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 オレとヴィナトゥールさん、二人して早朝の街を突っ切り北部の森へと向かう。

 そのわずかな間に組合の意義や目的、利用方法、狩場の範囲や取り決め、狩人同士のルール、マナーなどを教えてくれる。



「いますぐ全部覚えろとは言わねぇ。だいたいでいい。失敗して覚えていくもんだ。ただしこれだけは覚えておけ。奥に踏み込み過ぎるな。グレートボアがいる。ケガじゃすまなくなることもある。罠も通じねぇ。出会ったら逃げるか木に登っておけ」


「大猪のことですね?わかりました。どうしても逃げられない状況の時以外はそうします」



 なお、オレは狩る気マンマンである。

 若干不安そうな目でオレを見つつヴィナトゥールさんが走り出す。



「おしゃべりはここまでだ。走れ」



 ついていくオレ。



《マスター、この個体は無意識でしょうが弱く身体強化を使っています》


(使える奴結構いるのかな?)


《データ不足です》



 ヴィナトゥールさんは時折後ろを振り返ってはオレがついてこれているか確認しているようだ。


 はっきり言って余裕ですよ?

 もちろんそんな素振りは見せません。

 むしろハァハァ言っておきます。




 しばらく走り続けた後、



「ここまでだ。いい調子だ。よく鍛えてあるな」



 褒めながらヴィナトゥールさんは携帯してきた水を軽く口にしている。

 オレも習って自分の分を流し込む。



「さっき話した狩場の範囲はここらからだ。覚えておけよ?ここから1時間以内の範囲で何か獲ってこい。一人だ。迷うなよ?あと奥には行くな、絶対にな」



 念を押してくるな。初日から無茶しないよ?



「それと獲物に近づくときのように気配を消して見ろ、いまここで」



 言われた通りにする。

 魔素を感じて気配を消す。

 スッと周りの魔素に溶け込んでいく。



「なっ、おまえソレどこで身に付けた?」


「師匠のところです」


「ウソつけ。あいつはそんな器用じゃない」



 師匠『から』ではなく、師匠の『ところで』だからな。

 ウソはついてない。まぁ本当でもないな?



「まぁいい。行ってこい、ここで待ってる。捌かずにそのまま持って帰ってこいよ」








 ヴィナトゥールさんから離れてしばらく気配を消したまま獲物を探す。



《マスターの気配隠蔽は恐ろしく高度なものです。私の魔素反響定位でも捉えられないと思われます。気配を消す技量はこれほどであるのにその反面、気配を察知するのはひどく苦手ですね?》


(そうだなぁ。目に見える範囲ならなんとか・・・)


《以前にも申し上げましたが根本的に魔素視には視力は必要ありません。目を閉じても見えます。視界に頼り過ぎです。

 マスターは気配を消す時まず周りの魔素を観察しています。つまり原理的には察知を習得しているハズなんですが。もしマスターが気配察知を身に付けたら私のものとは次元が違うものになると推測します》


(うん、そうかもね。でも今はいいじゃん。消すのはオレ、探るのはアイでいいじゃない)


《マスター・・・・

 気配を察知するために魔素を薄く延ばしたり、ばら撒く技術は応用が効き有用なものです。ぜひ身に付けるべきです》


(う~ん、今度ね?また今度。いまは充電とマラソンがあるでしょ)


《マスター・・・・》


(そうだっ。ヴィナトゥールさんだ。

 もし今アイがすぐに獲物を見つけてくれたら、ササッと獲って完璧に気配を消して待ち合わせ場所に急いで帰る。こっそりと隠れてね。そしたらヴィナトゥールさんの近くでデータ取り放題できるよ?)




《・・・・・・左斜め前、距離95メートルです》




 こいつチョッロ










 兎を1羽確保して帰り約束通りデータも取らせてあげる。その後、何気ない顔で姿を現しヴィナトゥールさんに成果を見せる。



「おまえいきなり気配が現れるな。どうなってんだいったい。まぁいい見せろ。あと弓と使った矢も」



 時間をかけてしっかり見てるな。弓と矢なんてどうするんだ。



「完全に認識外からの攻撃。頸部の急所に正確な一発。一瞬も苦しんでないな、即死だ。出血も少ない。弓も矢もいいもんだが、ノムんところでこさえる一般的な物だ。どうなってる?おまえなにもんだ?」



 そんなこと言われても答えられるわけない。沈黙を貫くしかない。



「・・・・・・捌いて内臓の処理だ」



 オレは言われるまま近くに穴を掘りいつものように血抜き処理を進める。


 なんかやっぱりノムさんと似てるな?

 ノムさんとも同じようなやり取りをしたような気がする。


 違いがあるとすれば付き合いの長さだ。

 長い分、ノムさんは色々気を遣っててくれたのかもな。


 ヴィナトゥールさんは黙って作業を見守っている。

 オレの手裁きを凝視しながら別の話を始める。



「おまえ生まれた時から髪は黒いのか?」


「そう聞いてます」


「親は?」


「孤児です」


「さびしかったか?」


「いいえ、オレにとってはノムさんとシスターが親でした。

 親の代わりなんかじゃありません。

 あと施設に同じような兄弟がたくさんいます。

 全員家族です」



「・・・・・・・・・・・・」



「そうか。変なこと聞いちまったな。

 よし、帰るぞ。

 帰ったら捌いた獲物の納入について教える。

 それが終わったら晴れておまえも狩猟組合員だ」


 ヴィナトゥールさんは何か吹っ切れたのか、はたまた納得したのか、満面の笑みを見せてオレを見ている。出会ってから初めての笑顔だ。

 そしてこう付け加えた。



「組合員は家族だからな」









 斡旋所内の組合事務所に帰る。今日は受け付けに人がいる!オレと大して年が変わらなさそうな若い男性だ。背が低いな?



「おいバスス。新人で初日の獲物だ。納入するのでつけとけ。あと会員証更改しろ」


「えぇ~?初日なんすよね?大丈夫っすか?いきなり正会員で」


「こいつオレについてこれたぜ?」


「マジすか『森走りのヴィル』に?すっげ」


「技術だけでいったらオレより上だ。ま、経験的にはまだまだヒヨッコだ」


「また~、冗談はいいっす」



 なんか二人して盛り上がってるな。



「あ~すいませんっす。リクさん?すげーきれいな顔してるっすね。身分証貸してもらっていいすか」



 初対面のオレにすごい事言ってくるが悪意は塵ほども感じない。身分証を渡すと手元でなにやら魔道具のような物を操作している。たいした時間はかからず処理は済んだようだ。身分証を返してくれる。



「これでこの身分証は狩猟組合員証としても使えるようになったっす。改めてよろしくお願いします。事務のバススっす。査定と清算もしてます。今日の分はまた後日に」


「はい。リクです。こちらこそよろしく」


「終わったか?肉は冷やしておけよ。メシいくぞ。今日はオレがおごってやる。リク、こい。それからオレのことは間を抜いてヴィルって呼べ」




 おまえ、からリク呼びになったようだ。

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