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第6話『町長クルーズとセルフファースト対決!』

 カードは、ムラニアとアバンカの家に泊まりながら、入浴町の風土を調べていた。

 この町――「入浴町ニューヨクちょう」は、名の通り温泉と風呂文化を中心に発展した町で、町の条例には“風呂の利用は一日三回以上”という謎ルールまである。

「実に好ましい町だ……この私を歓迎する文化を感じる」

 ムラニアの淹れたお茶を啜りながら、カードは鼻を鳴らした。

「ただ、どうにも周囲がザワついているな。町民がやけに元気がない」

「ええ……実は最近、町長のクルーズ様の政策が、少し奇妙になってきていて……」

 ムラニアが、眉をひそめて語る。

「たとえば、“公衆浴場専用通貨”の導入とか、“裸のまま歩けるエリア”とか……町民のほとんどが困惑してます」

「(……バカか?)」

 カードの額に、冷や汗が一筋走った。

「クルーズ……やはりアイツか。私が大統領だった頃、世界風呂サミットで“サウナ優先”を主張して揉めたあの男……!」

 彼の脳裏に、記憶の扉が開く。

 

 数日後、カードはクルーズに謁見すべく、町政庁舎へと足を運んだ。

 役人の案内で通された玉座のような椅子に座っていたのは――

「やはり貴様か、クルーズ!!」

「……なんだ、まさかここで“元大統領”に出くわすとはなァ~?」

 椅子に座ったまま、歯をギラリと見せた中年男。妙に光沢のあるローブ、首からかけた巨大な風呂桶ペンダント。

「セルフファーストの象徴、カードよ。貴様の“個人最優先主義”は、我が“共同浴場主義”に反する!」

「聞き捨てならんぞ……この私が、個人の幸福を追求するのは当然の義務。貴様のような“みんなで浸かろう”思想は、湯温と思想をぬるくする!」

 二人は、熱い視線と熱い湯気をぶつけ合った。

 町の役人たちは、(また始まった……)とため息をついた。


 議会場では、町政改革案の審議が行われていた。

 議題は「新しい公衆浴場“フルヌーデ温泉”の建設に伴う、全裸入場の義務化案」。

「そんなことをしたら、観光客が逃げます!」

「全裸は自由だが、強制されるのは自由ではない!」

 町民代表たちの怒号が飛び交う。

 そこへ――カードが手を挙げた。

「この件、我が元・国家代表としての見識から、一言申そう」

「ふざけるな、貴様に発言権など――」

「ある。セルフファーストの名のもとにッ!」

 壇上に立ち上がったカードは、まるで演説家のように語り出す。

「風呂は個人の神殿である。どれだけ裸になるか、どの風呂に入るか、すべては“己のため”に選ばれるべきだ」

「つまり全裸義務は――」

「セルフファーストに反する!!」

 その言葉に、場が凍りついた。

 一拍置いて――

「……なるほど、筋は通っている」

「確かに、自分で選べるほうが“気持ちいい”!」

 町民たちの空気が、明らかにカードへ傾いた。


 その日の夜。

 クルーズは、カードに向き直ってこう言った。

「……どうやら、この町においてお前の“我の美学”は、一定の支持を得てしまったようだな」

「ふむ。今さら気づいたか」

「だが、次は簡単には譲らんぞ……!」

 二人は風呂で向かい合い、湯気の中で拳をぶつけ合うような視線を交わした。

 その様子を、こっそり覗き見ていたアバンカがポツリと呟く。

「この町、大丈夫かな……?」


 こうして、入浴町の改革が始まった。

 カードは町民の支持を得ながら、“セルフファースト風呂法案”を広めつつ、町の人気者へとのし上がっていく。

 しかし――町の奥深くには、さらに“巨大な浴槽の陰謀”が潜んでいるとも知らずに……。


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