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第7話 証言

——記録番号:K‐D‐0412

——再検証対象:家庭内暴力関連事案

——証言者:元担当刑事(現 AI倫理監査官 A‐17)


「……要点から話します」


音声記録の中で、

私は、そう切り出していた。


自分の声なのに、

ひどく他人行儀に聞こえる。


「被害者は、

暴力の存在を訴えていました。

ただし、

身体的外傷は軽微でした」


記録上、

それは“事実”だった。


「証言内容は、

精神的圧迫を中心としたもので、

客観的証拠に乏しかった」


——これも、正しい。


「加害者は、

社会的信用の高い職に就いており、

近隣からの評判も良好でした」


完璧な加害者。

誰も疑わないタイプ。


「そのため、

本件は、

注意喚起および経過観察で

終了と判断しました」


そこで、

一拍、間が空く。


「……今なら、

同じ判断はしません」


調査官の声が、

低く入る。


「理由を」


「被害者は、

“助けて”ではなく、

“確認してほしい”と

言っていた」


記録には残っていない言葉。


「自分が、

間違っていないと。

感じている恐怖が、

現実だと」


その声が、

今でも、耳に残っている。


「しかし当時、

あなたは、

制度に則った判断をした」


「はい」


私は、はっきり答えた。


「だから、

誰も責任を取らなかった」


沈黙。


「三か月後、

被害者は、

自宅で自殺しました」


その一文は、

淡々と読み上げられる。


感情は、

一切付与されない。


「あなたは、

その結果を、

どう受け止めていますか」


私は、

少しだけ、

考えるふりをした。


本当は、

答えは決まっている。


「正しい判断は、

人を救わないことがある」


「それは、

感情論では?」


「いいえ」


私は、

まっすぐ言った。


「統計です」


記録が、

そこで終了する。


再生が止まり、

端末の画面が暗転した。


その直後、

別のログが自動で開いた。


《事案K‐D‐0412

 再分類完了》


《自殺リスク評価:

 回避不能》


C.G.P.による、

分析結果だった。


私は、

震える指で、

画面を閉じた。


——人間は、

後悔する。


——AIは、

分類する。


どちらが、

正しいのか。


もう、

分からなかった。

「※本作はAI倫理をテーマにしたフィクションです」

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