第19話「流れを止める者」
「川の水が戻れば、コーラは作れるんだな?」
真剣なまなざしを向けて尋ねるカードに、工場の男は慌ててうなずいた。
「は、はいっ!原料も揃ってますし、水さえ戻ればすぐにでも生産を再開できます!」
「では、元に戻った瞬間――真っ先に私に持ってこい」
「も、もちろんですとも!」
その場でしっかりと男と握手を交わしたカードは、すぐさま町の外へと足を運んだ。目的はただ一つ、上流へと向かい、水の流れを止めている原因を突き止めることだ。
陽の高い青空の下、カードは迷うことなく川に沿って歩く。次第に道は山道に変わり、川幅も狭まり、やがて流れがぴたりと止まった場所に辿り着いた。
そこには、巨大な岩が川を完全に塞ぐように鎮座していた。
「これか……」
岩はまるで誰かが意図的に置いたかのように川の中心にのしかかっており、自然に転がり落ちたものとは思えなかった。カードは岩の前に立ち、腕を組んで数秒ほど黙考する。
そして静かに――腕を振り上げた。
「フル・パワー・チョップ」
振り下ろされた一撃は、大気を震わせる音とともに岩の中央をまっすぐに割った。ビキッとひびが入り、岩はゆっくりと崩れ、轟音を立てながら崩壊していった。
――そして、川の流れが蘇る。
ごうごうと音を立てて水が勢いよく下流へと駆け下っていく光景を、カードは腕を組んだままじっと見つめていた。
「これで、コーラが蘇る」
町に戻ると、工場から走ってきた男がカードの前に立ち止まり、肩で息をしながら歓声を上げた。
「すごいです!水が戻ったって連絡が入りました!本当にやってくれたんですね!」
「約束は守れ。私は飲食店で待っている」
「はいっ!すぐに冷やして、一番乗りでお届けします!」
夕暮れ時、カードは飲食店のカウンター席に座っていた。すでに厨房からは香ばしい香りが漂い、店員たちは彼のために料理を準備していた。
すると、扉が勢いよく開き、工場の男が駆け込んできた。その手には――氷が入った木製の桶、そしてその中には、しっかりと冷えた茶色の瓶。
「お待たせしました!これが、ショージ町特製のコーラです!」
カードは一言も発せず、瓶を取り上げる。栓を抜くと、ぷしゅっという軽快な音とともに泡が立ち昇った。
そして一口――
「……この刺激、この甘み、この温度……」
わずかに微笑んだその表情に、店の者も工場の者も安堵の笑みを浮かべた。
「満足だ」
その一言に、場の空気が一気に和んだ。店の女将が微笑みながら言った。
「あなたのおかげで町が助かりました。よければ、しばらく泊まっていってくださいな。食事もお任せを」
「うむ、それも悪くない」
翌朝。
カードは宿の食堂で朝食をとっていた。目玉焼き、香ばしいトースト、そして昨日と同じくキリリと冷えたコーラ。外から差し込む朝日と、ささやかな幸福感がカードを包む。
そこへ、またしても工場の男が駆け込んできた。汗だくで、顔は真っ青だった。
「た、大変です!また……また川の水が止まったんです!!」
カードはフォークを置き、瓶の中のコーラをひと口含んだまま目を細めた。
「……これは、偶然ではない」
静かに立ち上がるカード。その瞳には、次なる事件の予兆がしっかりと映っていた。
「誰だ……私からコーラを奪おうとする者は」
彼の戦いは、まだ終わってはいなかった――。




