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奴は鬼だ。鬼教官だ。
誰がって? アイだよ、アイ。
何が事前に検討済で時間内で可能だよ。
それオレがトップスピードをキープし続けてる前提じゃん。
森の中なんだよ? 道なき道だ。
上がったり下がったり。よじ登ったり飛び降りたり。
確かに途中で平原や緩い丘陵もあるよ? ボーナスタイムだ。
でもほとんど森なんだよ。
充電だって忘れちゃいけない。ちょっとでも気を抜くと秒で指摘してくる。
お前はいいよな、走らなくていいから。
《マスター、『おまえ』は、やめてください》
あ、はい。
次の日も、その次の日もオレは走っている。本当に辛い。でも全然がんばれる。
なぜだと思う?
上がったんだよ。ステータスがさ! VITのたった1だけどね。数字が見えるってのは偉大だ。それだけでゴハン何杯でもいける。
そういえば、ステータスから(仮)が取れたんだった。
さんざん村の人を計測しまくっていたからかな? 上がる前はこうだ。
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【名前】リク
【LV】7
HP 78/105
MP 0/0
STR 4
VIT 5
DEX 11
AGI 10
INT 13
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VITが1上がってこうなる。
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【名前】リク
【LV】7
HP 78/105
MP 0/0
STR 4
VIT 6(←NEW!)
DEX 11
AGI 10
INT 13
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んで、強化込み。
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【名前】リク
【LV】7
HP 73/105
MP 0/0
STR 18
VIT 20
DEX 22
AGI 21
INT 17
【付加中】身体強化
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傍から見たら超一流アスリートのように見えるハズだ。
前世なら複数種目で世界で勝てる。ギリギリ人間の範囲内だ。
パラメータによって強化倍率が違うのも興味深い。
VITが上がったのはマラソン初日が終わった時だ。
でもさ。たった1日走っただけでステータス上がるもんか?
本当に?
モチベを持たせるための、アイの仕込みじゃないのか。
・・・・うん、いいや。
騙されておこう。いやむしろ素敵に騙してください。
村で過ごす最後の日だ。
挨拶周りする。成人するしね? 大人な行動が必要なのです。
とは言っても小さな村だし知り合いも少ない。
アイがうるさいから村中を見て回る。未測定の人を探すらしい。
挨拶周りしてる風を装えば怪しくないよな。
もちろん訓練も続けてる。
飽きるまで歩いた後、施設に戻る。
子供達と別れを惜しむが、寂しがってるのはオレだけだ。
もしかしたら年少の子たちは別れを理解していない可能性もあるな。
年長組は近隣の農家に働きに出ているから、夜に語り合おう。
最後だと思うと粗末なベッドとシーツでさえ愛おしい。
なんでもかんでも感傷的になる。
なつかしい感触だ。既視感ってやつ。
前世での卒業とか家を出る時の事が蘇る。
甘酸っぱい気持ちに浸りながら、ゆっくりと眠りに落ちて行った。
旅立ちの日。
朝からノムさんが来てる。
今日はきっと良いツンデレが楽しめるぞ。
でもずっと黙ったままだな?
旅の準備を甲斐甲斐しく行いながら、オレの周りを忙しく動き回るシスター。
そんなシスターとオレを交互に見遣る師匠。
目が泳いでるぞ?
え、まって。
泣かないよね?
はやいよ! もうかよ!
やれやれ、めんどくさいオッサンだ。
「まぁまぁ二人とも大変。こっちへいらっしゃい」
シスターはそう言ってノムさんとオレの両方を自分に引き寄せ抱きしめる。
抱きしめられてわかった。オレも泣いてた。
ひとしきり慰められた後、改めてシスターはオレに向き直り言う。
「やんちゃな所もあったけど、素直で優しい子。そして賢い子。
賢すぎて色々わかってしまっていたわね。小さい頃から周りの人の気持ちを察し、大人の事情もよく理解していたわ」
「そのせいで子供らしからぬ苦労をたくさんさせてしまったわね。ごめんなさい」
何も言葉がでてこない。言いたいことはたくさんあるのに。
気持ちだけが空回り、あせってシスターを見る。
「大丈夫、わかってるわ」
ゆっくりうなずくシスター。
「その優しさと賢さで、キールでもあなたはやっていける。
ただし何でも背負いこんでしまう苦労性な所は治しなさい。あなたの手の届く範囲だけでいいの」
しばしオレの目を見つめるシスター。
「あ~~やっぱり心配だわ。キールまで一緒に行こうかしら」
冗談めかして言うけど、割と本気ですね?
「めったに見ないほど美しい黒髪、整った顔立ち。人さらいが出てもおかしくないわ。きをつけてね」
「他のガキたちはボッサボサのチリチリ毛ばっかりなのにな。おまえだけ艶々だ。なんか変なもん食ってないか?」
黒髪って珍しいの? 村じゃ人が少なすぎて気が付かなかった。
髪とか肌が綺麗なのは、この世界の人にしては綺麗好きなのと身体強化のせいだと思う。
ってか師匠、やっと口を開いたと思ったらソレですか。
「さ、忘れ物はない?
前に言ってた書類と手紙、それにお金ね。キールについたら斡旋所に一番にいくのよ?」
「わかってます」
師匠の事をとやかく言えない。
やっと捻りだした言葉が、わかってるだけとは。
もう本当に最後なのに。
シスターはもう一度オレを強く抱きしめた後、送り出してくれる。
「いってらっしゃい」
「おい、どうしても無理だったら戻ってきてもいい」
オレはシスターと師匠それぞれに目を合わせ頷く。
「ありがとうございましたっっ! いってきます!」
万感の思いを込めて深く、深くお辞儀した。
村を出てしばらく歩く。
方向は?
もちろん西だ。村の西にキールはある。ちゃんとした道は無いが、人が歩いて自然にできた道はある。田舎とはいえ、そこそこ街との行き来はあるからね。
天候はやや曇り。春先だがまだ冬の空気が残り、肌寒い。
とは言っても日本の厳しい冬の寒さはない。この国は四季を通して全体的に温暖だ。狩りも一年中できる。雪はまだ見たことが無い。
泣いたせいで少し目が腫れていたようだ。身体強化のおかげですぐ元に戻ったが。
別れ際の二人の顔を思い出す。
もっと色々伝えたかったな・・・・
たった今済ませたばかりの別れの余韻にひたりながら、新たな街に思いを馳せる。
《マスター、充電が甘いです。それとキールまで走ってください》
鬼畜の所業っっ!!!
一方、残された村の二人。
「いっちまったな」
「ええ、さびしいわ。いつまでたっても、どの子でも慣れないわ」
「あいつは大丈夫だ。特別だ。オレが見た中でダントツ一番だ」
シスターは頷いて、リクが去った方向に目を向ける。
「わかってます。
不自然なほどのまでの知能。何をやらせても出来てしまう器用さ。体も丈夫で一度もケガも病気もしなかったわ。16年間、風邪も含めてよ?
なによりあの黒髪・・・・・物語の中だけの事だと思っていたわ」
「ああ。恩寵持ちだな。初めて見たよ。
オレんところで修行してる間も、いろいろヒドかったぜ?本人は隠してるつもりだったけどな」
「笑わないで。
あの子は平穏無事を愛するタイプ。いつもトラブルを避けるように動いていたわ。自分が多少不利になってもね。
驚いたことに自分が平穏であればいい、ではなくて周りの人含めてみんなと自分がそうなるようにって祈っていたわ。そんな考え方は普通もっと年老いた人間のものよ。
老成していた、と言えばその通りだけど何があの子をそうさせたのか。不思議だわ。
これからも気付かないフリして、可能な限り協力してあげましょう?
でも・・・・この最後の一か月。何かおかしかったわ。
人が変わったような・・・・」
「成人を意識し過ぎて大人ぶってただけだろ。『オレ』ってね。かわいいもんだ」
「本当にそれだけかしら」
「そうに決まってる。心配ない。
なんてったって神様がついてるんだ。あれは狩猟の大神だな、まさに天才ってやつだった」
「それもどうかしら。
何らかの加護を得ているのは間違いないと思うけど。いつも何か見えないものを見ていた気がするわ。あの子の目に何が映っていたのか」
しばらく二人は押し黙ったまま、考え込むようだった。




