせる。
再び矢を手放し魔素を集める。速く、貫くイメージ。
あれ?駄目だな?
《マスター、目的と手段を取り違えているように見えます。
観察するに矢のような物を作ろうとしていますね?悪くはないです。でもおそらくマスターに合っていない。矢を作ることが目的ではありません》
(え?どういうこと?)
《・・・弓を持ってください。矢は持たず矢をつがえてください》
(空射ちしろってこと?空射ちは気をつけろって前世でも現世でも習うぜ?)
《そうではありません。自分の中のイメージがとても大事だという話はしましたね?矢を作ろうという気持ちを一旦捨ててください。それはただの手段です。空射ちのイメージもとてもよくないです。弓を引こう、弓を射よう。この気持ちを押し出してみてください》
まぁアイの言うことだ従って損はない。
オレは長弓を手にして立ち上がる。左手は握りに、右手は弦に添え半身になって胸の前に置く。射つ前の基本姿勢だ。
《矢は持たず矢をつがえてください》
なんとなく何が言いたいかわかってきたぞ。
前方を見つめる。当然だ。射つ時は手元なんか見ちゃいない。的を思い浮かべる。ウルフでいいや。狙いをつけ弦をゆっくりと引く。
あぁそうか。
こうしたかったのか。
わかってみれば何のことはない。むしろ簡単とさえいえる。
矢を作りたいんじゃない、弓を射る事がやりたいことなんだ。
直前まで矢を持ってなかった。でも今は確かに何かが手の中にある。
いや違う。弦と握りの間に生まれたのか。
何が生まれたかなんてわからないし、わからなくていい。
シュッ
特に気負うことなく放つ。的も本物じゃなくて仮想ウルフだしね。放たれた矢のような『光の筋』は恐ろしいスピードで突き進み遠くで消える。壁にあたったかな?遠すぎてわからん。
《お見事です。初めてなのに有り得ない完成度です。やはり、です。
マスターなら矢を作るイメージより、射るイメージの方が絶対にうまくいくと予想していましたよ。とはいえまだまだです。私の見解では練度向上の余地はまだ相当あります。あとは動作も遅すぎて致命的です。戦闘に耐えません》
(褒めるのは最初だけかよっ!もっとくれよ!ムチ成分多すぎだよ。褒められて伸びる子なんだよ)
《矢の力が強く方向付けられていました。なにをイメージしていましたか?》
(無視すんなよ・・・速く、と貫くだ)
《納得です。少し遠いですが光の矢が衝突した部分に行ってみましょうか》
アイに促されて突き当りの壁へ。
あ~~あいてるな。割と大きい穴だな。この壁、めちゃ堅そうなのにね?
《わずかですが修復が進んでいるように見えます》
オレのようにただ目でみるだけなくアイは様々な方法、手段、尺度で観察しているからわかるんだろう。
(ラノベ的、ゲーム的にテンプレだよ。ダンジョンの力で治るんだ)
《・・・その単語はデータ不足ですね。ダンジョンの力とは?》
(しらねー。ダンジョンマスターとかじゃね?)
《この世界においてこのダンジョンだけが異質すぎます。あまりにもラノベ的であり、あまりにもマスターに都合が良すぎます。
確かに外においてもマスターはラノベ的活躍をされていますが、それはマスターがテンプレ転生に近いものを求め、魔素を利用して創り出し努力した結果でもあります。
このダンジョンは次元が違います。
転生者でゲーム的脳の持ち主の影響を受けて作られていますね。転生者が作ったとは限りませんが。ゆえにマスターは共感をおぼえ楽しめてしまう。
一般市民からすればあの独特なグレイウルフを見ただけで気味が悪くて逃げますよ。強さ以前の問題です》
(そんなおかしい?見た目は完全に狼だけど?)
《水もエサもない環境、見慣れない素材でできた完璧な平面の床、ただじっと何かがくるまで生命維持活動を一切何もしないで立ち続ける。生存本能はなく攻撃衝動だけがあり、自分の生死に無頓着なまま相手の強弱に関係なく襲い掛かる。倒されるまでは物理的質量を伴って存在しているのに斃された途端魔素に変換される。
地上のウルフ、いや、他のいかなる生物と比べても違和感しかなく不気味です。転生者にしか生み出すことができない発想です》
(やっぱ他にも転生者いる?)
《むしろ居ない方が不自然です。
自分を唯一無二、選ばれたたった一人の人物と思い込みたくなるのもわかります。ラノベ転生者ですので厨二病は基本属性です、仕方ありません》
(ぎゃぁぁ~~~やぁぁめろぉぉぉぉおおお~~~)
《結局、あまり良い休息にはなりませんでした。
しかしそれを補って有り余る収穫を得ましたので結果オーライです。今後も光の矢は鍛錬を積んでください。現在午前9時少し前です。そろそろ我慢できないでしょう。再開しますか?》
(ああもちろん。階層下げていいだろ?ウルフ弱すぎだし)
《はい構いません。
弱いと言ってもマスターだからです。他の人間では生死を賭けた真剣な戦いです》
(他の人間ではって、他の人間の戦闘を見たことねーだろ?)
《訓練所内の兵士の修練内容、方法、編成を見るに対人間ではなく・・・いえ、ゴホン
はいはいウルフ弱すぎです。
マスターはつおいです。ぶっちぎりなんばーワンです》
(オレってそんな面倒くさい奴?)
既にアイによって階層を降りる地点は予想されており、案内に従って進んでみると果たしてその通りだった。
何か特別な事を期待していたが、地上から降りた時の階段と同じものがあるだけだった。あの地上からの階段はダンジョン製だったんだな。例の境目の外だったんだけどね。
特に躊躇することはなく、でも警戒はしつつ次の階層に向かって降りる。
次の層にはどんな魔獣がオレを待っていてくれるのか。
いまいくよ!美味しくいただきにね!
勢いにまかせて高速で探索を開始する。気配隠蔽もなしだ。油断しすぎかな?初見の敵なのに。アイが表示してくれているマップに・・・赤点が灯る!
しかも2つ並んでいる!
ふっ、オレがビビるとでも?やってやんぜ。いくぞっ!風のように目標に向かって突き進む。やがてすぐに魔獣が見えてくる。当然2体だ。でもどこか見たような姿。
ウルフっ!またおまえかっ!!
アイめ、知ってたな!?




