第15話:消えた黄金の麦!小屋の罠と一晩の奇跡
カンザシ町の片隅、素朴な農家の家にて。
カードは質素ながら温もりある布団にくるまり、束の間の眠りを取っていた。
窓の外では雨が静かに降り続いており、カードはそれを心地よく聞きながら思った。
「これで……ようやく小麦も育つだろう。あとは、ハンバーガーの完成を待つばかりだ」
この世界でステーキを手に入れたカードは、次なる好物――ハンバーガーに向けて動いていた。
カンザシ町の小麦こそが、その計画の中核をなすものだった。
再びの異変
夜が明けて間もなく、農家の家主・エッカがバタバタと部屋の戸を開けて駆け込んできた。
「カードさん、大変です! 雨が止んで、また暑さが戻ってきちまいました!」
「……なんだと?」
カードは布団を跳ねのけると、すぐさま外へ飛び出した。昨日までの潤いはどこへやら、空は雲一つない快晴に変わっていた。肌を刺すような熱気が大地を焦がしている。
「まるで……昨日と同じ魔導装置が、どこかにまだ稼働しているかのようだな」
すぐさまカードは町役所へと向かい、裏手にある“気象研究室”へ。
だがそこにあったのは、昨日自らの手で破壊した装置の残骸だけだった。
「……となると、別の場所に“もう一基”あるということか」
麦畑に潜む“第二の装置”
カードは町の地図を見直しながら、風と地下水の流れ、気温の変動の方向を注意深く分析した。やがて、小麦畑の中心付近にぽつんと建てられた、使われていない古びた小屋に目が止まる。
「……あそこだ」
迷いなく小屋へ向かい、扉を蹴破る。
中には昨日と同型の“気象制御魔導装置”が轟々と動いていた。
「やはり、ここにあったか!」
カードは両手を広げ、渾身のプロレス技「セルフ・アックスボンバー」で装置を粉砕。
機械が崩れ落ちると同時に、再び空が曇りはじめ、夕暮れの空に雨が降り出した。
「これで終わりだ……今度こそ、間違いない」
一夜明けて、さらなる衝撃
雨音を子守唄に、カードは再びエッカの家で休息を取った。
翌朝――彼はのんびりと家の裏手にある小さな銭湯に湯を張り、ひとり湯に浸かっていた。
「ふぅ……やはり湯というものは、肉体の再生には欠かせん」
そこへ、顔面蒼白のエッカが飛び込んでくる。
「カードさん! 大変です! 小麦が……小麦が全部、刈られてます!!」
「……なんだと?」
カードはすぐに浴場から飛び出す。湯を拭く暇も惜しみ、バスタオルを巻いたまま畑へと駆けていった。
そこには、無残な光景が広がっていた。
まるで戦場のように整然と、小麦が一列残らず刈り取られている。まだ若く、収穫には早すぎるはずの小麦が、一夜にして跡形もなくなっていたのだ。
「こんなこと……普通の人間にできる芸当じゃない」
カードは膝をつき、麦畑に残されたわずかな痕跡を探る。
そして見つけた。地面に刻まれた――何かを「引きずったような痕跡」。しかも、それは一本道となって町役所の方へ続いていた。
「……まさか、役所が関わっているのか?」
カードはタオルを絞り、気合いを入れるように声を出した。
「よし。ならば、聞きに行こうか。町の中心に、真実があるのなら」
タオル一枚で町役所へと向かうカード。その背中に、朝日が燃えるように輝いていた。




