第26話『決勝戦、運命のテーブル』
決勝戦の朝、ベガス町のカジノ街には異様な熱気が満ちていた。
街の巨大なビジョンには、「グランド・ポーカーチャンピオンシップ 決勝進出者4名」と大きく映し出され、その中に堂々と「カード」の姿もあった。
「ついにここまで来たか」
バスローブからきっちりしたスーツに着替えたカードは、鏡の前で軽くネクタイを整えると、ホテルの部屋を後にした。
冷たいコーラを一気に飲み干し、心を落ち着ける。
会場は、これまでとは比べものにならないほど豪華な特設ホール。
真紅の絨毯、天井から吊るされた巨大なシャンデリア。
観客席にはベガス町中の富豪たちや有力者が集まり、立ち見客ですらぎっしりだった。
中央に設けられた一際目立つ円卓には、4つの席。
そこに座るのは、カードを含めた選ばれし者たち。
・「カード」──突如現れた男、強敵を倒し勝ち上がった無敗のギャンブラー。
・「デューク・バレット」──筋骨隆々の大男、かつて賞金首だった過去を持つ凶悪なギャンブラー。
・「シルフィーナ」──妖艶な女性、相手を翻弄する心理戦を得意とする。
・「マスクド・ジョーカー」──正体不明の仮面の男、誰も彼の素顔を知らない。
カードは席に着くと、対戦相手たちを順番に見た。
誰もが一筋縄ではいかない相手だと直感する。
「まあ、勝つのは私だがな」
心の中でつぶやき、カードはテーブルに軽く手を置いた。
試合開始の合図が鳴る。
ディーラーがトランプをシャッフルし、手際よくカードを配る。
最初の手札──スペードのエースと、ハートのジャック。
カードは慎重にゲームを組み立てる。
焦らず、驕らず、確実に。
これまでと同じスタイルを貫く。
序盤、デューク・バレットが荒々しくチップを投げ、シルフィーナが柔らかな笑みを浮かべてコール。
マスクド・ジョーカーは無言のまま冷静にゲームを進める。
誰もが隙を見せず、じりじりとした攻防が続く。
観客席からは息を呑むような静寂と、時折漏れるどよめき。
中盤、カードは見事なブラフを決め、大きなポットを獲得する。
それにより一気にリードを広げた。
しかし──
次の瞬間、マスクド・ジョーカーが動いた。
彼は突如オールインを宣言し、場に大量のチップを叩きつけた。
カードは冷静に相手の目を見た。
仮面の奥に光る瞳は、何の感情も映していない。
「ふむ……これは、勝負だな」
カードは迷わずコール。
互いの手札が公開される。
マスクド・ジョーカーの手札は、クローバーのクイーンとハートのクイーン──ペア。
カードの手札は──スペードのエースとハートのジャック。
フロップで場にエースが出るか、あるいはジャックが2枚出るか。
ギリギリの運が試される。
ディーラーがカードを開く──
最初の場札、ハートのエース。
「よし……!」
カードは心の中でガッツポーズを作った。
自分のペアが上回ったのだ。
その後、ターン、リバーも無難に流れ、カードの勝利が確定する。
マスクド・ジョーカーは無言で席を立ち、静かに去っていった。
残るは、カードとシルフィーナ、そしてデューク・バレットの三人。
ここからが本当の勝負だった。
シルフィーナは、さりげない仕草でカードを惑わせようとする。
微笑み、視線を送る。
しかしカードは一切動じない。
「無駄だ」
カードは淡々とチップを積み上げる。
デューク・バレットは力で押し切ろうとするが、カードは鋭い読みで迎撃。
時に降り、時に攻め、確実に相手を削っていった。
そして、最後の瞬間が訪れる。
デューク・バレットが全チップを賭けた。
それにシルフィーナも続く。
カードも静かにオールイン。
三つ巴の大勝負。
場に開かれるカード──
エース、キング、エース、ジャック、キング。
カードの手札は、エースとジャック。
フルハウス、エースのスリーカード+キングのツーペア。
シルフィーナの手札は、キングとジャック──ツーペア止まり。
デューク・バレットは、クイーンとキング──キングのペア止まり。
勝者は──カード。
ディーラーが勝利を宣言した瞬間、観客席から大歓声が巻き起こった。
黄金の紙吹雪が舞い、ファンファーレが鳴り響く。
「優勝者、カード!!」
司会者が絶叫しながらカードの名前を叫ぶ。
カードは静かに椅子から立ち上がり、歓声の渦の中で胸を張った。
表彰式、カードは莫大な賞金と、純金製の巨大なトロフィーを授与された。
優勝者に贈られる特別な称号──「グランド・ギャンブラー」。
「まあ、当然の結果だな」
バスローブに着替えたカードは、ホテルのスイートルームでコーラを飲みながら、優勝トロフィーを眺めて満足そうに微笑んだ。
こうして、カードは異世界ベガス町で伝説となった。




