第20話「水を奪う者」
朝の陽光が町を照らす中、カードは静かに立ち上がった。川の水が再び止まった今、真実を突き止めなければならない。
コーラを片手にごくりと飲み干すと、カードは無言で宿を後にした。
「また、上流か……」
鋭い視線を前へ向け、カードはひたすら川を遡った。前回、巨大な岩が水を堰き止めていた場所にたどり着くと、そこには彼が破壊した岩の残骸が転がっているだけだった。水はそこでは止まっていない。
「ここじゃない」
そう呟き、さらに川を遡る。険しい山道を進み、緑深い谷間を越えたその先――カードは目を見開いた。
そこには、かつては轟音とともに水を落としていたはずの大滝があった。しかし今、その滝には一滴の水も流れていなかった。
「……滝の上、湖か」
カードはすぐさま滝を迂回し、湖へと向かった。
澄んだ水をたたえた湖。しかし水面には不自然な流れがあり、湖の一角から大量の水が別の方向へ引き込まれているのが見えた。
湖畔に目をやると、そこには人工的に作られた大きな施設――水力発電所が存在していた。川の本流を無理やりせき止め、すべての水を自分たちのために使っていたのだ。
「……勝手なことを」
カードはゆっくりと施設へ歩を進めた。
すると、施設の扉が開き、中から黒いフードを被った男が現れた。男はカードを見るや否や、口元を吊り上げ、手を叩いた。
「食事の時間だ、我が下僕たちよ!」
地面を割って現れたのは、数匹の巨大なアリゲーターだった。牙を剥き、泥まみれの体を揺らしながら、カード目がけて突進してくる。
カードは無言だった。
次の瞬間、彼はアリゲーターたちの間を一瞬で駆け抜けると、豪快な裏拳を一閃。
「無駄だ」
一撃で一匹を吹き飛ばし、別のアリゲーターには足払いからの叩きつけ。さらにもう一匹には跳び膝蹴りを叩き込み、すべてのアリゲーターをわずか数十秒で完全に撃破した。
黒いフードの男が焦った様子で後ずさる。
「化け物め……!」
カードは男に向かって無言で近づいた。
「水を元に戻せ」
低く、圧倒するような声だった。しかし黒いフードの男は首を横に振った。
「できぬ……できぬのだ!あのお方に捧げるため、この力を得たのだから!」
次の瞬間、男の体から黒いオーラが噴き上がった。フードが吹き飛び、肉体が急激に変貌していく。皮膚は鱗に覆われ、口は鋭い牙を持つ巨大な顎へと変化していった。
「――私は、ワニ人間!この命、あのお方に捧げている以上、退くことはできぬ!」
吼えるように叫びながら、ワニ人間となった男がカードに向かって襲いかかる。
腕の鱗は鋼のように硬く、筋肉は膨れ上がり、爪はまるでナイフのように鋭い。
だが、カードの表情は微動だにしない。
「ならば――力でわからせる」
戦いの火蓋は切って落とされた。
この湖の水を取り戻すため、カードは再び己の筋肉を武器に立ち上がった!




