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「うひょ~~~~、キタキタキターーー」
思わずオレは叫んでしまった。
ついさっきまで忘れていた記憶を、今思い出したからだ。
これからの事を考えてニヤニヤしてしまう。
ここはとある森の中、比較的大きな木の幹の上。周りに人の気配はなく、誰に聞かれることも見られるということもない。
(さて何から始めよう?)
(そんなの決まってる。アレだよ、アレ。テンプレ通りにそう!)
「ステータス!」
・・・・・・・・?
「ステータスオープン!」
・・・・・・・・
「ウィンドウ!」
「ログ!」
「メニュー?」
「表示??」
何度も何度も似たような言葉を探して試すが全く反応がない。
この世界には似つかわしくない、おかしな響きの言葉だけがむなしく周りに溶けて消えて行く。
それでも挫けずに他の方法も試してみる。
(動作を伴ってみるとか?)
(口に出さず、心の中で唱えた方が?)
(魔素をイメージしながら?)
考えつく限りの事を試してみるが何も起きない。
(そもそも魔素って何だって言ってたっけ)
(あの時の話をよく思い出せ)
(たしか・・・魔法はあるハズだったな? オレは使えないけど)
あの短い邂逅の中で聞き出せたことは、今から考えるとほんの少しのことだけだった。オレ自身興奮してて頭が回っていなかったこともある。思ってたのと全然違うし、ひょっとすると全部手探りで進めていかないとだめかもしれない。
ステータスについても全くわからない。そもそもまずあるのかどうか、だ。ありもしないものを探し続けるのは無意味だし、時間の無駄だ。では『無い事』を確かめる?それも駄目だ、いわゆる悪魔の証明ってやつだ。
(マジなのか・・・・)
段々と陽が落ちていく薄暗い森の中で、オレはひとり呆然としていた。
少し時間を遡る。
ここはいくつもの自治領が集まって形成された国、ウィリデ連合国。
この国は各自治領の領主達による合議制で運営されている。
その国の中にある小さな小さな児童保護施設。粗末なベッドの上でリクはいつものように目覚めた。
(うぅ、お腹減ったなぁ。そろそろ時間だろうし起きて準備しなきゃ)
周りに寝ている子供たちを踏まないように歩きながら部屋の隅に進み、自分の作業着に着替える。そのまま外に出て井戸で水を汲み、簡単にサッと身だしなみを整えた。
うがいをした後に少しだけ水を飲み飢えをごまかす。濡れた手を大きく振りながら水をふきとばし、建物の中に戻ろうとすると中からシスターが出てきた。
「おはようリク」
「おはようございますシスター」
「毎日早いわね。もうすぐ成人だししっかり準備していかないとね。
悪いけどいつもの壺へ水汲みをお願い。
終わったら他の子供達を起こして食堂にね。急いで、時間ないわよ」
「わかった」
矢継ぎ早に指示を出すと、シスターは急ぎ足で施設の建物から教会の方へと去っていった。陽に照らされて光る赤茶色の髪もすぐに見えなくなる。
起きたばかりでいきなり忙しくなるが別に不満はない。
成人を間近に控えたボクはこの施設で一番の年長で、他の子の面倒を見るのは当たり前だ。自分だって小さいときは色々世話をしてもらってきた。
それにシスターだってボクの何時間も前に起き出し、皆のためにありとあらゆる家事仕事をしている。さらに教会の方の準備だってある。過労で倒れないか心配なほどだ。
(シスターには本当に頭が上がらないな。よし、急ごう)
まだ眠いとグズる小さい子供達を食堂へ連れ出し、自分と共に食事を摂らせる。
小麦を水で捏ねた物と塩豆スープだ。質素な料理だが空腹は最高のスパイスだ。あっという間に平らげる。
食べ終わった後はそのまま食堂でいつもの授業だ。
この教会では施設の児童達と近隣の幼子に対して食事を施し、簡単な教育を行っている。教育と言っても生きるために最低限必要な知識程度であり難しいものではない。
近隣の住民は『食事代が一食浮く』ので喜んで子を送り出す。授業というだけではわざわざ受けに来てくれない、子は大事な労働力だから。
授業がおわれば急ぎ家に帰って、それぞれの家庭で出来る限りの事をする。動けない乳飲み子はともかく、どんな小さい子だって働く。
もちろん施設の子供達も同様だ。
この施設は国からの支援と教会への微々たる寄付で運営されている。年長になった今だから理解してきたが、こういう方法で市民の教養水準を上げる施策なのだろう。また宗教的な思想誘導も兼ねていると思う。
シスターが食堂の壁を背にし、そこに集まった10人ほどの子供達を見て話しを始める。
「みんな聞いて。新年が近いわ。あなたたちの中ではリクが今15歳、つまり今度の新年で成人をむかえます」
わ~とか、お~とかよくわからない子供特有の感嘆符が飛び交う。
「だから今日からリクが成人して旅立つまでの短い間ですが、いままで習ってきた事をみんなでおさらいしていきますよ」
「は~い」
リクが旅立つまで、か。なんだろうこの変な気持ちは。
寂しい? うん寂しくはある。
でもそれだけじゃない。懐かしい?
何故か今までに何度も味わってきたような、そうでもないような。所属している場所で一定の期間をすごし、巣立っていくこの感覚・・・・慣れている?・・・・なぜ?
などと考えているとシスターと子供達の一問一答が始まっている。
「まずは、、、、みんなが住んでいるこの国の名前を教えて」
「ウィリデ連合国!」
「その国の中のこの自治領は」
「クレマチス領!」
「ご領主様のお名前を」
「キトルルス・クレマチス様!」
「この国の大神様について知っている事を言ってみて」
「う~んと、道具の神様?」
「狩猟もだよ!」
「他はどうかしら?」
「・・・・・」
それ以上は少し難しかったらしく、子供たちは口をつむぐ。
シスターは周りを見渡してボクの所で目を止めたようだ。
「リク、詳しくお願い」
「はい。今言った通り道具と狩猟の神であり、また、風と緑をも守護されています。
固有の名は持たず、この国の守護神としてボク達を見守り導いてくださいます。
数多くおわします神々の中で、たった8柱しかない大神でもあらせられます」
ボクはさらに言葉を続ける。
「ウィリデ連合国は国の方針としてこの大神様を信仰しています。
その影響は大きく、この国には有能な道具作り職人が多くて特に魔道具が有名です。
さらに狩猟を生業とする者、林業に従事する者が多いです。
国土は自然に満ち、四季はありますが1年を通して温暖です」
「なお、国教はありますが信仰の自由は保障されており、人は自分の心に従って祈りをささげる神を選ぶことができます。
また、天啓を受けることで信仰が決まることもあります」
そこまでを聞いたシスターは満足気に微笑む。
「とても優秀です。よく出来ました」
笑顔に釣られたのか子供達からまばらな拍手が飛んでくる。
「まだまだ続けますよ」
「みんなはこの村でお金をあまり見たことが無いと思うけど、村の外ではお金を使って物を買ったり売ったりします。要はお金と物を交換する、ということね。
ではお金の種類をおさらいしましょうか」
「実はお金以外にも物と交換できるものがありますよ。
なんでしたか?・・・・そう魔石ですね」
「村の外とはいいましたが、この村から一番近い街について説明しましょう。
ゆっくり話すからよく聞いてね」
「成人とはなんだったかしら? リク以外で答えて」
「成人すると色々とやらなければならなくなります。
ひとり立ちして自分で食い扶持を稼ぐのはもちろん、税の支払いもあります。
あなたたちのお父さんやお母さんのように、結婚して一定の場所に住んで暮らすこともあります。
お父さんお母さんがいない人は、この施設から卒業して行くことになります。
みんなは成人になったらどうしたいですか?」
まとまりのない雑多な生活知識の確認は続いていく。
そうやっておさらいをしながらある程度の時間が経過した後、最後に文字の読み書きの練習と計算の練習をする。
いつものことだ。
これに関しては全員で同じことをやるわけではなく、年齢や習熟度によってどうしても内容はバラバラになってしまう。ボクを含め数人の年長者は教える側にまわる。
自分で言うのも烏滸がましいが、ボクはかなり計算が得意な方だ。シスターによると大人顔負けの速度と正確さらしい。計算で食べていける仕事があればよかったのにね。
机の上に置いたいくつもの小石を使って足し算引き算を教えながら、ボクは思わず出そうになる大きなアクビを必死に噛み殺し、授業の終わりを待った。




