第22話 カジノのベガス町
翌朝、カードはベッドの上でゆったりとコーラを飲みながら考えていた。
「そろそろ私も、この世界に腰を落ち着ける場所が必要かもしれないな」と。
旅は楽しいが、いつまでも宿を転々とするわけにはいかない。
しかし家を建てるとなると、それなりの資金が必要だった。
「金が要るなら、手っ取り早く稼げる場所はないものか……」
カードは女将に尋ねた。
「この世界にカジノはあるのか?」
女将は少し驚いた顔をしながら答えた。
「ありますよ。ベガス町が有名です。お金持ちも、すっからかんも、みんな集まる町です」
聞いた瞬間、カードは立ち上がった。
「決まりだ。出発の準備をしよう」
町を出ると聞きつけた住民たちが、道に並んでカードを見送った。
川の水を取り戻し、町に活気を取り戻した英雄に、みな惜しみない感謝を伝えた。
カードは微笑みながら、「私にふさわしい舞台は、ここではない」と呟き、堂々と町を後にした。
数日後、カードはベガス町に到着した。
そこは金色に輝く建物が立ち並び、夜も昼もまばゆい光で彩られた、まさに欲望の町だった。
しかし、町の外れには打ち捨てられたようなスラム街が広がっていた。
ゴミが散乱し、瓦礫のような家々が並ぶ景色に、カードは眉をひそめた。
「勝者は栄光を手にし、敗者は捨てられる……か。この世界も、あの世界と変わらないな」
カードがスラム街を歩いていると、道端に倒れている若い女性を見つけた。
まだ少女と呼んでもおかしくない年頃の彼女は、痩せ細り、力なく地面に横たわっている。
「……おい、大丈夫か?」
カードが声をかけると、少女はかすかに目を開けた。
「……た、たすけて……お腹が……」
彼女の名はシュロン。
何日もろくな食事をしていなかったらしい。
カードは腰の袋から大事に取っておいたハンバーガーを取り出し、シュロンに手渡した。
シュロンは震える手でそれを受け取り、涙をこぼしながら一口、二口と必死に食べ始めた。
だが、その様子を遠巻きに見ていたスラムの男たちが数人、にやりと笑って近づいてきた。
「よォ、いいもん食ってるじゃねぇか。俺たちにも分けろよ」
「なぁ、分けろよ!俺たちも空腹なんだよ!」
男たちは一斉にカードに襲いかかってきた。
カードは静かに、しかし冷酷に笑った。
「貧しさは罪ではないが、卑しさは許せんな」
次の瞬間、カードは男たちを軽々と撃退した。
鋭いラリアット一発で、男たちは地面に叩きつけられ、悲鳴を上げて逃げていった。
怯えたシュロンが震えながらカードを見つめる。
だがカードは優しく手を差し伸べ、
「安心しろ。もう誰も奪いに来ない」と微笑んだ。
シュロンは感激し、涙を拭いながら言った。
「お礼に……家までご案内します……!」
シュロンに連れられて、スラム街のさらに奥へと進むと、朽ちかけた木造の小屋に辿り着いた。
壁には穴が空き、屋根は今にも崩れ落ちそうだった。
「ここが、私たちの家です……」
家の中へ案内されると、そこにはシュロンの両親がいた。
やせ細った父親と母親が、よろよろと立ち上がり、深々と頭を下げた。
「娘を……助けてくださって……本当に、ありがとうございます」
カードは腕を組みながら言った。
「私がやったのは当然のことだ。だが――」
一瞬言葉を切り、外のスラム街を見やった。
「ここを出る覚悟があるなら、私が勝ち方を教えてやる。私のようにな」
両親とシュロンは驚き、目を見開いた。
カードの中には、すでにこのベガス町での新たな戦いの炎が燃え上がっていた。
自らの力で、敗者たちに救いをもたらす。
それこそが、次なる「カード劇場」の幕開けだった。




