第3話『問題解決?いや、それ私の都合で動いてます』
朝。村の中心にある広場では、村人たちが困った顔で集まっていた。
「畑が……あの砂竜が暴れたせいで、作物がほとんどダメになっちまってる!」
「水路も壊れてるし、明日には村の水瓶が干上がるって話だぞ!」
「それに家畜も……夜中に何かが柵を壊して、逃げちまったんだ!」
阿鼻叫喚の村会議。その中心で、たった一人、優雅に椅子に座りワインを飲む男がいた。
「ふむ……だいたい聞いたぞ。つまり“私の快適な生活環境”が脅かされているということだな?」
「いやいや、俺たちの生活の問題だっての!」
「それが私の問題に直結している。よろしい、ならば行動しよう。これは国家規模の危機だ」
「え、国家!?」
カードは椅子を立ち、村人の前で胸を張った。背後から日差しが差し込み、なんかそれっぽく見えるのがまたムカつく。
「諸君。私がこの村の“超臨時村王(暫定)”として、問題を解決してやろう」
「また肩書き増えたぞ!」
まずは、畑の復旧である。
荒れた畑を前に、村人たちが頭を抱えている中、カードは深く腕を組み、うんうんと唸った。
「なるほど……作物は全滅……しかし、ここで諦めるのは敗北主義だ。私は勝利主義者だ」
「だからって、どうするんです?」
アリシアが不安そうに尋ねると、カードはキッと目を細め、腰のポーチから何かを取り出した。
「この袋に詰められた粉末は……!」
「すごい魔法の肥料!?」
「いや、インスタントポップコーンだ。私はこれを使って“畑が豊かであるかのような雰囲気”を出す!」
「意味わかんない!」
だが次の瞬間、カードはスキル《セルフファースト》を発動。すると彼の周囲の植物だけが、陽光を浴びたように元気を取り戻し、見事な緑を取り戻していく!
「な、なんだこの現象……!?」
「私が“快適な食事を得たい”という願望をスキルが感知したのだ。つまり、自分の腹を満たすために、自然界が協力してくれるということだ」
「理不尽すぎる……!」
だが結果として、畑の三分の一が回復し、作物が急成長を始めた。村人たちは歓喜し、カードは高々と笑った。
「すべては私の意思による勝利!君たちはただ、感謝し続けていればいい」
次に、水路の問題。
壊れた水路の前で、男たちが途方に暮れる。
「修理用の木材も足りねえし、そもそも水源の水が干上がってきてるって話だぜ……」
「なるほど……つまり“風呂に入れない”ということだな。重大な国家的懸念だ」
「いや、飲み水が先!」
カードは水源に近づき、じっと地面を見つめる。
「……この地形、見覚えがある。大統領時代、私は世界中の地形データを“背景として眺めていた”。つまり、なんとなくわかる!」
「適当かよ!」
カードは再びスキルを発動。《セルフファースト》が、“清潔で健康的な生活を望む”という彼の強い願いを察知し、地面を揺らした。
ゴゴゴ……!
突如として地面から岩が吹き飛び、地下から清水が湧き出す! 水が勢いよく流れ出し、壊れた水路の代わりに新しい水路が勝手に形成されていった!
「村の……水が戻った!?しかも前よりきれいだ!」
「う、美しい……!」
「飲み水も、農業用水も、すべて回復!?」
「ふっ、すべては私の風呂タイムのためだ。諸君は感謝するように」
「風呂目的で世界が変わるとか、どんだけ自己中心的なのよ……」
最後に、家畜の問題。
「柵を壊して逃げたヤギたちが戻らないんです!」
「このままだと、村の食料が……!」
カードはため息をつき、村人をじっと見た。
「その程度の問題、自らが動くべきでは?」
「いや、あなたも他人事みたいに言ってるけど、そもそも超臨時村王でしょ!」
「ふむ、ならば……私は“新たな家畜”を求めよう!」
彼は指を鳴らすと、どこからともなく鳥や羊、はては謎のトカゲまでが姿を現した。
「な、なんだこの動物たち……!?野生の連中が自分から寄ってきた!?」
「彼らは私のカリスマに惹かれたのだ。“ここならエサに困らず、安全に暮らせる”と直感したに違いない。つまり、私の存在はエコシステムそのもの!」
「理屈がパワーワードすぎる……!」
かくして、カードは「自分の快適な生活」を追求することで、結果的に村の主要な問題をすべて解決してしまった。
村人たちは呆れつつも、拍手を送らざるを得なかった。
「カード様、すげえ……!」
「救世主かもしれん……!」
「もはや神……いや、女神より頼れる……!」
「そうだろう?神に頼るより、私に頼るのが正解なのだ。私という存在がすでに奇跡だからな!」
カードは得意げに笑い、椅子にふんぞり返った。
その姿はまさに――
“自分の都合で世界を変える”最強の自己中心人間だった。