表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/32

第2話 救世主(自称)、村を救う?

「こっちです!こっち!」

 少女は砂埃を蹴って走る。その後ろを、悠然と歩く男が一人。

 ――彼の名はカード。元大統領、現異世界転生者、スキル「セルフファースト」の持ち主。

「ふむ、なかなか良い景色だな。君の案内、合格だ。国務長官にしてもいいぞ」

「え、何その変な称号!?私はただの商人見習いなんだけど!?」

「見習い?なら私の見習いに変更しよう。私を見習えば人生が楽になるぞ」

「うわ、すごく胡散臭い……」

 そんな会話をしながら、二人は緩やかな丘を越えた。見えてきたのは小さな村――石造りの家々が並び、畑が広がるのどかな集落。だが、その穏やかな空気にどこかピリついた緊張感が混じっていた。

「最近、近くに砂竜が出るって噂で、村の人みんなビビってるんです。だから、あなたが倒したって話、きっと希望になりますよ!」

「正確には“倒してない”が、“去らせた”。私の存在感に屈したのだ。つまり威厳による勝利。あるいはカリスマによる勝利。どちらでもいい」

「えっと……うん、まぁ……村長に説明できる範囲で説明するね」

 少女はやれやれと首を振りながら村へ駆け込んだ。


 村の中央。教会跡地の広場には、村人たちがざわつきながら集まりつつあった。

「おい、なんだって!?アリシアが砂竜を追い払った男を連れてきたって!?」

「本当か!?あの砂竜に何人もやられてるってのに……」

「まさかまた詐欺師じゃねぇだろうな?」

「おい見ろ、あれがその……えーっと、名前なんだったっけ?」

「カード様です!」

 元気よく名乗ったのは、案内役の少女・アリシア。栗色の髪を揺らし、やや興奮気味に話す。

「この人、私の目の前で砂竜を撃退したんです!なにもせずに!ただ立ってるだけで、砂竜が寝ちゃったの!」

「……ああ?それ、なんかの薬じゃねぇのか?」

「いやいや、ほんとに!“セルフファースト”っていう謎スキルで!」

「セルフ……ファスト?お前また変な噂に……」

 村人たちの視線が一斉にカードに集まる。カードは悠々と前に出た。そして右手を高らかに挙げて叫んだ。

「民よ、安心せよ!私がこの村の安全を保証しよう!」

「……誰?」

「カードだ。世界の大統領。貴君らに必要なのは、私という存在。それ以外に保証はない」

「なに言ってんだこの人?」

「けど、砂竜が来てないってのは事実よな……」

「村長ー!村長どこー!」

 アリシアが呼ぶと、わらの帽子を被った老人が人混みをかき分けてやってきた。

「なにごとだ、騒がしい……って、ほほう、なんとも立派な……いや、見た目は……立派か?」

「村長、この人が砂竜を退けたんです!私、見たんですから!」

 村長は白い髭をなでながら、カードを見上げた。

「ふむ……何者だ?」

「私はカード。貴君の村の救世主だ。君の役職をひとまず“名誉村長補佐”にしておこう。私がトップとして管理しやすくするためだ」

「なに勝手に肩書き作ってるんじゃ!?」

「肩書きというのは自分で作るものだ。私は大統領時代に“経済の救世主”“平和の守護者”“カリスマ・ビジネスリーダー”など、計47個の称号を自作したぞ」

「……」

 村長はしばし絶句したが、周囲の村人たちがざわつき始めた。

「でも、砂竜が退いたのはほんとにありがてぇ話だぜ」

「確かに、命が助かったって話なら無碍にはできん」

「うちの畑、今朝から荒らされてないし……やっぱこの人のおかげじゃねぇか?」

 気づけば、村人たちの間に「カード様すごい」「救世主かも」という空気が漂い始めていた。

「ふむ、民意が高まってきたな。では、第一命令を出す。私はこの村の最も広い家に住む。食事は三食、肉中心。夜の警備は最低三人、昼寝の時間は静かにすること。以上だ」

「いや、村のルールってものが――」

「支持率は高まっているぞ、村長。今なら選挙をしても勝てる自信がある」

「いや村に選挙制度はないわ!」

 しかし、数人の村人が拍手しはじめ、あっという間に「カード様!カード様!」の歓声が上がる。

「さすが……自己中心的なのに、なぜか支持を得る天才……これが大統領の風格……!」

 アリシアは少し引きながらも、どこか感心していた。


 こうして、カードは村に居候するどころか、「尊敬されているらしい異世界人」というポジションを獲得することになった。

 そして、彼の“セルフファースト”スキルがもたらす影響は、これから村を、世界を、そして神々の秩序すらも……めちゃくちゃにしていくのだった。

 ――次回、「第三話:村の問題を“自分に都合よく”解決せよ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ