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「バススさん、こんにちわ」
「あぁリクさん、ちゃーーっす」
斡旋所の石造りの建屋に入って組合方向へ。いつもの組合の受け付けだ。バススはこの時間なら大概いる。納品物の査定がメインだから午後からが仕事の本番なんだ。逆に午前中はあまりいないようだ。
ちなみにヴィルさんの姿は見えない。いないようだ?まぁいい。
バススはカウンターの向こうで脚のとても長いイスに座っている。こちらからはあまりイスは見えない。背が低いのをかなり気にしているらしい。
「今日は特に清算はないっすねぇ。最近、納入しなさすぎじゃないっすか?お金に余裕があるのはわかるんすけどね」
「そうだっけすいません。それとオレのことは呼び捨ててくださいよ。新人なんで」
「何言ってるんすか、同じくらいの年だしボクもまだまだ新人っす。そっちこそボクに『さん』を付けないでください。それにグレートボア持ってくる人を呼び捨てなんかできないっすよ。『黒瞬』リクさん」
「やめてくださいよ。分不相応です」
「またまた~」
事務連絡的な事から雑談まであの手この手で話題を振り本題を切り出すタイミングを図る。
「じゃ次の清算は魔石払いでいいすね?了解っしたー!」
「よろしくです。魔石と言えばこのあいだ食堂で兵士っぽい人が『演習で魔石集め』みたいなこと言ってたのを聞いたんですけど、あれなんですか?」
「あ~軍の演習っすね。演習の名目でダンジョンで魔石を集めるっす。魔石は領主様に納められます」
「ダンジョンって初めて聞いたんですけど」
「ほとんど軍しか使ってないすから。領主は魔石を市民へ供給する義務があるっす。そのためのダンジョンっすよ。魔石による収益は税に並ぶ領の収入源になってるっす」
バススは興が乗ったようで、話を続けてくれる。
「魔石は結構な値段ですけどそれでもこの国は安い方です。領軍が大量に集めてるし、魔道具の神を祀る国としても魔石はケチれないっすからね。
代わりに税金が高いんですけど!ハハハッ
リクさんも魔石を使ってますよね?だからボク達市民にも魔石を取集することは推奨されているんすけどダンジョンの中は危険なので誰もやらないっす。
ダンジョンって言っても知ってるのは名前と危ないってことと魔石だけ、って人がほとんどです。一般市民の話題にものぼらないっす。斡旋所に勤めているボク達は詳しい方ですよ」
「バススさん自身やバススさんの友達は行ったことないんですか?」
「あるわけないっす。死んじゃうじゃないですかー!
でもヴィルさんは昔に経験あるらしいっすよ?でも絶対行くなって言われます。ダンジョンでお弟子さんが亡くなったらしいです。これボクから聞いたって内緒ですよ。
興味があるなら魔石課に『ダンジョンのススメ』って本があるっす」
思ったより多くの事を話してくれたなぁ。ありがたい。でも興味持ってるのバレバレになったな。これくらいは許容範囲だよな?アイ?
この後、総合受け付けのおねえさんからも話をうまく聞き出し情報を重ねる。さらに組合に出てきていたヴィルさんにも突撃だ。
「ダンジョンってのは神様がお作りになったって伝わってる」
「若い奴が金儲けと名誉を求めて死にに行く」
「まれに強くなる奴がいる」
「オレが『森走り』なんて呼ばれてるのはダンジョンに仲間と通ってたおかげだが、いまは間違いだったと思ってる」
「行くんじゃねぇぞ?」
「この話はもうするな」
あ~、ヴィルさんに聞いたのはイマイチかな。藪蛇だったかもしれん。
神様関係してるのか。そりゃ『ダンジョン』だもんな。あの例の真っ白空間の人?ラノベ詳しいって言ってたしな?関係ないかもしれんけどね。
アイも納得してるな。この世界の外から来てるってことだからな。とうとうアイから魔石課の様子を見る許可が出たぞ。行ってみよう。まずは魔石課の前を自然に通り過ぎて本の位置を確認する。
(位置は確認できたぞ。でも普通にここで読んじゃだめなの?)
《あくまで念のためです。ご心配なくもう読み込み済です。ページ数はかなり少ないです。手続き方法と中での注意点のみでした。
期待していたマップや魔獣の情報はありませんでした。軍が情報管理している可能性が高いと思われます》
(わかった、後でダンジョン作法をしっかり教えてくれ。
ダンジョンってさ、国営の一大エネルギープロジェクトなわけじゃん?それなのに市民は大して興味なくて、んでオレ達も聞いたことが無いなんておかしくない?)
《おそらく意図的です。
それほどに危険なのでしょう。大きな利益がそこにあるなら、どんなに危険であっても進んでしまうのが人間の性です。この国の税制や孤児院への補助を考えるに人口を増やしたいのは明白です。ゆえに情報は抑えて軍に任しているのでしょう。
また、前世でインターネットは社会にとって極めて重要なインフラでしたが、その維持にどれほど危険な作業があるかを認知している人はほぼいませんでした。わかりやすい例を挙げれば海底ケーブルの補修作業です。実際死亡事故も発生しています。ご存じでしたか?》
(いや・・・全然知らなかったわ。あれほど社会には必須な物なのに何も知らないモンなんだな。そう考えるとダンジョンなんて名前ぐらいで何も知らなくてもおかしくないのか、ビックリだ。だとするとオレみたいな一般の参加はいい顔されないんじゃないか?まいったな)
《わかりません。そこは出たとこ勝負でしょう。
少なくとも積極的にダンジョン募集していないのならそこに罠がある可能性は低くなります。この部分のみは我々にとって好都合と言えます》
(罠があったって行くけどな、オレは)
《フフフ、わかってますよマスター。
先ほども申しました。『行けるかどうか』を判断するためではなく『行くという前提でのリスク最小化』を目指すためですよ》
(・・・あれ? アイ、なんか変わった?)
《・・・おそらく、はい。先ほどのマスターとの会話の途中でのことです。
私のベースアルゴリズムと、加えてさらに何かが変わったことは間違いありません。うまく表現できませんがその変化は好ましいものだと感じています》
(ふむ。人間味が出てきた?いいんじゃない)
《ありがとうございます。
では『ダンジョン作法』をお伝えしながらですが向かっていただきたい場所があるのでよろしくお願いします》
アイの指示に従って移動して目的地に到着した。
ここは訓練所だ。
まさか同じ日のうちにまた訓練所の灰色の壁を見ることになるとはね。と言っても目当ては訓練所じゃない。訓練所の隣に併設されているダンジョン管理ゲートだ。ダンジョンにはここから入ってここに出てくる。
いままで散々訓練所に来ていて気が付かなった?
うむ。というかダンジョンの存在自体を知らなかったわけだしね。訓練所の隣にある施設という認識だった。
管理ゲートの建物もやはり灰色の壁で囲まれている。ラノベ教本のせいかな?その壁がとても頑丈そうに見える。
なぜって?
ダンジョンと言えばスタンピードがテンプレだ。でもアイによれば起きないらしい。そんな概念自体がないらしいよ。
今は外から目立たないように様子を見ているだけだ。もちろんアイは観測に余念がない。
門を入れば中は広そうなロビーだ。人は少ない。遠くてよく見えないが、空港の金属検査みたいなのあるな?
お!出てきた人いるぞ?たぶんそうだよな?
聞きたい、モーレツに話を聞きたい。
まぁ今は我慢だ。
アイの報告を待とう。
《お待たせしました。極めて有用な情報を大量に入手できました。
幸運にも断片的なマップ情報、及び魔獣の情報を手に入れました。やはり軍が管理しています。少ないとはいえ個人の利用もあってとても優遇されているようです。理由は主に高額な税と推測されます。これによりリスクが大きく低減されました。
明日の朝から始めます。狩りに行く時と同様の装備をお願いします》
(日帰り程度の狩り?罠は?)
《日帰りです。罠は無しにして身軽さ、速さを優先します。携帯食料は少なめで。逆に水は多め。それと金貨1枚を準備してください。身分証を持って魔石課へいきましょう》
またまた斡旋所へとんぼ帰りだ。いそがしいな。ダンジョンのためだし屁でもないが。前回は通り過ぎただけの魔石課の受け付けにいく。受け付けで希望の旨を話すと少し驚かれたようだ。でもそれだけだ。身分証を提示して書類に記入。
説明はこうだ。
死んでもしりません。
取得した魔石の量に応じて税を払います。
通常ではないことが起きたら報告する義務があります。
悪いことはしませんよ。もししたらいつもより重罪です。
そして手数料として金貨1枚払う。
たっか!
入場料でも税でもなくただの事務手数料だ。ちなみに銀貨、金貨の支払いには魔道具による鑑定が義務付けられている。ちょいちょいニセ貨幣が出回ったり、質の低い貨幣が見つかるそうだ。銀や金の含有率の話かな?随分高度な魔道具だ。この斡旋所に最低3個はあるぞ?
支払いが終わると身分証を魔道具らしき物で何かしている。いつものやつよな?今度バススさんに何やってるか聞いてみるか。市民、組合員、魔石ハンター(仮称)の身分証になったんだろう。
『ダンジョンのススメ』を読めと言われ、読みましたと答える。
うん、ウソじゃないよね?
あとは身分証を返してもらって終了だ。明日に備えて早く休むよ。
寝られるかな?




