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第31話『黒幕の挑戦状』

 控室は熱気と重い空気に包まれていた。

 汗と血の匂いが混じり、床に散らばる包帯や水のボトルが選手たちの緊張感を物語っている。

 椅子に腰掛け、目を閉じて待機するカード。

 呼吸は穏やかで、表情に焦りはない。むしろ心の中ではこう思っていた。

(……1回戦はギリギリで勝ったように見せられた。オッズは俺が弱者って前提で動いてくれる。好都合だ)

 そこに控室の扉が開かれる。係員が声を張り上げた。

「第2試合、カード選手、お願いします!」

 カードはゆっくりと立ち上がり、軽く首を回す。

 周囲の選手たちがちらりと視線を送るが、彼はその一つひとつを受け流し、静かに会場へ向かった。


 第2試合の相手は──槍使い。

 すらりとした長身の男、無駄のない動作で槍を構え、その表情には自信が浮かんでいる。

 オッズはやはりカードが圧倒的に不利。観客席も剣士戦同様、カードの敗北を期待しているようだった。

(……まぁ、実績がないんだ。むしろ助かる)

 カードは試合開始のゴングが鳴ると同時に、少しだけ後退し、相手の動きを観察する。

 槍使いはまるで舞うような速さで前進し、槍の穂先が閃光のように繰り出される。

 ──ズバッ!ズババッ!!

「おおっ……!!」

 観客席がざわめき、スラムの住民たちが固唾を呑む。

 だが、カードは一歩、また一歩と紙一重でかわしていく。

 まるで相手の呼吸を読み取っているかのような完璧な回避。

(体力を使わせる。焦らせる。技の切れを鈍らせる……)

 槍使いの表情に徐々に汗が滲み、息が乱れていく。

 ──今だ。

「……お疲れさん」

 カードの低い声とともに、槍の間合いを一気に詰め、全身を使ったラリアットが炸裂した。

 ゴォッ!!

 槍使いは宙を舞い、床に叩きつけられ、気絶。

「勝者、カード!!」

 場内は一瞬の沈黙のあと、スラムの住民たちが熱狂し、観客全体がざわめきに包まれた。


 控室に戻るカード。係員が驚きと敬意の混じった視線を送ってくる。

「さすがです……準備ができ次第、第3試合ですので、よろしくお願いします」

 カードは軽く片手を上げ、壁にもたれかかり目を閉じた。

(次は斧か……面倒だな)


 第3試合──対戦相手は筋骨隆々の斧使い。巨大な斧を肩に担ぎ、試合場に立ったその姿は観客を沸かせた。

 オッズは相変わらずカードの方が不利。

(いいぞ、この流れだ……)

 開始直後、斧がうなりを上げて振り下ろされる。

 カードは半歩だけ横に移動し、地面にめり込む斧の刃を見下ろす。

「随分重そうだな、それ」

 挑発的に笑いかけ、相手のペースを乱す。

 やがて焦った斧使いが振り回す動作が粗くなった瞬間──

 カードは地面すれすれをすり抜け、相手の足元へ滑り込むと、足払いで体勢を崩し、肘打ちを鳩尾に叩き込んだ。

「ぐっ……!!」

 巨体がぐらつき、カードは最後に背後から首に腕を回し、締め落とす。

 ──勝者、カード。


 第4試合──短剣使い。

 二本の短剣を巧みに操るスピード型の相手。だが、カードの心は揺れなかった。

(速さは確かだが、パターンが単調だ……)

 開始直後から短剣の連撃を受け流し、極限まで距離を保つ。

 観客席には逆にスリルが走る。

 やがて短剣使いが飛び込みざまの刺突を試みた瞬間、カードは体をひねって背後に回り込み、後頭部に手刀一閃。

 短剣が床に散らばり、相手は崩れ落ちた。

 ──勝者、カード。


 控室に戻ると、係員が深く頭を下げた。

「お見事です。いよいよ決勝戦です……」

 カードは深く息を吐き、額に滲んだ汗をぬぐう。

(順調だ。観客の目も、オッズも、実力を過小評価したまま──)

 控室の奥、ふと気配を感じた。

 振り返ると、そこに黒いスーツの男が立っていた。

 カジノの黒幕──その冷たい眼差しが、カードをまっすぐに射抜いている。

「ポーカーチャンピオン。君がここまで勝ち上がるとはね……決勝で会おう」

 低く、鋭い声が響く。

 カードは片眉を上げ、口元に不敵な笑みを刻んだ。

「楽しみにしてる。派手にいこうじゃないか」

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