第25話『準決勝、迫る強敵』
翌朝、ベガス町のカジノ街は、さらなる熱気に包まれていた。
「グランド・ポーカーチャンピオンシップ」はいよいよ佳境を迎え、残るプレイヤーはわずか16人。
カードもその中に、堂々と名を連ねていた。
カジノの正面に巨大なビジョンが設置され、各プレイヤーの名前と顔写真が映し出されている。
その中で「カード」の名は、ひときわ輝いていた。
会場に入ると、準決勝戦のために特別に設営された豪華なテーブルが目に飛び込んできた。
赤いベルベットのクロスがかけられたテーブルには、黄金の装飾が施されている。
これまでとは比べ物にならないほどの注目と緊張感が漂っていた。
カードは指定されたシートに着くと、周囲を静かに見渡した。
今ここにいるのは、全員が百戦錬磨のギャンブラーたち。
目が合った瞬間、彼らがただの素人ではないことが分かる。
冷たい笑み、油断のない視線、呼吸すらも計算している者たちだ。
その中でも、カードの目を引いたのは、対面に座った一人の男だった。
真紅のジャケットに身を包み、口元には常に微笑をたたえている。
名前は「ミスター・レッド」。
ベガス町では名の知れた天才ギャンブラーであり、裏社会とのつながりも噂される危険な存在だった。
やがて、ディーラーが着席し、トーナメント開始の合図が鳴る。
「グランド・ポーカーチャンピオンシップ、準決勝を開始します!」
カードは深く椅子にもたれかかりながら、最初のハンドを待った。
配られたカード──
スペードのクイーンと、ダイヤのエイト。
可もなく不可もない手札だったが、カードは慎重にゲームを進めた。
序盤は無理をせず、静かにチップを重ねていく。
一方、ミスター・レッドは時折大胆なベットを仕掛け、周囲を揺さぶっていた。
その冷静さと勝負強さは、確かに本物だった。
──だが、カードは焦らない。
「勝つべき時に勝つ。それがギャンブルだ」
中盤、カードにビッグチャンスが訪れる。
配られたのは、ハートのキングとダイヤのキング。
強力なハンドだ。
ミスター・レッドが大きくベットしてきた。
他のプレイヤーたちは次々と降りる。
残ったのは、カードとミスター・レッドだけ。
「面白い」と、カードは心の中で呟いた。
カードは静かにコール。
ディーラーがフロップ(場札)を開く。
場にはキング、ジャック、エイト──キングのスリーカード完成。
──完璧な形だった。
ミスター・レッドはさらにベットを重ねる。
その目には自信が宿っている。
何か強い役を持っているのだろう。
だがカードは、それを上回る手札を持っている。
カードは小さく微笑み、ゆっくりとレイズ。
ミスター・レッドは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに笑みを取り戻し、コール。
リバー(最後のカード)まで開かれた。
勝負の時だ。
カードは全チップを押し出した──オールイン。
場内がどよめく。
ミスター・レッドはカードをじっと見つめた。
長い沈黙の後、彼はニヤリと笑い──コールした。
カードは手札を公開する。
キングのスリーカード。
場内に再びどよめきが走る。
ミスター・レッドも手札を公開した。
ジャックのスリーカードだった。
──勝者はカード。
ディーラーが勝利を宣言し、カードの前にチップが山のように積み上げられる。
ミスター・レッドは静かに立ち上がると、カードに向かって一礼した。
「見事だ、カード。……だが、ここで勝ったからといって、まだ終わりじゃないぜ」
意味深な言葉を残し、去っていくミスター・レッド。
こうしてカードは、見事準決勝を勝ち抜いた。
決勝戦へ進むのは、カードを含めたわずか4人。
対戦相手は、これまで以上に手ごわい猛者たちだ。
その夜、ホテルの一室。
カードはバスローブ姿でソファに腰を下ろし、冷えたコーラを飲みながら静かに考えていた。
「次で決める……この世界で、私が誰よりも上だと証明してみせる」
月明かりが、カードの決意を静かに照らしていた。
そして翌朝、決勝戦の幕が上がる。




