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宿屋に拠点を移して3週間。当たり前だけど宿舎の大部屋に比べて生活の質は爆上がりだ。プライベートがあるっていいよね。
・・・あれ?
オレっていつもアイにチェックされてるよね。
プライバシーとは?
まぁ深くは考えないでおこう。
宿だけじゃない。メシもよくなったよ。宿屋の食堂で机に座って食べる食事だ。アイが栄養バランスを考えろって。屋台ばかりではダメってさ。頼むメニューもアイが選んでくれる。
・・・あれ?
夜の食堂で酒だって飲んでる。
ん? オレ成人だよ? 前世とは違うんだ。大丈夫。アイが体内アルコール濃度見張ってる。危険になったら止めてくれるんだ。
・・・あれ?
訓練についても事細かに指示してくれたよ。次から次へとメニューをこなしたさ。飽きる暇さえない。アイに言われるままだけど大変だった。
この3週間、なかなか充実していたよ。もうちょっとゆっくりしてもいいんじゃないかなって思う。
まぁ、アイだからな。仕方ない。
まずは、図書館につれてけと言われたよ。斡旋所内にあるんだってさ。なんでアイが知ってるんだよ。まーたあの『本をペラペラ』をやらされるのか。
人に見られたら恥ずかしいやつだし。怪しいし。やだ~。
ってなるじゃない? 実際はそうならなかった。あいつ自分だけで読み始めちゃったよ。本棚から出さずにだよ?
意味わかんないよね? オレもだ。
羊皮紙とインクの定位差に明確な判定基準を設けることができました。
これにより魔素の反響を測定することで羊皮紙上のインクの空間座標を把握、映像処理することで本を開かなくても文字が読めるようになりました。
ただし魔素の消費が激しく、一度に多くの本の処理は不可、距離的制約もあります。
ね?
イミフでしょ。
ってか今オレ、アイの物真似でやったんだけど、すごい似てたね? ヤバクね?
次に求められたのは見学だ。領軍の訓練が見たいんだってさ。データだろうな?斡旋所の総合受け付けのお姉さんに聞いてみたが、軍事機密で見学無理だってさ。
そりゃそうだよね。訓練所の周りには壁があって、外からは何も見えないそうだよ。
マスター、何度も申し上げますが魔素視に本物の視覚は必要ありません。
訓練所や演習場に入る必要はありません。
確かに直接目に見える、つまり遮蔽物が無い方が有利ではあります。
でも不可能ではありません。
訓練所に連れて行ってください。壁越しに実行してみます。
これも何回も通ったよ。図書館と同じだね。
図書館と訓練所。それ以外の時は森へ行く。
1に訓練2に訓練、3,4がなくて・・・・・いや、3も4も5も訓練だった。
充電とマラソン、矢の強化を含む部位強化。
ただひたすら訓練だった。
組合に納めるための、最低限度の狩りが最大のご褒美だった。それくらいの訓練地獄だ。
あれ以来ボアは狩ってない。言い訳考えるの大変だし目立つのも困る。大金を持っているからと狙われてもイヤだ。なんて不便なんだろう。ラノベの主人公達も同じ悩みを持ったに違いない。
解決法はわかっている。
権力か名声を得ればよい。オレは嫌だけどね。あとはシスターに送金したな。物資を送るか迷ったけどね。もちろん斡旋所経由だ。
そんなこんなで3週間目を終えるころ、大ニュースが飛び込んでくる。
その日は訓練所に向かい、アイが観測を行っていた。
訓練所の灰色の壁があるだけで、周りには民家も少なく何も見る物もない。もしかしたら軍事施設が集まっているせいかもしれない。オレは充電しながら明るい空をぼーっと眺めているだけだ。人が少ないからオレ自身が目立たないようにはしてるよ?
アイは大量の人間のデータを取得することで、どうやらスキルの概念の構築を狙っているようだ。それが観測の理由の全てではないが、目的の一番目だということだった。
なぜ訓練所なのか?
戦闘用のスキル構築を最優先するためだ。それに都合がいいのが戦闘に長けた人間の集団、領軍だ。もう何度通ったことか。
今や観測に最も適した場所も探り当て、安定した測定を行えるようになっている。壁越しだけどね?
遮蔽物がある状態での観測の練度がしこたま上がっているらしい。そりゃそうだよね。大量のデータを積み上げて学習するのはアイの得意技だ。データが多くなればなるほど、遮蔽物に対する補正値が正確になってゆくだろうしな。
《!!! マスター! マスターッ!!
壁の内側の兵士の会話から、最高重要度の情報を入手しました!》
(どんな?)
《要約します。軍事訓練と実益を兼ねた演習の実施予定。場所は『ダンジョン』狙いは『魔石』とのことです》
「なっ!?」
いかん。久しぶりに声を漏らしてしまった。いやそれどころじゃない。
(ダンジョン? 英語? 日本語か? どういうことだ!)
《いいえ大陸共通語かと思われます。ただし日本語の発音とほぼ同等です。共通語の言語体系と発音から大きく逸脱しています。日本語にすればダンジョンであるのは間違いありません》
(アイ! 今やってるすべての事を保留だ。追加の情報を探すんだ。
それとその情報自体が本当なのか確かめたい。魔石はともかく、ダンジョンなんて聞いたことないぞ? オレ達が思っているダンジョンじゃないかもしれない)
《了。全てのタスクを保留、リソースを集中します。魔素量の下限を三割とし必要な時は躊躇せず消費します。マスターは魔素回復にある程度集中してください。ただし周りへの警戒は怠らないでください。
優先度は最優先に設定しました。
更なる情報の捜索、既存情報の信頼度向上に努めます》
その途端オレの体の魔素が急激に減るのを感じる。
軽い眩暈のような感覚に襲われる。
アイめ、遠慮がないな。
いいぞ、もっとやれ。
本当にマズければアイは止めるだろうしね。
《マスター、ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
耳に魔素を集中させ大幅に聴力を上げています。大量の音を受信しているためマスターへの伝搬を遮断中。一時的に耳が聞こえないような症状になっています。
また、距離制限を排した魔素リーディングも並列行使しているため大量に魔素を消費しています》
(いいんだって、オレが望んだことだ)
しばらくして魔素の消費が止まる。どうやら調査終了したようだ。
《マスター、報告します。
複数の人間から同様の情報を確認。信頼性は高いと推定されます。
上官と思しき者の部屋から関連資料を入手。我々が考えるダンジョンに近い存在の模様です。
以下詳細を列挙します》
領軍で行い演習と収益を兼ねている。
ダンジョンと呼称する場所で『魔獣』を討伐する。
魔獣は魔石を落とすことがある。
長期間演習を続けると能力が向上することがある。
ダンジョンという存在は特に秘匿されていない。
ダンジョンには軍以外の人間もいる。
利用料金のようなもの、または税がある。
斡旋所内に魔石課という担当部署がある。
領、領軍、斡旋所で共同管理されている。
おい。
おいおい。
勝ったな?
完全勝利ということでよろしいな?
どう考えてもソレっぽいよな?
この世界には大分肩透かしをくらってきたけど、すべてこのための伏線だったのか。
ステータスもレベルも魔法もないとかさ?
全部許すよ。
はっちゃけていいか? いいよな?
あ~レベル上げしてぇぇ。ちょーしてぇぇ。
三徹だって余裕デス。
利用料だっけ? 税金だっけ? 問題ない。面倒だ、年間パスをくれ。いくらでも払う。
大量に食料を買いこんで引き籠ろう。
魔石課にいこう。うん、すぐいこう。
オレは身体強化して街の中を疾走する。今までで一番速いんじゃないのかな。
みんな驚いて見てるな?
構わん。
《マスター! 待ってください。落ち着いてください》
(アイ。邪魔するな。これはいつもとは違う、マジだぞ?)
《はい、私も真剣です。
ご納得頂けなければ私を消去してくださって構いません。
マスターの思いは誰より理解しています。
その思いを叶えることが私の存在理由です。
だからこそ、より自由で快適なダンジョンライフの実現のために聞いてください。
確かに先ほどの調査で概要は判明しました。
信頼度もある程度あります。
それでもです。
リクとしての16年間の記憶、私が生まれてから今日までの出来事。
その全てにおいてあまりにも『ダンジョン』は唐突で異常です。
突き抜けた異質性のため脅威度が判定できないほどです。
まだ情報が不足しています。
想定外の事態が起こり得ます。
例えばダンジョンを利用するために従軍を求められたら?
例えばダンジョン利用中は常に監視されるとしたら?
ダンジョン利用申請自体に能力の高い者を網にかけるようなことは?
そもそも『ダンジョン』という言葉はどこから来たのか?
大陸共通言語の体系から離れすぎており、逆に前世の言語に近すぎます
ダンジョンに行かないという選択が無いのは理解しています。
せっかくダンジョンに行けるようになっても足枷が重くては楽しめません。
いかにリスクを抑えてゆくかを検討させてください。
今、直接魔石課に行くのはまだリスクが高いと思われます。
作戦を立てて情報を集めましょう。まずは組合の受け付けへ》
(・・・・バススか、わかった)




