第17話:カマキリ男との決戦と、運命のハンバーガー
森の入り口、夕焼けの薄明かりが差す中で対峙する二つの影――
ひとつは黒いオーラに包まれ、巨大な鎌を構えるカマキリ男・グラティウス。
もうひとつは、上半身裸で筋肉を誇示するカード。
グラティウスが再び鎌を振りかざし、空を裂くような音と共に真空の刃が飛ぶ。
「ハアッッ!!」
カードは一歩も引かず、全身の筋肉を震わせながら右腕を振り抜いた――
バァンッ!!!
大気が揺れ、風が反転するように炸裂する。
カードのラリアットが放たれた真空刃を正面から粉砕したのだ。
「……私の筋肉は、そんな風の刃では切れん」
淡々と、しかし底知れぬ威圧感を持った声。
その言葉にグラティウスは一瞬たじろいだ。
「な、何者だ……貴様……!」
「カードだ。元・某国の大統領。そして今は、ステーキとハンバーガーをこよなく愛する転生者」
そう名乗るカードの目には、どんな災厄も超えていく確信があった。
戦いは熾烈を極めた。
グラティウスは鎌を回転させて真空の刃を連発し、跳躍しながら鋭く切りかかる。
だが――
カードはそれらをすべて、ステップでかわし、腕で受け止め、時にはプロレスの要領でカウンターを叩き込む。
「喰らえ、ジャーマンスープレックス!」
「ぐあああああっ!!」
その一撃で地面に叩きつけられたグラティウスは、立ち上がることすらままならなくなった。
カマキリの姿が崩れ、彼の身体から黒いオーラが抜けていく。
グラティウスは元の人間の姿に戻った。
カードは静かに近づき、右手を振り上げて叫ぶ――
「貴様は……クビだ!!」
その言葉と共に、グラティウスは意識を失い、戦いは終わった。
感謝と再生、そしてハンバーガー
その時だった。森の中から、何人もの農家たちが駆け寄ってきた。
「カ、カードさん!麦が……!」
「馬車の麦が無事です!あんたが間に合ってくれたおかげで……!」
農家たちは涙を浮かべながら、カードに駆け寄ってきた。
そして誰もが口を揃えて、こう言った。
「本当に、ありがとうございました!!」
カードはその言葉に、ほんの少しだけ目を細めた。
自分のため、いや……ハンバーガーのために戦ったことが、誰かの笑顔に繋がっていた。
カンザシ町のハンバーガー
その日の夕方、町の中心で小さな祝賀会が開かれた。
小麦が戻ったことを祝い、農家たちが慌ててパンを焼き、肉を焼き、野菜を炒め、即席で“ハンバーガー”を作ってくれたのだ。
「これが……この世界での、初ハンバーガー……!」
カードはゴクリと唾を飲み込み、両手で大ぶりなバンズを持ち上げた。
カリッと焼かれたバンズ、香ばしい肉の香り、そして瑞々しい野菜たち。
一口噛んだ瞬間――
「――うまい……!」
思わず、カードの目が潤んだ。
「ステーキとは違う、柔らかさと調和……これだ……私の求めていた味は……!」
農家の人々が見守る中、カードは最後まで無言でそのハンバーガーを堪能した。
ただ静かに、ひたすら満足そうに。
こうして、カンザシ町の小麦騒動は幕を下ろした。




