第21話「筋肉の力、再び町に命を」
険しい湖畔の大地に、緊張した空気が漂う。
カードはゆっくりと両手を上げ、自らのジャケットを脱ぎ捨てた。乾いた音を立てて地面に落ちる。次いで、シャツのボタンに指をかけ、ひとつひとつ外していく。
鍛え上げられた屈強な肉体が朝日を受けて輝いた。鋼のような大胸筋と岩のような腹筋。まるで一個の兵器のようなその肉体に、ワニ人間はわずかにたじろぐ。
カーーーーン
ゴング音が鳴る
「……来い」
カードが低く呟いた瞬間、ワニ人間が雄叫びを上げ、地を蹴った。
巨大な爪がカード目掛けて振り下ろされる。しかしカードは回避することなく、そのままラリアットを放った!
轟音とともに叩きつけられるワニ人間。だがそのまま、ワニ人間はすばやく体勢を立て直し、カードの腕に喰らいついた!
バキッ、バキバキッ!
鋭い歯がカードの右腕に深く食い込んだ。ワニ人間はそのまま噛み切ろうと、力を込める。しかし――。
「……無駄だ」
カードの冷たい声が響く。
噛みつかれた右腕、その筋肉はあまりに硬く、刃のような牙ですら傷ひとつ付けられなかった。
「この筋肉は――刃をも通さぬ」
次の瞬間、カードはワニ人間の体を両腕で抱え上げると、豪快にブレーンバスターを決めた!
地響きを立ててワニ人間が地面に叩きつけられ、周囲の地面にヒビが走る。
ワニ人間は呻き声を上げながら立ち上がるも、カードは容赦しなかった。
鋭い膝蹴り、鉄槌のような拳、圧倒的なパワーで次々と攻撃を叩き込む。
しかしワニ人間もただではやられない。反撃の鋭い爪がカードの顔をかすめ、地面をえぐる。
二人の激闘は長く続き、あたりの木々はなぎ倒され、岩は砕け、湖畔は戦場と化した。
息を切らしながらも、カードはワニ人間を睨み据える。
「終わりだ」
カードはワニ人間の足を両手で掴むと、ぐるぐると回転を始めた。
地面を削るほどの凄まじい勢い。目も眩むほどの回転力でワニ人間を振り回すと、そのまま巨大な滝壺へ向かって投げ飛ばした!
ジャイアントスイングで空を舞ったワニ人間は、断末魔の叫びとともに滝壺へと墜落していった。
ゴォォォォン――!!
水飛沫が高く上がり、やがて静寂が訪れる。
勝敗は、完全に決していた。
カードは静かに立ち尽くし、流れをせき止めていた水力発電の装置を粉砕した。
すると、堰き止められていた湖の水が一気に滝へと流れ出す。
川は本来の流れを取り戻し、ゴウゴウと大地を潤していった。
「これでいい」
一言だけ呟き、カードは町へと戻っていった。
町に戻ると、かつて乾ききっていた川に、清らかな水が再び流れていた。
住民たちは歓声を上げ、子供たちは川辺で水遊びを始め、大人たちは顔を輝かせながら仕事に戻っていく。
工場の男も駆け寄ってきた。
「カード様!本当にありがとうございます!これでコーラの生産が再開できます!」
人々の喜びの声に、カードはふっと小さく微笑んだ。
そして、町の飲食店に招かれ、冷えたコーラと共に手作りの食事でもてなされる。
輝くような水面と、にぎわいを取り戻した町。
カードはグラスを傾けながら、静かに満足げに頷いた。




