第16話:鎌を振るうカマキリ男!献上された麦と黒いフードの謎
冷たい朝の空気の中、カードは町役所の前に立っていた。
湯上がりのタオル一枚という、前代未聞の装いで。
「……服など、戦うにはむしろ邪魔だ」
自信満々にそう呟きながら、堂々と正面玄関から中へ入った。
しかし――
「きゃあああああああああああ!!」
「ちょっ、何してるんですかカードさん!」
役所の女性職員たちが一斉に叫び声をあげ、書類を投げ出して逃げていく。
「お、おい……何を騒いで……はっ」
カードはようやく気づく。
世間一般の常識では「タオル一枚で役所に突入」はセクハラどころか、軽犯罪扱いされてもおかしくない。
「……さすがに、私といえど世間のルールは無視できんか」
そう呟くと、踵を返して再び農家の家へ戻り、ちゃんと服を着て出直した。
白のシャツに黒のジャケット、ビジネスシューズを決め込んだスタイルで再登場したカードに、さっき悲鳴を上げた女性たちもひとまずホッとした様子だった。
謎の男と献上された麦
町長室の扉を開けると、奥の椅子に黒いフードを被った人物が座っていた。
「……あの麦、小麦畑の麦はどこへ行った」
カードの声は低く、威圧感に満ちていた。
その問いに対し、男はふっと笑う。
「……あれは、“あのお方”へ献上するため、夜のうちに馬車で搬送した。すでにこの町を出たはずだ」
「……あのお方?」
カードの眉がぴくりと動いた。その名前、既視感があった。
「その麦……誰かの胃に収まる前に、私が回収する」
カードは踵を返し、馬車の行方を追うため町外れへと駆け出した。
馬車とカマキリの正体
町の外れ、小麦の匂いを残す轍の跡を辿ると、馬車の集団が森の手前でのんびりと進んでいるのが見えた。
「間に合ったか……!」
カードが追いつこうとした瞬間、背後から鋭い殺気が走る。
「逃がさん……!」
カードが振り返ると、黒いフードの男が飛びかかってきた。
先ほどの町長室にいた男だ。彼は全速力でカードに詰め寄ると、腰を低く構え、短剣を抜いた。
「麦は献上された。邪魔をする者は、“あのお方”の敵だ」
「誰だ、お前は?」
「私はグラティウス――あのお方に忠誠を誓う者。そして、あのお方に力を与えられ選ばれし変身の使徒だ」
グラティウスはそう言うと、体から黒いオーラを放ち始めた。
「これが……変身だッ!」
その瞬間、黒いフードが爆ぜるように破け、代わりに出現したのは――
巨大なカマキリの姿をした怪人だった。
緑色の外骨格、鋭い複眼、そして何よりも恐ろしいのは、腕から伸びた鎌のような武器。
「その姿……まさかお前が小麦を刈ったというのか?」
「その通りだ。私の鎌が振るう風――“真空刃”で、一晩にして全てを刈った。あのお方のためにな!」
叫ぶと同時に、グラティウスが鎌を振るった。
シュッ!
空気が裂け、目に見えぬ刃がカードの横を通過し、森の大きな木を真っ二つに切り裂いた。
「これは……危険だな」
カードは軽く笑みを浮かべると、ゆっくりとジャケットを脱ぎ捨てた。
「だが私は、ハンバーガーを諦めるつもりはない」
カーーーーン
ゴング音が鳴る
カマキリ男・グラティウスが迫る!
カードがラリアットで迎え撃つ!
しかし――ここで次回に続く!




