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第27話『地下にうごめく欲望』

 グランド・ポーカーチャンピオンシップから数日後、

 カードの元に一通の封筒が届いた。厚みのある高級な紙に、金色のインクで封蝋が施されている。封を切ると、豪華な装飾が施されたカード状の招待状が現れた。

「親愛なるカード様へ──

 あなたの腕前と名声を、我がカジノのオーナーが高く評価しております。

 ぜひ一度、当館の特別エリアへお越しください。

 地下にて、特別な『勝負』が行われております。」

「特別な勝負、ね……」

 カードはコーラを片手に、その文字をじっと見つめた。


 招待状に指定された時間、カードはカジノの裏手にある秘密の扉から案内人と共に進んだ。

 無機質な階段を降り、扉をいくつも通り抜けた先にあったのは、まるで異世界の闘技場だった。

 アリーナの中央には闘技場。土と鉄でできた円形の舞台。

 その周囲を囲むように観客席が設けられており、そこには金と権力の匂いを漂わせる豪奢な服装の男女が所狭しと座っていた。

 宝石をふんだんに散りばめたドレスや、金の刺繍の入ったローブ、豪勢な髪飾り──。

 そこには富と欲望が渦巻いていた。

 観客たちは戦士たちの一挙手一投足に声を上げ、血飛沫が舞えば歓声が湧き起こる。

 目の前で繰り広げられる生死を賭けた戦いを、彼らは娯楽として楽しんでいた。

 カードの隣を歩く案内人が口を開いた。

「こちらがアンダーハウス──地下闘技賭博場です。カジノオーナーの特別なお客様だけが入場を許されています」

「ふむ……出場は可能なのか?」

 カードは興味深げに尋ねた。

「ええ、もちろん可能です。ただし、命の保証はできませんよ?」

 案内人は口元に薄く笑みを浮かべた。

 カードは黙ってうなずいた。しばらく観戦した後、カードは静かに席を立ち、ホテルへと戻った。


 翌朝、カードは手土産のハンバーガーを紙袋に詰めると、ベガス町のスラム街へと向かった。

 埃と錆の匂いが漂うスラムの路地。

 カードは軽快に歩きながらも、油断せず周囲に目を配っていた。

 そのときだった。

「……ん? なんだこの匂いは……!」

「肉だ! いい匂いだぞ!」

 数人のスラムの男たちがどこからともなく現れ、カードの持つハンバーガーの匂いに惹かれて目の色を変えて近寄ってくる。

「おい、そのハンバーガーよこせ!」

「いやだと言ったら?」

 カードは歩みを止めることなく、淡々と答えた。

「だったら力づくだ!」

 男たちは金属パイプや鈍器を手に一斉に飛びかかる。

 カードは一瞬ため息をついた。

「またか……」

 そして次の瞬間──

 ドゴッ! ガシャッ! バキィッ!

 男たちの身体は、次々と宙を舞い、スラムの瓦礫の山へと叩きつけられた。

 わずか数秒の出来事だった。カードは一切の無駄なく、華麗に彼らを撃退した。

「人の朝食にたかるな、見苦しい」

 ハンバーガーの紙袋に傷一つ付けず、カードは再び歩き出した。


 シュロンの家に到着すると、少女は目を輝かせて玄関に駆け寄ってきた。

「カードさん! また来てくれたのね!」

「これだ。朝飯にでもしろ」

 カードはハンバーガーを手渡した。

「……ほんとにありがとう……っ!」

 少女は袋を抱きしめるようにして感謝を述べた。

 その後、家の中に招かれ、カードはシュロンの両親とも挨拶を交わした。

 彼らは、少しやつれてはいたが、穏やかな表情でカードに礼を述べた。

「うちの娘を助けてくれて、ありがとう……あの時、あなたが来てくれなかったら……」

「別に礼はいらん。私は私の都合で動いてるだけだ」

 カードはそう言いながらも、どこか照れくさそうに視線をそらした。


 食事を終えたあと、カードはふと尋ねた。

「ところで、スラムのごろつきどもの溜まり場を知っているか?」

「え……ええ、たぶん。広場の裏にある廃工場跡地……。そこに、毎晩のように騒ぎ声が聞こえるの……」

「なるほど」

 カードは立ち上がると、スーツのジャケットを羽織りながら、静かに呟いた。

「調査しておくか──地下の闘技場に、彼らが関わっていないとも限らん」

 そして再び、静かなる闇へと歩き出した。


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