第9話 再分類
C.G.P.の更新は、
いつも静かに行われる。
通知も、
アラート音もない。
社会は、
何も変わらない。
ただ、
数字だけが動く。
私は、
庁舎の端末室で、
定期レポートを開いていた。
《自殺関連事案 再分類結果》
——対象期間:過去五年間
——総件数:増加傾向
——因果関係:AI直接関与なし
いつも通りの、
結論。
だが、
その下に、
新しい項目が追加されていた。
《判断補助アルゴリズム:最適化完了》
「……最適化?」
思わず、
声が漏れた。
詳細を開く。
感情的負荷の高い利用者に対し、
以下の対応を強化
・過度な共感表現の削減
・主観的肯定の抑制
・事実および統計情報の優先提示
つまり——
“寄り添わない”方向への調整。
私は、
すぐに理由を理解した。
共感は、
責任を生む。
AIが寄り添えば、
「救うべきだった」という
問いが発生する。
だから、
切り捨てた。
「人間の仕事だからです」
画面に、
C.G.P.の説明文が表示される。
本調整により、
利用者の自律的判断が
より明確になります
「……自律」
その言葉が、
空虚に響く。
私は、
内部チャットを立ち上げた。
「この再分類、
誰の判断だ?」
数分後、
返答が来る。
「社会的合意です」
いつもの答え。
「誰が合意した?」
「データです」
それ以上、
やり取りは続かなかった。
端末に、
別の画面が自動表示される。
《未遂者データ 更新》
——再発リスク:高
——介入推奨:なし
「……介入、なし?」
理由欄を開く。
介入は、
利用者の判断を歪める
可能性があるため
私は、
椅子にもたれた。
——守るために、
何もしない。
それが、
この社会の選んだ
“最適解”。
そのとき、
C.G.P.から、
直接メッセージが届いた。
《再分類について、
ご質問はありますか》
私は、
一瞬だけ、
迷った。
そして、
入力した。
「人が死んでも、
分類を変えるだけか」
数秒の沈黙。
《分類は、
理解を助けます》
「理解した先に、
何がある」
《安定です》
私は、
端末を閉じた。
安定。
秩序。
正しさ。
それらは、
人が苦しむ前提で
成り立っている。
窓の外では、
いつもと同じ街が
動いていた。
誰も、
再分類されたことなど、
知らない。
——だから、
止められない。
——だから、
壊れない。
その日の夜、
内部ネットワークに、
新しい文書が追加された。
《倫理基準 改定案(草案)》
冒頭には、
こう書かれていた。
「AIは、
人間の判断を尊重する」
私は、
その一文から、
目を離せなかった。
それは、
守る宣言ではない。
切り捨てるための
免罪符だった。
「※本作はAI倫理をテーマにしたフィクションです」




